川本三郎著『銀幕風景』を読んだんでつらつらと感想書く

最近ハマってる川本三郎センセの映画評・風景編。世界各国津々浦々の映画の舞台・ロケ地を紹介してく。
映画評っつか、映画エッセイか。川本センセは旅行好きだそうで、本に取り上げられてる80本近くの映画のロケ地、結構行ったコトあるらしい。その雑感も少々。
各々の映画のロケ地が全部記載されてんので、コイツをガイドブックにロケ地巡りに出るのも一興か。オレは旅行するカネ無いけど。

まぁしかし、例によって禁欲的な乾いた文体が心地イイよな。叙情とか、ほとんどナシ。該博な知識に基づく記述に専念。あの映画のロケ地はあそこ、何々で有名、この映画のロケ地はあそこ、こんな歴史がある、云々。
それでいて映画と風景を慈しむように書く。名人芸。

取り上げられる映画は幅広い。B級・名作、無名・有名、区別なし。映画から映画、風景から風景へ目的もなく渡り歩いてく、風来坊の映画旅行記。みたいな感じ。
これはしかし、ツーカイだ。誰も覚えてなさそうな『私がウォシャウスキー』(1991)なんて映画と往年の名作『シェーン』(1953)が並ぶ。巨匠フェリーニの『道』(1954)を語ったかと思えば韓流映画『八月のクリスマス』(1998)を取り上げる。
この映画の演出のココはダメだ、あの映画の俳優の演技は大根だ、そんなエラソなコトはなんも言わない。映画から映画へ、流れに身を任せて漂うだけ。それを楽しむ。
ケチをつけるコトだけが批評なんてこたぁない。映画と一定の距離を保ちつつ戯れるコトが鋭い批評になりえるとゆーコトをこの本は教えてくれる。

ツーカイで、幸せな本だ。

http://www.fanpop.com
http://www.fanpop.com 『私がウォシャウスキー』みたいな映画を決して見下したりしないでちゃんと語ってくれる、とゆーだけでもオレは嬉しくてちょっと泣きそうになるのです。

あとがきで、振り返ってみれば映画の風景にこそ惹かれていた、みたいなコトを書く川本センセ。
確かに、確かに。コトに注意力超散漫なオレは画面の真ん中ばっか見てるの飽きちゃってすぅぐ背景に目がいっちゃう。わが意を得たり(何様だ)

まぁ風景っちゅーのは大事だよな。SF映画でなに一番に見るかっつったらさ、どんな未来世界なんだろう、どんな不思議な惑星なんだろう、そーゆー風に舞台を見る。
ホラーもそうだな。山奥の古城、人里離れた寒村とくりゃそれだけでコワい。狼男は都会に出てくりゃパロディになる。『狼男アメリカン』(1981)。
風景が映画のムードのみならずストーリーも作る、と言っても過言でないかもしんないし過言かもしんない。まぁどっちでもいいか。なんにせよ風景は大事だ。

川本センセくらいの世代ともなると、映画を観るコトがヴァーチャル旅行にもなってたという。
マトモな映画史教育は受けて無いオレではあるが、映画が長らく擬似旅行として作用してたとゆーのは柳下殻一郎さんの本『興行師たちの映画史』で知った。
今でいったらIMAX、スタンダード・サイズのフィルムを三つ同時に三台の映写機にかけてハイパー横長画面を実現したシネラマって上映方式、その第一弾の『これがシネラマだ!』(1952)は擬似旅行映画で、世界各国の名所なんかが次々と大画面に映る。
大ヒットしたらしい。たとえ風景しか映らなくても、ってゆーか風景こそ人々は映画に求めたのだった。

それにしても80本近くもの映画と、その風景エッセイが並ぶと、にわかに文化論の様相も呈してくる。
とくにアメリカ映画に造詣の深い川本センセなので、第一章のアメリカ大陸映画編、短いエッセイを読んでくとアメリカの輪郭が多角的に、朧に浮かび上がってくる。

そう読んでも面白い。イイ旅夢気分で読んで面白い。
イイ本です、コレ。

【ママー!これ買ってー!】

銀幕風景

こーゆー、読むと映画が好きにしかならない本ってスバラシイよね。

↓その他のヤツ
興行師たちの映画史 エクスプロイテーション・フィルム全史

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