映画『バードマン(以下略)』ダラダラ感想文(※ネタバレなし)

《推定睡眠時間:5分》

悪魔の声?いや、バードマンの声が囁く。「映画やれよ、『バードマン4』。そしたらお前は再起できるさ。所詮お前にゃ、バードマン役しか出来ないんだ」
「うるせぇ!バードマンなんてクソくらえだ!俺は…俺は…俺は単なるヒーロー役者なんかじゃないんだ!」
で、その男は自ら脚本・演出・出演をこなす舞台に命を懸けるんである。成功すれば証明できる。単なる一発屋でも落ち目のダメ俳優でもない、ホンモノの俳優だってコトが…。

ロバート・アルトマンの『ザ・プレイヤー』(1992)とゆー映画があって、ハリウッド内幕ものなんですが、なにはともあれ冒頭がスゴイ。
8分間の長回しで、カメラは大手映画会社のオフィスをウロウロする。コッチじゃ売れない脚本家が売り込みかけてる。アッチじゃ重役連中が「『卒業2』なんて作ったら売れるんじゃないか?」とかバカな会議中。

役職は覚えてないが、プロデューサーだかのオッサンがメッセンジャーボーイとこんなコト話してる。「昔の映画は良かったよ。『黒い罠』の長回しはサイコーだね。あれこそ映画さ」(この長回し自体『黒い罠』のオマージュ)
「でも、『ビギナーズ』も長回しだったぜ?」「…観とらん」
まったく、ハリウッドのお偉方ときたらバカばっかだなぁ。と、ボケーっとしながらハリウッドを皮肉るアルトマンなのだった。

ダメ俳優が手掛ける舞台の、その舞台裏の長回しから始まる『バードマン』なんで、観てて真っ先に浮かんだのがこの映画だった。内輪ネタ満載、皮肉たっぷりってのも同じ。
しかしコッチの長回しは8分どころじゃなかった。120分くらいである。いや当然、『ロープ』(1948)方式で分かんないようにカット繋いでるが。

そんなワケでほぼ全シーン一つなぎになった『バードマン』ですが、時間はもうビュンビュン飛ぶ。『エルミタージュ幻想』(2002)でもやってたが、ココでは舞台の前日から初演までが一つなぎ。
混乱に次ぐ混乱、妄想と現実がゴッチャになって、観てるコッチはナニガナンダカ、ってな感じ。でも主人公のダメ俳優は舞台に人生を懸けてんだから、その脳内を覗いたらこんな風になってんだろな、多分。

脳内を覗く、といえば俳優ジョン・マルコヴィッチの脳内にそのまんま入り込む『マルコヴィッチの穴』(1999)の脚本家、チャーリー・カウフマンが脚本・監督を手掛けた『脳内ニューヨーク』(2008)っつーのがあった。
これまた舞台のハナシで、巨大なニューヨークのセットと膨大な俳優を使った舞台を実現しようとする劇作家だったが、何十年経っても一向に上演まで至らない。んで、劇作家は段々と、舞台と自分の人生を混同し始めんである。

映画にせよ舞台にせよ、ショービズの世界で生きる人たちはタイヘンである。とくに国自体がショーと化したアメリカではタイヘンにタイヘンらしいので、ハリウッド内幕映画なんかじゃよく妄想と現実とショーが入り混じる。
振り付け師で映画監督でもあるボブ・フォッシーの自伝的なハリウッド内幕映画『オール・ザット・ジャズ』(1979)は『バードマン』と共通するトコロ多いと思うが、コレもやっぱり妄想と現実とショーが入り混じる映画なのだった

妄想と現実のハリウッド内幕映画っつーと『マルホランド・ドライブ』(2001)なんてすげー好きな映画なんですが、ソコで成功を夢見る売れない女優を演じたナオミ・ワッツが『バードマン』にも女優役で出てくる。
『マルホランド・ドライブ』のパロディと思しき場面も出てくるが、劇中劇でナオミ・ワッツのお相手役を務めんのはエドワード・ノートンだ。

かつて「バードマン」なる映画でスーパーヒーローを演じた主人公の俳優を演じんのが、『バットマン』(1989)でバットマンを演じたマイケル・キートン。
劇中、妄想のバードマンが「お前は1992年から落ち目だ」みたいなコトをキートンに言うが、1992年はキートン最後のバットマン映画『バットマン・リターンズ』が公開された年だ。んでエドワード・ノートンもまた『インクレディブル・ハルク』(2008)でスーパーヒーロー・超人ハルクを演じたのだった。

ついでに言えばノートンは大ケッ作妄想映画『ファイトクラブ』(1999)の主役でもあり、そこでの彼は妄想の中の自分に脅かされる。『バードマン』と同じくだが、その行き着く先も大体同じなんであった。
…ってな具合に色んな映画を薄く浅く引き合いに出したが、『バードマン』がどーゆー映画かっつーとそーゆー映画なのだ。

監督のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥは群像劇を得意とする人で、それ繋がんねーだろと思われた人間関係を強引に繋いでく作風。
この映画はそれまでのアレゴ群像劇って感じじゃないが、やっぱり繋がないと気が済まないんでカットを強引に繋ぐのだった。『ムカデ人間』(2009)みたいな監督である。

カットだけじゃなくてパロディもひたすら繋ぐ。なので、ナント映画の最後にはスパイダーマンとアイアンマンとトランスフォーマーが戦うとゆー驚愕のシーンすらある!
現実と妄想とパロディを舞台の上で全部くっつけるとゆー荒業に出た映画なので、映画マニアならアハ体験間違いナシだ!

…え、俺?いや、俺は映画マニアじゃないんで、そんなに面白くなかったです。

たとえば、後半にバードマンが「お前ら、爆発とか銃撃戦とか、そーゆーバカみたいのが好きなんだろ?重いシリアスなハナシじゃなくてさ」と観てる人に画面越しに語りかけるシーンがあるが、こーゆートコがつまんない。
バカみたいなハリウッド映画と、それを喜んで受け入れる観客に対する皮肉ってのも分かるが、もっとスマートにできないの?みたいな。いや別にバカみたいな爆発とか銃撃戦とか好きだから言ってるワケじゃないが。

アレゴはバカバカしいシーンでも過剰に重くしようとしたり、俳優に悲しい演技させる時は「悲しぃぃぃ!」って叫ばせるよーな演出をつける。『バードマン』は通俗性とか商業性をシニカルに批判するような映画だが、それまでのアレゴ映画はとても通俗的なんである。

いやもちろん、それに対する自嘲を込めた映画って風にも取れるが、ひたすら自己言及と自嘲の殻にこもった映画なんて面白いワケない(個人的に)
強引さとアツさが面白かったのに、そーゆーアレゴ的な面白さが全然ないのが『バードマン』なのだ。

別に、今までの作風と違うからあんま面白く無いって言いたいワケじゃあない。今までの作風と違うけど、かといって別の魅力がそんなに感じられないからあんま面白くないって言いたい。
アレゴがこの前に撮った『BIUTIFUL ビューティフル』は狂熱の群像劇ばっか撮ってたアレゴにしては意外なスピリチュアルな人間ドラマだったが、泥臭くも神秘的な幻想と、それに抗うようなハビエル・バルデムの野蛮なツラが魅力的なケッ作だった。

でも、パロディだらけの『バードマン』はそーゆー感じあんま無い。シニカルな視点はアレゴ的に新機軸かもしんないけど、それが面白いかと言えば、切れ味鈍くてあんま面白くない。120分ノーカットの撮影はスゴイし面白い。でも、グっとくる映画的瞬間ってヤツはあんま無い。
ハリウッド&ブロードウェイ内幕ものなのに、映画愛とかギョーカイ的な面白さもあんま無い(別に映画が面白けりゃ無くてもいいが)

とゆーワケであんま面白くなかったのだった。「あんま」なので、そこそこは面白かったけど。
ただし!キートンの娘役のエマ・ストーンはマンガみたいに目まぐるしく表情を変化させて、コレがなにか化け物みたいですげー面白かった。

※無意味なネタバレ
困ったら鼻を折ったらいいらしい。

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劇中では(明示的にじゃないが)どーでもいい映画扱いされる『バットマン・リターンズ』ですが、大ケッ作です。
バカでキッチュなのに、こんな切ない映画ってなかなか無い。
『バードマン』が気に入った人も気に入らなかった人も、コレ観とくと『バードマン』がもっと楽しめるのは間違いナシ!

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