立川談志の映画評本『観なきゃよかった!』、読んで良かった感想!

立川談志、はてなんと呼ぶべきか。
談志? いやオレみたいなこの人の落語とかロクに聞いたコトない人間が呼び捨てってのもどうなんだ。
家元? それこそマニアな方から「なに気取ってやがんでい!」的に見られるんじゃなかろか。
間を取って談志さん? そう呼んでるヤツなんか聞いたコトないぞ。かといって談志師匠とゆーのも…だって、別にオレの師匠じゃないし。

呼び名からして既に面倒くさい談志(もうコレでいい)の映画評。
編者のまえがきによると、以前出た映画評論集のB面にあたるらしい。
だからか、実にマニアックというか微妙な映画ばかり入ってる。談志激賞の『ダイ・ハード』(1989)みたいな映画は入ってない。
そのあたり、しかし逆にこの人らしい気もしないでもないのだった。

http://filmpulse.net
http://filmpulse.net ホラー、SF、大嫌い! 『ありふれた事件』みたいな映画は最悪だ!

端的に談志の映画観が覗えるのは『のるかそるか』(1989)。
コレ借金塗れの男が競馬で運よく勝ちまくるだけの映画だったが、談志はこう評す。

「早い話が、ドラマが何もないのだ。こんな見事な“何もなさ”に現在までお目に掛かったことがなかった…この映画をツマラナイ映画というならまさにその通り。一言もない。しかし、大人はこういう映画に金を払うべきなのである」

ヒネクレたロジックだなぁ。何も無い。この製作者は『スティング』(1973)みたいな映画を作れないと身の程をよく分かってる。だからドラマを放棄しつつ、しかしその中でセンスある会話なんかをやる。こいつは粋だ…つまりそのようなコトらしい。

『のるかそるか』と好対照を為すのは『ありふれた事件』(1992)みたいな映画。
『ありふれた事件』、コレ一人の連続殺人鬼にテレビかなんかの撮影クルーが密着、その凶行の数々をカメラに捉えていく…とゆー設定の映画。今で言ったらモキュメンタリー、つまり偽ドキュメンタリー。

さて談志が何故この映画をダメだとゆーかっつーと、これでもかこれでもかと殺人を見せるから。
ダメだ。怖い。こりゃ、下の下。談志、怖いの気持ち悪いの見たくない。もちろんその品の無さを嫌って…とゆーのもあろうが。
『ありふれた事件』のごく短い評を、談志は弱々しく「“談志はもう駄目だよ”という声も聞こえてきそうである」と言って締めくくる。
この新しい映画を、新しさゆえ輝きを見出す者もいるだろうと言いつつ、自分はもうこの新しさを受け入れられないと吐露する。

どうだ、この弱さ。なんだコレは? 普通のご老体の泣き言とさして変わらんじゃないか…そら確かにオレは談志をよくは知らんが、それにしたってコレがあの談志が書くコトなのか。バカヤローだなんだと言えばいいのに、つまんねぇ下らねぇとコキ下せばいいのに…。
徹底したヒネクレ者、気難しくてすぐ怒鳴るコワい人、ぐらいのオレの談志認識からするととにかく意表を突かれるコト度々だったこの本だが、各々の評の初出はほとんど90年代前半。
うーむ、談志はその頃すでにこんなに衰弱してたのか…とも思ったが、ホウ・シャオシェンの『童年往事 時の流れ』(1985)評を読むと、衰弱ちゅーのはチト違うか。

なんつーか、孤独を愛して美しい思い出の中で一人死んでいくコトを選んだ人の口ぶり。自分から進んで世の中をもう半分降りた人の語り。
自分はもうこんな世の中にゃついていけないと、静かに身を引く。衰弱とゆーより、強固な意志の表れか。
ふと思い出したのは坂口安吾の『石の思ひ』で、アレはアレで『堕落論』の安吾がこんな真摯で柔らかい文章を書くのか、と驚いた記憶がある。
その孤独の強度を見るに、安吾と談志ってのは意外と近い位置にいるんだなぁとボンヤリ思わせられたトコであった。

https://shootingthescript.wordpress.com
https://shootingthescript.wordpress.com 一方コチラは談志激賞の『ブロードキャスト・ニュース』。フツーに面白いイイ映画です(『ありふれた事件』も面白いよ)

そんなワケで、『観なきゃよかった!』なんて威勢の良いタイトルに反して、快刀乱麻にバッサバッサ、とはいかないしっとりした、案外と暗い本だったりする。
先に出版された映画評本のB面として死後に出版された、とゆーのもなんとなく分かるハナシではある。こういう鬱々したの、出版側は求めてなかったんだろう。
だからこそ今読むと面白いのかもしんないが。

映画評本、とザックリ書いたが、雑誌やパンフレットに掲載された映画時評、短評付きの星取表、配給会社の担当者との対談、ラジオで行った大林宣彦・佐藤慶・森卓也などなどとの対談、オールタイム・ベスト、フレッド・アステアの思い出…とてんでバラバラに色々と収録されてる。
談志と映画、ひいては談志の多面性がよく分かるような分からんような構成のスクラップ・ブックみたいな本になってんのだった。お得。

ちなみに対談で印象的だったのは、基本つまんなそうに話しつつも意外やとても相手に気を使ってるトコだったりした。
つまんない映画を評する時には「ただ家元がツマンナイって思っただけで、面白く感じるヤツもいるだろう」みたいなワードが頻出したりもし、こう気を使われると逆に読んでるコッチは恐縮してまうが、同時にまた談志の孤独を強く意識させられ、ちょっと切なくなるトコでもある。

まぁアレだな、あくまでお客さんの立場を貫き、普通の映画を見せてくれりゃそれでいい、とうそぶく談志なので、別に鋭い批評とかそんなんじゃない。気分的には飲み屋で映画好きなオッサンのハナシを聞いてるような感じ。
さすがに、談志が大好きらしいビリー・ワイルダーに対して「“人生所詮、いい誤解か、ワルイ誤解しかないよ”ぐらいの事は常々言っていそう」とか言うあたり、鋭いなと思ったりはする(そして本当にワイルダーが好きなんだなぁとも思う)
けれども基本は批評とも言えないような、「普通」の映画語り思い出語りが為される本がコレなのだ。

たぶんこの本の中で一番談志が褒めてたのはニュース映画のケッ作『ブロードキャスト・ニュース』(1987)なのだった。
観たコトある人は分かると思うが、コレ別になんのコトない、とても気の利いた、とてもよく出来た、しかし極めて普通のよくある映画なんである。
とにかく、普通の映画を見せてくれ、であり、オレん中でなんやエキセントリックなイメージのあった談志ゆー人は、だからこそか普通であるコト、分を弁えるコトの価値を死ぬほど大切にした人なんだろうなぁと思う。

もうそーゆーコトが美徳とされる時代じゃないってんで、静かに談志は人生を降りてったのかもしれないな。

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談志映画噺 (朝日新書)

談志の映画本のA面。読んでないけど、たぶんこの本より普通の意味で映画評として面白いんじゃないすかね。

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観なきゃよかった
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