映画『仮面ライダー1号』改め『映画 藤岡弘、』を観てきた感想

《推定睡眠時間:15分》

『仮面ライダー1号』と言うからにはだな、藤岡弘、が主演と言うからにはだな、初代ライダーのその後を描いたヤツだろうと思ってたのだ。
実際そのように始まる。タイ・バンコク。ガラの悪い男どもが飯店に入ってくと、そこに初代ライダー本郷猛、いや藤岡弘、がおる。
テメェこら、随分とウチの組のモン可愛がってくれたらしいじゃねぇか、と殴りかかってくる男どもを藤岡弘、はえいやとやっつける。
この、重量級アクション。ぶっちゃけ仮面ライダーとか一つも観たコトないが、とりあえずセガール映画を流せば駄々をこねるのをやめて大人しくなる俺なので掴みは完璧にオッケーである。悪党を倒して、「ごちそうさまでした」、礼儀正しく手を合わせる藤岡弘、。カッコよすぎる。やはり完璧な掴みだ…!

はて、ところ変わって日本。どっかの秘密基地のような場所。なにやらキュート系イケメンのあんちゃんが胡散臭い坊主とカラオケやってる。誰だろう。
そこに若い女の子と竹中直人がやってきて、街がタイヘンなコトになってるからちょっと来いと言う。ほんで言われるままイケメンが街に出てみると、そこでお馴染みのショッカーが暴れとる。
仮面ライダーといえばショッカーだろう。藤岡弘、がショッカー倒せばいいんだろう。ところであのイケメン誰?…と思ってたら、ショッカーの前に謎の三人組が現れた。
曰く、お前らショッカーは古い。俺たちは旧態依然としたお前らの会社(?)がイヤになったから、独立して新ショッカーを設立する。
そうしてショッカーと新ショッカーのバトルが勃発したところに先ほどのイケメンが変身して割って入り、なるほどあのイケメンは今の仮面ライダー、仮面ライダーゴーストこと天空寺タケルだったのか、んでこいつらが戦ってんのが新ショッカーことノヴァショッカーだったのか、と了解。

奇しくもDCコミックの大作クロスオーバー映画『バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』と同時公開だったが、『仮面ライダー1号』もまた本郷猛のその後の話だけではない、元祖ライダーと現役ライダーのクロスオーバーだったんである(そんぐらい知っておけ、という気もするが)

しかしクロスオーバーと言うがこんなん闘いにならない。なんせ冷凍保存されたサムライが科学の力で現代ニューヨークに蘇るという完全なるバカ映画と思われた『SFソードキル』(1986)を持ち前の本気力で感動作にさえしてまった現代の侍・藤岡弘、である。ジョノンボーイの現役ライダーが相手にするのは酷どころの話ではない。
とにかく圧倒的な存在感であった。その獣じみた体臭はスクリーンをゆうゆうと越えて客席に漂い強烈な殺気を帯びた眼光は映画に飽きて泣き出すお子様を半殺しにして黙らせる。
もはや誰も本郷猛こと藤岡弘、には逆らえない、近づけない。人の家に勝手に上がりこんで瞑想を始めたとしても、誰も頼んでないのに高校に乗り込んで人生論を語り始めたとしても、登場人物たちはただ黙って遠くから眺めるのみだ。たとえ愛車のネオサイクロン号でノヴァショッカーの戦闘員どもを轢き殺していったとしてもそれ卑怯だろ仮面ライダーなんだから格闘しろよとか誰も言えない。天空寺タケルに至っては(会話が成立しないので)無言で正座してしまうほどである。
とにかく、あらゆる意味で藤岡弘、が強すぎるのだ…。

んで、そんな藤岡弘、=本郷猛が再び日本に帰ってきたのは一人の女子高生に会うためだったが、その女子高生が何者なのか肝心なトコで寝てしまったので全くわからない。
「猛…」「真由…」とお互い名前で呼んでるんでどうも親子じゃないっぽいが、しかし親子じゃないならなんなのか?
この二人、うるんだ目で見つめ合ってちょっと抱き合ったりすんである。遊園地デートに行って一緒にメリーゴーラウンド乗って笑いあったりすんである。
これはあまりに危険な絵面だろう…以前、かの宮崎駿は『天空の城ラピュタ』(1986)の主人公パズーとシータに関して「あの二人はもうヤってるんだよ!」と力説してたが藤岡弘、とこの女子高生もヤっている。いやもちろんそんな不適切な映像は出てこないが、藤岡弘、のあの野獣の目が完全に女子高生を犯してるんである。
お子様向けのはずの仮面ライダー映画はこうして藤岡弘、がただそこに存在するコトにより危険極まるR指定映画にすら変貌してしまうのだった。
(※公式サイトを見たら本郷猛の恩師の娘がこの女子高生とあり、安心した)

ショッカーもノヴァショッカーも仮面ライダーゴーストも謎の女子高生も誰も藤岡弘、を止められない。誰もが藤岡弘、に食われる運命である。
『仮面ライダー1号』というが、サブタイトルを付けるとすれば『すべてはFになる』だろう。すべてはFUJIOKA色に染まるのだ…!

そんなワケで完全に藤岡弘、の映画になってたが、なんとかして藤岡弘、成分を中和して誰でも楽しめる安全な娯楽映画にしようとアレやコレやの見せ場と面白要素いっぱいになってんのだった。

ショッカーとノヴァショッカーの抗争劇、これは実に泣ける。安くてボロい衣装をまとったショッカーの怪人と戦闘員たちに対して、ノヴァショッカーの連中ときたら高級スーツとか着てやがんである。椅子一つ置いてないどっかのホラ穴秘密基地で冷凍保存されたリーダー・地獄大使の復活を待つばかりのショッカーに対して、ノヴァショッカーはキャパ2000人くらいの法人イベント向け大ホールで華々しく設立式典を執り行ってるんである…!
詳しい背景は知らないが、劇中の説明によればショッカーにも一時は世界を制するだけの力があったらしいんである。ショッカーは世界を視野に入れたグローバル企業であった。しかしそれも今や昔で、仮面ライダーの活躍によって規模を縮小せざるを得なくなったショッカーは国内市場オンリーで細々と活動するようになる。
旧態依然とした日本式経営が足かせとなったのだ。地獄大使の専制体制から抜け出せなかったショッカーはこうして大使の退場と共にエネルギー生産・供給を事業の柱とするノヴァショッカーに分裂(拉致とか破壊工作しか能のないショッカーとはエライ違いである)、怪人と戦闘員も次々とノヴァショッカーに引き抜かれて今や虫の息なんであった。

ノヴァショッカーに移籍した戦闘員が今もショッカーに在籍するかつての同僚をバーで勧誘するシーンがある。私服でもイーイーとしか話せない戦闘員なので(そうだったのか!)話の内容は分からないが、きっと「バカあんな会社未来ねぇよ。もうショッカーの時代は終わったよ。お前もノヴァショッカー来い」「…うるさい! 俺は地獄大使を信じてるんだ! あの人は絶対に復活してかつての威光を取り戻すんだ! この裏切り者!」みたいな会話が取り交わされたに違いないんである。…泣ける!

泣けるといえば、地獄大使と藤岡弘、の一方通行な関係にも涙を禁じえない。二人の切ない恋愛模様(?)も大いに見所であった。
ついに復活した地獄大使であったが、彼の目的はもはやショッカーの再興ではなかった。もう一度、本郷猛と闘いたい…。俺はそのために蘇った。だから本郷猛、お前もまだ死ぬんじゃない!
後半、ノヴァショッカーの圧倒的戦力の前にあわや仮面ライダーゴースト敗北か、ってなところで地獄大使がゴーストに加勢するシーンは最高にアツイ。
「お前らが負けたら、本郷猛と戦えなくなっちまうだろ!」
だが藤岡弘、はといえばそんな地獄大使のラブなど眼中になく、再戦を求める地獄大使に「体を労われよ」とか空気の読めないコトを普通に言うんであった(とにかく藤岡弘、とは会話ができない)

ショッカーとか地獄大使もいいが、一応仮面ライダーゴーストの映画でもあるんで、ゴーストのバトルとゆーのも面白いトコだったな。
なんかな、変身ベルト回すとな、FFで言うところの召喚獣みたいのが出てきて「レレレレディ・ゴー! ゴゴゴゴゴースト!」とか言いながら周りの敵をなぎ倒す。ほんでシュイーンて仮面ライダーに装着する。この召喚獣は何種類かいるらしい。
基本、ゴーストはあんま肉弾戦とかせんでこの召喚獣と魔法攻撃みたいのに頼りまくっていた。己の肉体一つでショッカーと闘う藤岡弘、に比べて最近のライダーはなんてヤワいんだ、と思わないでも無いが、ド派手なエフェクトと重ねに重ねてエコーかけまくった効果音&セリフがパチンコ的フェスティバル空間を作り出し、何が起こってるかは全然わからんが楽しかった。ノヴァショッカーの幹部なんてデッカイ魔法剣繰り出して辺り一面ズバーっと破壊したりしてな。愉快愉快。

そうそう、仮面ライダーゴーストこと天空寺タケルくん、ジョノンボーイの西銘駿とゆー役者さんらしいが、これキュートだったなぁ。
こう、腫れぼったい唇が実に隙だらけで…仮面ライダースペクターとかゆーゴーストの兄貴分だかで山本涼介って人も出てくるが、コチラはふんわりした駿くんと違ってクール系イケメン。
最近の仮面ライダーは子供に見せてたはずの母親がハマると聞くが、そりゃこんだけイケメン揃えられたらそうなるよなと思う。駿くん可愛いよ駿くん。

…だが、その全ては結局藤岡弘、が画面に現れるや無と化すんであった。
睨む藤岡弘、笑う藤岡弘、抱きしめる藤岡弘、メリーゴーラウンドに乗る藤岡弘、バイクを駆る藤岡弘、変身する藤岡弘、闘う藤岡弘、…。
『仮面ライダー1号』、いやむしろ『映画 藤岡弘、』とでも言うべきこの映画、とにかく弘による弘の弘のための映画なのだった。
おもしろかったよ弘! 俺も命を燃やすよ! ウソだけど!
ズバァァァァ!(藤岡弘、に斬られる音)

(文・さわだきんたま)

【ママー!これ買ってー!】


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もはや狂気の粋に達しつつある藤岡弘、の本気が見れる映画です。バカだなぁと笑ったら藤岡弘、が画面から飛び出してきて斬ってきそうなので笑えないどころか観ててタイヘンな緊張と疲労を感じる。
イイ映画です(いやホントに)。

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