井戸端映画フアン対談本『さらば愛しきサスペンス映画』読んだぞ

ええんじゃないすか。コレでええんじゃないすかね。

『さらば愛しきサスペンス映画』は川本三郎さんと逢坂剛さんのご年輩映画マニア対談本。
あくまでマニアであってシネフィルではない。いやマニアとゆーより、フアン。「ア」が大きい。
つまり、いらん思考をこねくりまわし好き勝手に映画を解釈して悦に入る、そーゆー類の面倒くさい人たちの本ではない。
「フィルム・ノワールなんて批評用語は我々に馴染まない。サスペンス映画で行こう」宣言が冒頭にある、なんかそんな本です。
最近ちょっと疲れてたので、こーゆー理屈っぽくない、映画フアンが楽しそうに話してるだけの本は嬉しい。とっても癒される。

だからもう、コレでええんです。

http://rarefilm.net
http://rarefilm.net 川本さん激オシの『スパイ』(1958)とゆー映画。精神科病院にスパイがいっぱいやってきて誰が誰だか何がなんだか分からなくなってくるハナシらしい…ってなんだそれ滅茶苦茶観たいぞ! 監督はアンリ=ジョルジュ・クルーゾーだそう。

はて、さすがお二人とも年季の入った映画フアンなんで、のっけから火花散る映画薀蓄合戦であった。
逢坂さんが「川本さん、あの映画はご存知ですか」とまず真面目な映画の本には載らないBなサスペンス映画を挙げれば、川本さんは「もちろん観てますよ。公開時はたしか○○と併映でしたね…」と返す。
川本さんがなにかタイトルを挙げれば逢坂さんは原題と主演女優を即答し、かと思えば逢坂さんの記憶違いを即座に川本さんが正したりもする。

んな風に、一見和やかな対談と見えて、なんや行間からフアンの意地とプライドが滲み出る。
自前の映画パンフレットやポスターのコレクションを川本さんに自慢する逢坂さんなんて、スゴイよ。
「コレを見てください。まだまだ私のコレクションのほんの一部なんですがね…」とか普通に言う。オレそんなセリフ漫画の中でしか聞いたコトないよ。
楽しいね。この昔ながらの映画フアン感。

昔ながらの映画フアンなので、従って別に深い感じのハナシとか無い。
基本、あの映画面白かったなぁ、あの女優さんキレイだったなぁ、延々そんなコト言ってるだけ。
見識の深いシネフィルにはタイクツかもしれん。いやタイクツってゆーか、「エドガー・G・ウルマーなんて我々の認識ではエド・ウッドと同じようなもんですよ」的な発言に至っては失笑もんだろう、たぶん。

でもええんです。年輩の映画フアンが碁会所の隅っこでタバコ吸いながら映画談義に花咲かせてる、それそのまんま収録したよな本なんで。
心地よいもんじゃあありませんか。批評もクソもないが、ジジィ様が楽しそうに趣味のハナシしてるの聞くってのは。

http://www.arte.tv/guide/fr
http://www.arte.tv/guide/fr コチラは『筋金(ヤキ)を入れろ』。リノ・ヴァンチュラとジャン・ギャバン共演、と聞けばフツーにレンタルビデオ屋に並んでそうな気もするが、見ないなぁ。

面白いなぁと思ったのはフランス産サスペンス映画のくだり。
結構なページ割いて語ってんであるが、やれジャック・ベッケルだジュリアン・デュヴィヴィエだみたいなハナシでなく、観たコトはもちろん聞いたコトもない忘れられた映画のタイトルがポンポン出てくる。
『悪者は地獄へ行け』(1955)とか『筋金(ヤキ)を入れろ』(1955)なんて映画、知ってる? いや知ってるよって言われたらへぇ凄いなぁって感じだけど、オレは全然知らんかった。
まとにかく、Bな感じのフランス産サスペンス映画ってのはかなりの数が日本でも公開されてたじゃんってのがこのあたりから窺え、こーゆーフランス映画の見方ってのはお二人よりもっと下の世代のシネフィルなんかからはあんま出てこない。
ジジィ様の他愛ない(ように見える)おしゃべりもちゃんと聞いてみると、意外や貴重な証言の宝庫だったりするってなワケだな。

まぁなんですか、映画を取り巻く言説は年々複雑になり、お前ら映画のハナシをしてんのか、それとも映画を鋭く解釈したり華麗な語彙を駆使して上手く表現する頭のイイ自分のハナシをしてんのか、どっちなんだと、そう思うコトは多々あったりする。
その点シンプルだよこの本は。クドクドと理屈をつけたりしない。あの映画が面白い理由は撮影が○○が脚本が××で編集は…そんなコト言わん。「あの映画、面白かったなぁ」の一言で終わり。
あの映画の○○には××の意味が隠されているのではないか…そんなコトも言わない。「あの映画、面白かったなぁ」の一言で、とにかく終わりなんである。
しかしそれでも、楽しそうに楽しそうに映画を語るから、じゃあ今度あの映画観てみよう、そんな気分になってくる。
映画の本なんだからそう思わせてナンボだろう、と思う。

語られた言葉の内容の方が語り方よりも大事なのである、とゆー考えの人が価値を見出すのは難しい本かもしんないが…しかし往々にして、人間なんて語り方でしか物事を判断できないもんじゃございませんか。
まぁそんな理屈っぽいこと言わんでも、とりあえず映画好きな人には楽しい本だと思うんで、暇な人はどーぞ読んでみて下さい。

(文・さわだきんたま)

【ママー!これ買ってー!】


誇り高き西部劇

『さらば愛しきサスペンス映画』でもあったパンフレット・ポスターコレクション自慢を一冊の本にしてみました、とゆー本。
川本・逢坂両氏が持ち寄った西部劇コレクションをカラーで大量収録、ついでと言うには長い対談もつけた。
なんだか古い意味でとても同人誌っぽいが、そのあたりも味なんじゃあないすかね。

↓その他のヤツ
さらば愛しきサスペンス映画

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