映画『ルーム』はサイコーだったって感想(途中からネタバレあり)

《推定睡眠時間:0分》

すごくタイムリーになってまったのはこの映画にとって良かったのか悪かったのかよくわからんが、とにかく拉致監禁された人の映画です。
そういや今回も寝れなかったな。最近あんま映画観ながら寝ない。
まぁそれはいいが、とにかく『ルーム』はこんなハナシ。

5歳の男の子と彼がママと呼ぶ若いねーちゃんが狭いお部屋に住んでる。男の子は生まれた時から一歩も外に出たコトないんで、ママ(と、夜になると入ってくる監禁犯人のオッサン)以外に人間が存在するコトを知らないし、部屋の外に世界が広がってるコトも知らない。いやテレビがあるから知ってはいるが、ママから「テレビに映ってるのは全部ニセモノなのよ」と教わったんで、狭い部屋だけが世界の全てだと思ってんのだ。
はて、狭いお部屋での楽しい日々をエンジョイする男の子だったが、なんだか最近ママの機嫌が悪い。そしてある日、ママの口から衝撃の一言が…「テレビに映ってるのはみんな本物よ! 他の人間もいろんな動物も太陽も海も大空も全部本当に存在するの! あなたは閉じ込められてんのよ!」。

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いやー、しかしコレ面白かったな! なんかね、えーそんなのあるかー? 都合良すぎねー? って思ったんだよ、観てる途中で。
うーん…なんつーか、具体的にはホラ、男の子が監禁部屋から脱出するあたりなんだけど。観てない人に配慮して詳細書かないが、結構アッサリ脱出する。
それで、結構アッサリ脱出して、結構アッサリたまたま出会ったやさしい人に助けられたりする。映画だからっちゃあそうだけど、現実問題そんな簡単にいくか?
そう思ってたんだけど、違ったな。いや違くはないんだけど、ハナシが進むにつれて監禁生活じゃなくて脱出後に男の子とママがどうなるかってトコにスポットライトを当てた映画だったコトが分かんのさ。

簡単に脱出できて良かったねー、メデタシメデタシ…のその後は実は監禁の日々と同じくらい過酷だったりする。そのコトを強調するためにあえてアッサリ簡単に脱出するって展開が選択されたんだと思われ、なんだかまんまと作り手の手玉に取られちゃった感だ。
ほんで、監禁被害者の脱出後のリアルを描いた社会派映画なのかと思ったら、なんや普遍的な感じの母子の葛藤と成長っつーのが入ってくる。男の子の視点から見た空想的な世界とママの視点から見た現実の世界を行ったり来たりしながらハナシが展開するって仕掛けもあったりして、これからどうなるこれからどうなると、とにかくもう手玉に取られっぱなし作り手に弄ばれっぱなし。

ママ役のブリー・ラーソンもすげーイイし、いやもうなんだかスゴイ映画だ…! スゴイ映画だし、誰が悪い何が悪いと声高に糾弾するんでなく(監禁犯人さえ普通の人間として描かれてる)被害者とその家族にそっと寄り添うやさしい映画だ…! やさしい映画だし、テンポが良くて映像はポップで楽しく観れるのだ…! つまりとても技巧を凝らしつつ社会派でありつつやさしくて感動的ででもポップな楽しい映画なのだ…! なんだかよくわからんが素晴しい!

ほんで、できるだけ内容知らんと観た方が絶対おもしろい系の映画だと思われんので、若干のネタバレ含み感想は以下にまとめてダラダラ適当に書く。
観てない人は読まんよーに。

しかしウィリアム・H・メイシーはズルい。十年弱も娘/ブリー・ラーソンを監禁された父親の苦悩と疲労がそこに立ってるだけであの表情から滲み出る。
たぶんメイシーもっと撮ってるんだと思われるが、病院でラーソンと対面する初登場シーンだとアップにさえならないから最初誰だか分かんなかったし、その後もちょいと出てきただけで退場してまう。
編集の人の英断なのかどうか知らんけど、こりゃ誠実な作りだなと思う。だってホラ、よくあるヒューマンドラマだったら絶対メイシーの画とかもっと入れるし、最後にメイシーとラーソンの和解があるじゃん。
でも、無いよねこの映画、そーゆーの。いや原作がそうなのか知らないんだけど、とにかくメイシーを顔が売りにもなってないし安くて安全なお涙頂戴にもなってないあたり誠実な映画だなぁと。

つか役者さんはみんなイイなコレは。ラーソンがメイシーが、男の子ジェイコブ・トレンブレイが監禁男ショーン・ブリジャースがと言うが、ラーソンの母親ジョーン・アレンの再婚相手トム・マッカムス、いやこの人が一番演じるの難しかったんじゃねぇのと思うが、コレなんて実に素晴しかったなぁ。
考えてごらんなさいよあーた。台本渡されてこう言われたワケですよこの人は。「えーと、娘が誘拐されて何年も帰ってこない、それが原因で夫との仲が険悪になって離婚した女性と熟年結婚したのがアナタの役です。しかも悲しい過去はあれど平穏な日々を送っていたと思ったら、突如として誘拐されて死んだと思っていた妻の娘が誘拐犯との間に出来た男の子を連れてアナタの家にやってきて住むコトになります。家には前の夫もやってきて修羅場になります。あ、ちなみにその人はあのメイシーさんです。じゃ、よろしく」
…パニックだよ! こんなの言われたらパニックだろ普通の役者は! と思うが、あまりに重い現実を抱えた人々に囲まれた普通のオッサンの困惑っぷりとか、その人たちの蚊帳の外に置かれたコトを自覚しつつも必死に弱々しい手を差し伸べようとする心情とかよー出てて、なんか感動的な名演なのだ、うん。

まぁしかしどこを切り取っても面白い映画だなぁ。演技サイコー(そうだ、良かったと言えば男の子を保護する女性警官さんがすげーカッコよかった! なんて女優さんだろか)、脚色サイコー、ファンタジーとリアルを行き来する映像もサイコーじゃないの。
監禁男が男の子の5歳の誕生日にラジコンカーをプレゼントして、男の子は大喜び。狭い部屋ん中にラジコンカーを走らせて遊びまくるが、なんせ狭いんですぐに壁に当たっちゃう。
ほんでその後の脱出シーン、男の子は死体のフリをして監禁男のピックアップ・トラックで運ばれるが、カメラはそれをあのラジコンカーみたいに、今度は壁に当たらないで広い世界をどこまでも走り続けるサマを撮るっていう。おもしろいよね。

掘ってくと面白い系の映画で寓意と象徴を使いこなしまくる感。なぜ天窓を眺めるのか。なぜ病院で鏡を見るのか。男の子が髪を切ることの意味は。なにやら精神分析っぽく構造化されてるよに思い宗教的な含意も端々に見える気もするが展開に溶け込んでるんで嫌味なし。
映画を構成する要素の一つ一つがとってもよく練られてるっぽく密度は大変に濃いが、あくまで監禁された母子のお話を丁寧にお客さんに伝えるコトに主眼が置かれてんので少しも難解じゃないしたった2時間前向きエンドでキッチリ終わってくれる。それでいて解釈で大いに遊べる余地いっぱい。
すごいじゃん。すごい職人仕事。すごい「普通の」娯楽映画。なんか作家性全開のアート映画とか作家性ゼロの筋肉映画とかもいいが、こーゆー普通にすげー映画を観たかったんだよ!

それになによりさぁ、誰が悪い何が悪いと誰も彼もが気軽に憎悪を表明する時代じゃないか。盲目の正義を振りかざす時代じゃないか。
それで果たしてええのかと。それで、本当に苦しい人のためになってるのかと。むしろ正義の叫びが苦しい人の小さな声を圧殺しまってさえいるんじゃないか?
例の少女監禁事件も含めて色々思うトコあったりするが、そんな世の中において『ルーム』っちゅー映画の、少しもセンセーショナリズムに陥らずに、少しも理想主義に陥らずに、少しの憎悪も正義も絶望も語らずに苦しい立場に置かれた人々の小さな声に拾い上げるこの映画の示唆するところとゆーのは、その価値とゆーのは存外大きいもんじゃないかと思うのだ。

(文・さわだきんたま)

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監禁とゆーと最近コレがメチャクチャ面白かったな。被害者女性の魂の彷徨っぷりがすげーイイ。震えるね!
いや、『ルーム』みたいな爽やかな映画ではまったくないんだけど…。

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