映画『偉大なるマルグリット』に気をつけろ! という警告と感想

映画が始まると巨大な目玉が画面にドン。ギョっとするが、この目玉のオブジェを子供たちがゴロゴロっと転がすと背後にご立派なお屋敷が姿を現す。
中じゃサロン音楽会が開かれてるらしく、そこを気取り腐ったいけ好かない男が「どいつもこいつもバカだなぁ」的な目つきでブラついている。この人、新聞記者。お友達のバカ詩人(こんな変なもんにポエムを見出す俺かっけー!)も一緒。

さて音楽会の主役は美声がご自慢のマルグリット夫人で、この人は超絶音痴なんであるが、なんせカネと地位があるんで誰も音痴だと教えてあげない。
すごいっすねマルグリットさん! 感動しましたわ! 天才っす! 天使の歌声っす! とこう言ってゴマをするもんで、マルグリット夫人はすっかりその気になってジャイアンリサイタル(小)を度々開催してるとゆー次第。

まぁどうでもいい社交界の中で勝手にやってんなら良かったが、この日は例のいけ好かない新聞記者が来ていた。夫人の超絶歌唱を聞いてバカ詩人は「これぞポエムだ!」と大絶賛、新聞記者もこいつぁネタになるぞ、ついでに記事にすりゃご夫人とお近づきにもなれるぞ! と空気を読まずに記事にしてまったせいで、調子に乗ったマルグリット夫人はご自慢の美声を大衆に披露すべくジャイアンリサイタル(大)の開催に向けて邁進するんであった…と、こーゆーお話。それが『偉大なるマルグリット』です。

イイ話っぽい。イイ話だと思ってた。有閑マダムが好きそうなほんのりユーモラスで品の良い感動作かと途中まで思ってたが…。

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ところで冒頭の巨大目玉ゴロゴロ、うわなんかマグリットの絵みたい、偉大なるマグリットってタイトルだからマグリットなのかなぁとタイトルを勘違いしながらボンヤリ思ってたんであるが、20年代フランスが舞台であるからしてシュルレアリスム入ってんである。
いや別に目玉にナイフぶすーって場面が挿入されたり時計が溶ける風景とかがあるわけじゃないがシュルレアリスムと精神分析、ほんで蓄音機とカメラとゆー道具立てでコレなんじゃいなと思たら20年代フランスのちょっとした評論みたいなインテリ映画であった。

音痴なのに美声の幻想にとりつかれた人がおり、はてこの人はなんでそうなったのかと言って精神分析の登場。おかしな人の奇行を見せて笑わせといて実はその背景にはこんな事情が…と言って泣かせるタイプのお話かと思われたが、やがてカメラと蓄音機が前面に出てくるに至り技術と人間のうんたらかんたらみたいな方向にシフト。ジャイアンリサイタル(大)開催の中盤まではそこそこ笑って見てられるがそっからの急な方向転換には大いに困惑させられ、最終的に笑うとか泣くとかそれどころじゃないのだった。

なにが面白い映画かとゆーとそのズレが面白い映画だなコレは。冒頭の目玉ゴロゴロにはギョっとしたが、その後のサロン音楽会の場面でマルグリット夫人の前座として歌手の卵が「花の二重奏」を歌うトコがある。美しい歌声、それにひきかえ夫人の音痴っぷりときたら…と普通の映画ならそう思うが、そもそも歌手の卵の歌う「花の二重奏」が少し調子を外していてなんだか不快とゆーのがこの映画であった(しかしコレが劇中では美しい歌声として扱われてんのだ!)

お話の中では夫人の主観と客観がどんどんズレていって大騒動になるが映画と観てる側もどんどんとズレていく。例の嫌味な新聞記者と彼が惚れてる歌手の卵のエピソードが途中まで平行して語られたりするが別に本筋と関係なく、マルグリット夫人の音痴を少しでも治すために雇われた落ちぶれオペラ歌手が怪しい仲間を引き連れてやってくるんであるがこの怪しい仲間たちの存在に全然意味が無い。ハイソな映画かと思わせといて突然駅弁ファック。ラストに至って俺はいったいなにを観てたんだろうとわけわかんなくなっちゃうのだった。

…変な映画で面白いが騙された感は凄い!

脚本書いて監督もしたグザヴィエ・ジャノリとゆー人は『情痴 アヴァンチュール』(2005)とか撮った人らしい。これ観てないが、エロ目的で観たらなにこれと面食らう映画だそうな。アレだな、なんのことない風景にちょっとした違和感と毒を忍ばせたりすんのとか好きな人なんでしょう、コイツ。くせ者だな。
『偉大なるマルグリット』もボケっと見てたら普通のイイ話に見えなくもないので、たぶんそのあたり上手い人なのだ(なんかムカつくが…!)

ジャイアン夫人のモデルになったのはフローレンス・フォスター・ジェンキンスとかいう実在のアメリカのソプラノ歌手らしいが、このたび彼女の伝記映画にメリル・ストリープだかが出る運びになったそうな。
たぶん同じ題材でもメリル・ストリープ主演のアメリカ映画となるとユーモラスでストレートな愛と勇気の賛歌になるんである。このグザヴィエ・ジャノリとかいう野郎みたいに微妙な毒と悪意を盛ったりどんどん本筋からズラしたりしないに違いない。
公開されたら見比べてみたいぞコレは。

追記:公開されたので見比べました

(文・さわだきんたま)

【ママー!これ買ってー!】


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コレはもしかして『サンセット大通り』(1950)なんじゃないかと新聞記者とか執事のキャラクター見てて思ったりした。
コーエン兄弟なんかが『サンセット大通り』をリメイクしたらたぶん『偉大なるマルグリット』みたいになるんじゃないかなぁ。

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