『バケモノの子』は電波ビンビン映画なのであったという感想(途中からネタバレある)

嫌なことが重なったのであてどなく渋谷をブラついてた家出少年が裏渋谷な妖怪の国に行ってなんか色々経験する映画。
あれだな家出少年・九太くんの少年時代の声をアテてんのは宮崎あおいらしいが知ってビックリ。本職の声優さんかと思った。メインキャストの半分以上が声優じゃない有名どころの俳優さんで固められてる中ひときわ輝く宮崎おあい。他の俳優さんもなんか良い感じでしたよね役所広司とかいや他に誰出てたか忘れましたけど。

ほんでアニメはそれほど見ませんからよくわからないのですが作画とかよい気がしましたし九太くんとその親代わり妖怪役所広司のダメ人間同士の師弟っつーか擬似親子関係なんて観ててホッコリしますしあと少年時代の九太くん超カワイイ。
とても面白かったのですがどこが面白いかって実はキュート九太くんと役所広司の交流とか成長がとかそんなんでなく愉快な妖怪たちがとかアクションが云々とかそういうことでもなく九太くんが無職小卒18歳に成長してからの展開がですねこれがなんかすごい。あまりに唐突にトーンが変わるというかお話が崩壊し始めなにがなんだかよくわからないがなんかすごいぞ細田守!

(※久々に読み返したら自分で読めなかったので読めるように書き直してます。ネタは盛大にバレます)

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しかしおもしろいのは最後の方なのですが前半四十分ぐらいのふんわり妖怪生活っぷりも良かったのです。九太くんが初めて役所広司と食事を共にするシーンであるとかこっそり役所広司のモノマネをするシーンであるとか何気ない妖怪的日常風景の中で二人の交流と成長が描かれてしあわせ感。
あぁええな。妖怪の国の夕暮れとか二人が一緒に修行してる背後で四季が移り変わってくとことか。なにやら郷愁が漂いささやかな感動と幸せがいっぱい。かわいい男の子と妖怪って最強よね。

しあわせな日々だったがしあわせ過ぎて浦島的に時間の経過を忘れてしまい気付いたらチン毛が生え揃っていた。もう可愛くないのでくん付けのいらない九太18歳、焦る。あれ、俺ってもしかして小卒じゃね? つかニートじゃね? 人間の友達ひとりもいなくね? …詰んでね?
お化けにゃ学校も試験もないっぽいので役所広司は小卒ニートを気にしないのだったが、まだ人間界に微未練のある九太は妖怪の国を出て渋谷図書館に行ってみる。よくある妖怪の国ものだと大抵は簡単に人間界に戻れないものですが副都心線一駅くらいの感覚ですぐ戻れたのでこの妖怪の国は便利。

渋谷図書館。なんとなくメルヴィル『白鯨』を読んでみる九太だったが学校とか行ってないんで案の定全く漢字が読めない。困ったので隣で本読んでた友達のいなそうな女子高生になんて書いてあんのか教えてもらう。昼間っから図書館に来て本を読みながらなにかブツブツ言ってるボロTシャツの男なんだからいくらイケメンだとしてももう少しこの女子高生は警戒した方がよい。

さて閉館時間が迫り女子高生が家に帰ろうとすると、図書館なんだから静かにしろよテメェらうるせぇんだよクズ殺すぞとそこまでは言ってないがなんか騒いでたので注意したリア充高校生グループが外で待ち構えていた。
テメェうぜぇんだよと数人がかりで女子高生をいじめるリア充男女ども。渋谷の若者はおそろしいが、やることないので閉館まで館内で時間を潰してた九太(ますます怪しみが増す)が偶然通りかかったので女子高生助かる。
ありがとう怪しい人。九太に救われた女子高生はお礼も兼ねて家庭教師を買って出、こうして二人は九太の高卒認定取得を目指すのだった。

なんか普通にイイ話な気もするのですがそこからがすごいので再三のネタバレ注意が出ます。

いきなり人間社会復帰宣言の九太に役所広司激怒。テメェ妖怪だろ妖怪が勉強なんかしてんじゃねぇよしかも女なんか作ってよ!(※それは言ってなかった気がする)
困る九太。そして再びあてどなく渋谷を歩いていると本当の父親と偶然にも再開。親父死ねと思って家を出た九太だったが超久しぶりに会ったらいやいくらなんでもそんなに怒ることないだろ親父べつにそんな悪くないだろと想いが揺らぐ。
妖怪の国から出られないならともかくこんな簡単に渋谷と行き来できてしまうとやはり都会の誘惑があるので、役所広司と一緒に妖怪就職かそれとも可愛い女子高生と本当の親父と一緒に人間進学かと次元を超えた進路選択に悩む九太なのだった。

さてそんな折に事件勃発。そのころ役所広司はと言えば来るべき妖怪の国の王座決定戦に向けて修行を積んでたのだったが、優勝候補といわれる役所広司のライバル妖怪のオタク風息子兼弟子が超能力で九太を襲ってしまったのだ。
あぁなぜそんなヒドイことを。実はこのオタク風息子兼弟子もまた九太と同じように妖怪に拾われた人間なのだった。ドンキで売ってそうな猫耳パーカーみたいの着て現れんので最初は人間かなと思いしかしこれはきっとそういうデザインの妖怪なんだろうと思ったらやっぱり人間だったの無駄な錯視的叙述トリック。
それはともかく俺は妖怪と人間の狭間でこんなに孤独に悩んでんのに九太てめぇリア充かこの野郎しかもウチの親父の邪魔しやがってと混乱妄想逆恨みの末にナイフを、いや超能力を手に取ってロクに話したこともない九太を襲ったらしいのでぼっちオタクは恐ろしい。
ちなみになんで超能力かっていうと人間は心に闇を宿すので超能力が使えるんだと妖怪界の偉い人が言ってました(お前本当に偉いのかそれで!)

事件はあったがオリンピックと大統領選を兼ねるような妖怪王座決定戦はつつがなく始まる。優勝候補の息子が通り魔的障害事件を起こしたにも関わらず大した問題にもならない妖怪界なので大らかなのかバカなのか分からないが妖怪を人間の尺度で測るべきではない。
いよいよ優勝決定戦。九太の見守る中ライバルと必死に闘う役所広司だったが歯が立たずに倒れる。審判のカウント。1、2、3…9。もうダメかと思われたそのとき、九太が立ち上がり親父がんばれ親父超がんばれのエールを送る。相当長いエールだが審判もカウントを止めて見守ってあげる(人間の尺度で妖怪を測るべきではない)。当たり前のように役所広司立ち上がってライバルに勝利。
メデタシメデタシ…と思われたがそこで終わらせないので細田守の面目躍如です。父親が負けてくやしいかあるいは審判の不正に腹を立てた可能性もあるライバルの息子が今度は超能力の刃を役所広司に向ける! グサー! 役所広司、瀕死で病院搬送。
なにも収監しろとは言わないが同級生を襲った時点で心のケアはしておくべきだったに違いないので妖怪界はもう少し法整備と制度作りに本気になったほうがよい。お前らみたいな無責任な妖怪が少年犯罪を生むんだよ!

さて役所広司の容態が気になるところではあるが九太は急に渋谷に向かって女子高生とお話する。そこに九太を追ってきたライバル息子登場。幻覚的な超能力でクジラに変身すると渋谷の街をイマジナリーに破壊しだす。
とりあえず副都心線に乗ってノンビリと明治神宮前まで逃げてきた九太と女子高生はそこでクジラと対峙。九太なにかを悟る。逃げたってしょうがねぇ…ヤツを倒すには…俺の中に取り込むしかないッ! バケモンにはバケモンをぶつけるんだよ!(言ってない)
思えば九太もまた自身に潜む闇を知っていたのだった。家出して渋谷の街をさまよっていたときに見た俺の中のもう一人の俺…あのときは目を背けたがもう逃げ出す必要はない! 役所広司そして妖怪たちに本当の強さを教わったからだ!
恐れることなく闇の力を解放しクジラを吸収対消滅しようとする九太。なんとなく傍らで眺めるだけの女子高生。とそのとき! 目の前に一本の刀が! それはなんと役所広司が転生した姿であった! 役所刀を手にした九太はこうしてクジラと心の闇を切り捨てるのであった。

ライバル息子が病院で目を覚ます。アレ? ボクいままでなにしてたんだろう? なにかとんでもないことをしたようなしてないような…。
何人か死んだような気がするが何をしてもあまり責任の問われない妖怪の国なので父親が抱きしめたりなんかして穏便平和に済む。幻覚クジラによる妄想渋谷大破壊はタンクローリーかなんかの爆発として処理されたので(実害出てる!)人間界との外交問題に発展することもなくよかったです。
九太の方はといえば本当の父親ともいつの間にか和解して女子高生とともに勉学に励んでいた。たまに女子高生連れて妖怪の国に遊びにきたりして楽しそうです。
みんな平和。みんな仲良し。みんな楽しい。めでたしめでたし。

…なにか恐るべきお話な気がするのですが気のせいですか…。

これはあのたぶん妄想が爆発しているので人によってはなにがなんだかワケワカランと思うのですが『イレイザーヘッド』もリンチ気分になって観れば単純至極というような意味で細田守の妄想に付き合える人にはダークに率直な実に泣ける心の叫び映画なんじゃないかの説が出る。
九太と役所広司とライバル息子は全部一人の人間というか細田守のそれぞれ別のペルソナとして描かれてるように思えるので、えらい唐突に思える展開も細田守の心の揺れとして一貫性を保ってるとかそういう感じじゃないすかね。
九太もライバル息子も細田守なので吸収同化ができるとか。ライバル息子の細田守が暴走したのは九太の細田守が多大なストレスを抱えてたからとか。九太も役所広司も細田守なので細田守は細田守の真似してるだけで強くなるとか書いていて細田守のゲシュタルト崩壊そして唯一神細田の創造せし細田ユニバース爆誕。神は自らに似せて人を作った…。

あれですよねこの同質性と支離滅裂は防衛機制的寓意に塗れた妄想映画として理解できますが現実の水準で理解しようとしますと地獄がグワっと口開けますよね。あのほら九太が役所広司に拾われるガード下はリアル渋谷ではホームレスの根城なので妖怪ってホームレスのメタファーやったんやとかそういうことになるのですがすると優しいホームレスに拾われ小卒ニート18歳になってしまった男の子が渋谷スクランブルでタンクローリー爆破を画策するガード下暮らしの通り魔男子にストーカーされとかそういう感じの…ってなんだよそれ『ワールド・イズ・マイン』かよ!
妄想映画として九太とライバル息子の鏡像関係を細田守の光と影的に考えますとこれは渋谷の喧騒と図書館で騒ぐようなリア充どもに鬱屈を募らせた細田守が自我の分裂と崩壊を経験しながらスクランブルで起きたタンクローリー事故から渋谷大破壊をひとり妄想、あるいは自らタンクローリー爆破テロを実行そして病床で事件の全てを忘却してトラヴィス・スマイルを浮かべるような話になってしまうのでつまりそのあたりはあまり触れない方がよいむしろ触れないでください。

この、女子高生とか父親とか図書館リア充とか現実の側に位置する人々に対する完全興味なし荒廃描写と妖怪界の実にとっても超生き生きな描写の対比っぷりに妄想作家細田守の本気を見る。
日本アニメ映画監督界にはとりあえずゴジラみたいに目の前の現実を全部ぶっ壊してやりたいの伝統があるらしいので、そのフルスロットル妄想とストレートな破壊衝動の炸裂っぷりに細田守はこうやって伝統を受け継いで日本アニメ映画の明日を作っていくんだなぁと目頭が熱くなるんですがあれなんかなんか悲しいんだけどなにこの悲しみはそしてやるせなさは…。

(文・さわだきんたま)

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妄想作家のホープであった今敏ですから電波感度良好。ラスト数話は理論値で下り100Mbpsぐらいなのですが今敏は理性の人であったためブラックユーモアとシニシズムが障壁となり実測値は40Mbpsぐらいです。細田守は理論値80がそのまま実測値になるので結果的に早い(しかし安定性は…?)

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匿名さん

おもろい

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