観てきたぞ!テリー・ギリアム最新作『ゼロの未来』!(※ネタバレは最後に少しある)

ブラックホール。
ハゲ男が浮かんでる。
全裸で。

なにかと思うが、そんな感じで映画は始まる。
そしてハゲ男(クリストフ・ヴァルツ)がやっぱり全裸でオシャレなパソコンに向かってて、んでコントローラー手にゲームかなんかやってる。
電話がかかってくる。ハゲ男は飛びつくが、すぐに切る。そしてまた次の電話。出る。すぐ切る。
誰かからの電話を待ってるらしいが、どうやら望みの電話は来なかったらしい。
全裸でパソゲーやって、電話を待つか。
ははは、こーやってパソコンで感想書きながらちょくちょくツイッター見ちゃう俺みたいだな。
いや、俺は別に全裸じゃないが…。

さて、時間だ。ハゲ男は服を着る。彼がいるのは廃教会。ソコが彼の根城らしい。
蛍光色に輝く試験管みたいの取り出して、いざ外へ。
すると広がってんのはカラフルでポップでゴミだらけの近未来。
目にも耳にも広告が街を埋め尽くして、ちょっと歩くと壁面に設置された追尾広告が追ってくる。
まったく、イヤなような楽しいような近未来だナ。

会社。
ハゲ男がデスクでまたゲームやってる。
そこでよーやく分かったが、ハゲ男がやってんのはゲームじゃなくて、ゲームっぽいインターフェースを採用した解析の仕事なのだった。
ハゲ男は『マリオカート』やってるみたいに体をコントローラーに合わせてよじらせながら、なんか個人情報解析して各々に最適な人生だかなんだかを探してたのだ。
試験管っぽいのは未来のフラッシュメモリ。
摩訶摩訶不思議な映画だナァ。

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http://movieboozer.com 地味とかなんとか書いてますが、しかしとてもポップなのです。そんな中にも至るところに風刺があり、この画像は公園のシーンなんですが、よく見ると大量の禁止事項の中にスマイルが入っちゃってたり。

『ゼロの未来』はそーゆー映画なんですが、とりあえず面白いか面白くないかっつったら、マァ面白いに決まってるワケですよ。俺ギリアム大好きなんで。
だけどギリアムに思い入れない人はどーでしょ?
エライ地味な映画で、相変わらずイマジネーション大爆発も、ハナシの半分以上はハゲ男が教会で鬱々してるシーン。
ある意味サンバーパンクSF映画ではありますが、なにか、SF!みたいの期待すっとツマンナイんじゃねぇの?
ギリアムっつったらファンタジーっしょ!って人も多分、ツマンナイよ。

のっけからネガティブなコト書いたが、どーせネガティブな人(ハゲ男)の映画なんで、マァいーじゃん。
それにコレ「あー楽しかったー!」みたいな映画じゃないけど、すげーイイ映画だと思いますよ、俺。
ゴチャゴチャしつつもポップな未来社会(秋葉原を参考にしたとか、してないとか)とか、凝りまくったミョーちきりんな小道具の数々なんて見てるだけで楽しい。
笑える小ネタも満載だし、暗闇の中にステンドグラスから一条の光が差し込む教会のムードもホント素晴らしい。
ヴァルツの過剰なコミュ障演技、上司役のデヴィッド・シューリスの絶妙なウザさとかサイコーだ。

それにやっぱり、ストーリーにグっとくる。
やってるコトの基本はいつものギリアム映画と同じなんだけど、いつもより暗いハナシなのにいつもよりひょうひょうとしてて。
なので、ストーリーの感想とか書いてく。
マァ映像なんてコトバにしてもしょうがないし。

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http://observationdeck.io9.com それにしても、このシーンだけで既に物凄い情報量。一瞬だけしか出てこないゴミ箱もとてもファニーなデザインで、そのディティールの凝りようはハンパでない。

教会と会社を行ったりきたりするだけのタイクツでストレスフルな日々。
ハゲ男はウルトラネガティブなコミュ障になっていた。
なので、在宅勤務を希望する。
ソレで少なくとも、ノイズだらけの外界から遠ざかれる…。

こうして在宅勤務と相成ったハゲ男に与えられた仕事は「ゼロ」の解析。
今まで何人もやってきたが、成功したヤツはいない。
ハゲ男もやってみるが、97%くらいは解析できるのに、その先が進まない。
会社の部長さんは言う。ゼロは100%じゃなけりゃならない!(?)
果たしてゼロは完全に解析できんのか…?

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http://littleboyreports.com 『未来世紀ブラジル』。ファイルキャビネットの壁はポスターやVHSなんかのジャケットでお目見えしましたが、それでもやはり未練はあるらしく、ギリアムは数年前に参加した美術展にファイルキャビネットの壁のインスタレーションを持ち込んだ。

ところでコレ、ギリアムのオリジナル脚本じゃないが、不思議と物凄くギリアム的なハナシである。
ギリアムが一貫して描いてきたテーマってのは要するに「死をどう乗り越えるか、どう克服するか」ってコトだった(コッチに書いたぞ!)
ゼロってのは虚無とか死なんで、解析でもってそれを乗り越えようとするハゲ男の姿は、全くもってギリアム的なのだった。

ゲーム的インターフェイスなんで、ゼロの解析画面はパズルゲーム。
宙に浮かぶ巨大なパズルを解いてくが、そんな仕事だった俺もやってみたい。
米軍がゲームみたいに無人機を操作する時代なんで、仕事がゲームになるっつーのはもちろん風刺なのかもしんないが、絵面はむしろ『未来世紀ブラジル』(1985)。
現実に嫌気が差した主人公がソコから逃避して、夢の中で大空を舞うのが『未来世紀ブラジル』だったが、その光景はパソコン画面の中のパズルに没頭するハゲ男に変換されんである。

ギリアムが未練タラタラだった『未来世紀ブラジル』の有名な未撮影シーンは、夢の中の大空を遮って聳え立つ巨大なファイルキャビネットの壁、というもの。
今の時代に合わせてか、ファイルキャビネットの壁はゼロの解法の書かれた巨大なパズルになったのだった。

http://www.catwalkyourself.com
http://www.catwalkyourself.com 『ブレードランナー』。この光景にカラフルなペンキぶちまけて、ユーモアをいっぱいふりかけると『ゼロの未来』になります。

『未来世紀ブラジル』に接続されるラインは他にもあって、『ゼロの未来』には膨大な個人情報の入った巨大サーバーが出てくる。
このサーバー火力発電所かなんかの冷却塔みたいなカタチしてるが、『未来世紀ブラジル』のラストシーンが撮影されたのは廃炉になった火力発電所の冷却塔(だったと思う)なのだった。

ソコでふと思い出すが、『未来世紀ブラジル』はリドリー・スコットの大ケッ作『ブレードランナー』(1982)のアンチテーゼ的な意図もあった。
『ゼロの未来』の未来都市の描写は『未来世紀ブラジル』的でもあるが、むしろその広告とゴミの氾濫っぷりは『ブレードランナー』の未来都市にとても近い。

ギリアムはリドスコと『ブレードランナー』への敵愾心を隠そうともしない。
「『ブレードランナー』は名作たりえたのに、ラストで台無しになったね」ぐらいなコト言ってんので、『未来世紀ブラジル』に続いて『ゼロの未来』もまた『ブレードランナー』のアンチテーゼと言えそうな気がしないでもない。

『ブレードランナー』はSF作家フィリップ・K・ディックの長編小説を原作としてるが、リドリー・スコットはディックを理解していない!として、ならば俺がとギリアムはディック原作の映画化に一時期執念を燃やしてた。
そのディックの短編に『CM地獄』とゆーのがあり、コレ追尾広告の恐怖を描いたハナシだった。
『ゼロの未来』の壁面追尾広告(ニュッと動いて面白い)はグーグルのトラッキング広告のパロディかと思ったが、ディックからの頂きの可能性もありそうである。

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http://www.entre-chien-et-loup.be 全編主人公の一人称、かつ99%がパソコン画面という異色の映画『トマ@トマ』。このシーンはたしか、宇宙を舞台にしたヴァーチャルセックスしてるところ。

大分逸れたんでハナシに戻る。
マァそーゆー感じで一人孤独にゼロ解析に挑むハゲ男の下にエロい女がやってくる。
この人ネットを介したヴァーチャル・セックスでウリやってるネット娼婦で、ハゲ男は彼女とのヴァーチャル・セックスと恋愛にのめり込む。
ソレ用のヘンなスーツ着てログインすると、彼女と二人っきりの楽園にひとっ飛び。
ヤシの木なんか生えちゃってる美しい浜辺だが、汚い現実から逃れて美しい浜辺に現実逃避、とゆーのは『未来世紀ブラジル』の元になったアイディアなのだった。

コミュ障の孤独な男がネットを介したヴァーチャル・セックスに、とゆーと『トマ@トマ』(2000)って映画があった。
単に偶然だと思うが、結構共通するとこあるんで一応書いとく。

ここから映画は混乱してく。
シーンはビュンビュン飛んで、なにか会話をしてるようだが、なにを話してんのか全く分からない。
一体なにが起こったのか?

…と思ったら、あぁなんだ、俺がつい寝ちゃってただけか。
ナカナカ地味なんで、眠気を誘う映画である。
もちろん、悪いコトではない(俺も映画も!)

そんなワケで、中盤を一気にすっ飛ばしてラストに進む。
ネタバレ出てくるんで、注意。

http://cinefex.com
http://cinefex.com 全てはゼロに。それはまた母胎に戻る、とゆーコトでもある。

果たしてゼロの定理が見つかったかどーかと言えば、見つからなかったのだった。
そんでハゲ男が愛したネット娼婦が会社に雇われて彼に近づいたコト、更にはゼロの解析に挑む彼自身が会社に監視されてたコトも判明。
詳しいコトは分からんが(寝てたんで)、なんかアレだろ、ゼロの解析に挑むハゲ男を会社は解析しようとしてたんだろ、多分。

そんなワケでハゲ男大混乱。
ずっと待ってた救いの電話(それは多分、神のコトバだったろナ)も結局来なかったんで、いよいよ壊れる。
ウワァとなって、『未来世紀ブラジル』の主人公が自分を縛る書類を撒き散らしたように、巨大サーバーを破壊する。
溢れ出る個人情報。無数の人生。ソレが全てブラックホールに呑み込まれて、ハゲ男もまた自ら身を投じる。
全てはこうして、ゼロへと還っていった…。

気がつくと、ハゲ男はネット娼婦と逢引を繰り返したヴァーチャルな浜辺にいた。
今度はハゲ男ただ一人。
ヴァーチャル空間だから、全部彼の思うまま。ふっと太陽に手を伸ばせば、ビーチボールみたいに飛んでいく。
画面暗転。ネット娼婦の声。

「ねぇ?大丈夫?ねぇ…」

ハゲ男は答えるコトなく、ただ狂ったように笑うのだった。

http://www.o-cinema.org
http://www.o-cinema.org ブラックホールの冷たい暗黒から夕陽の優しい光へ。天国みたいなヴァーチャル・セックス空間は、『未来世紀ブラジル』の原イメージ。

とてもポップな、暗いラスト。
これまたほとんど『未来世紀ブラジル』の絶望的なラストと同じである。
ただコッチは、絶望は絶望でももっと穏やかな絶望に思える。
ゼロは解析できない。死は逃れられない。
まだ社会を乗り越えるべき敵=死と捉えてた感のある『未来世紀ブラジル』より一層根源的な絶望である分、そうでしか生きられねぇかと諦めもつくってもんである。

『ブレードランナー』のラストにギリアムが不満だとか言うのは、たぶんそのへんだと思う。
死との闘争によって明るい未来がもたらされる、とゆーのが『ブレードランナー』のラストだったが、ギリアムはそのようには(恐らく)考えてないのだ。

だからスタッフロールの後、ハゲ男が密かに救いを求めてたキリスト(像)が会社、とゆーか管理社会と繋がってたってシーンがあるとしても、ソレは単に現代社会で神(または神への祈り)がそーゆーカタチをとるってコトを風刺してるだけで、それ以上の意味はない。
絶望も怒りもない。そんなコトは人生にさして関係ない。結局、自分の死とは関係ないんだから。

ブラックホールに呑み込まれるラストは、ブラックホールからハゲ男が新生児として生まれる冒頭に繋がる。
ネットと現実、愛と孤独、生と死を行き来しながら、一喜一憂しつつ人は生きてく。
いや当たり前なのだが、その当たり前を苦笑いしながら肯定すんのがこの映画の妙な明るさで、なにか単純な解法の提示やハッピーエンドにはないある種の重さである。
ソレをポップに見せてくれただけでも、俺はこの映画観て良かったなって思ったよ。
寝たけどね。

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『ゼロの未来』とは共通点がとても多い。
併せて観て、ギリアムの思想の変遷を追うのもまた一興。

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