映画『ボーダーライン』(2015)を睡眠と覚醒のボーダーラインを漂いつつ観た感想

《推定睡眠時間:15分》

武装したFBIかなんかがどっかの家のガサ入れしてる。アレだろう、詳細わからんがメキシコ麻薬戦争の映画とゆーからたぶんカルテルの人間の家だろう。
さて首尾よく犯人を捕らえた(か、殺した。あんま覚えてない)が、そこで部隊の一人が異変に気付く。あれぇ? なんか臭うぞ? それに壁が…てなワケで壁を崩してみたところ、そっから無数の腐乱死体がボロボロ出てくる。うひゃー。どうやら大したコトないいつものチンケな麻薬野郎だろうと捜査官が踏んでたこの犯人、この事件、エライ大物大事に繋がってたらしい。
で、捜査員がうろたえてるトコに突然の爆発が…。

ココで寝ている。爆発のショックと同時に寝るなんてお前はどーゆー神経してるんだと思われるだろうが、俺は『プライベート・ライアン』(1998)のオマハ・ビーチの激戦シーンで寝る人間なんである。あまり甘く見ないでもらいたい。
ほんで、起きたらそこはメキシコらしいんであった。経緯は知らんがさっきのFBIのねーちゃんが何台も連なる車の一台に乗っており、歴戦のツワモノ感ある男どもにこれがメキシコだとナビゲートされている。その一人がベニシオ・デル・トロ。ねーちゃんの方はエミリー・ブラント。
それにしても空気が張り詰めている。いったいコイツらどこ向かうんか何してるんか何者なんか全然わからんが、完全武装の上「前方に偵察車」「屋上に気をつけろ」などと無線を取り交わしてる。なんだここは、戦場か。

まったく状況が読めないが、とにかくこんな緊迫状況に右も左も分からないままいきなり連れ出されて(寝た俺が悪いが)衝撃であった。
睡眠を導入し意図的にシーンを飛ばすコトによりショックと風味が増す映画とゆーのがあるが、『ボーダーライン』はその一本である。
それに、後から知ったコトにはエミリー・ブラントはCIAに引き抜かれてメキシコ絡みの特殊作戦に随行するコトになったらしく、そんな設定であるからして実は状況や新たな登場人物を先輩CIA局員ベニシオ・デル・トロらが結構丁寧にセリフで説明してくれる。更にはエミリー・ブラントの同期の男がコトあるごとに「どういうこと? どういう状況? おい教えろって」と物分りの悪い観客の思うコトを代弁して説明を求めてくれんので、いつどの場面で寝ても案外混乱するコトはない。
睡眠者にはやさしい映画であり、面白さには点数とかつけらんないが、睡眠映画としては90点を超えるだろうと思われるハイグレード作品が『ボーダーライン』なんであった。

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ほんでコレ通して観たら『キングダム 見えざる敵』(2007)が頭に浮かんだな(ラジオで町山さんも言っていた)。アッチはサウジでコッチはメキシコと舞台こそ違うがやってるコトはほとんど同じなんで結構ステロタイプな映画なのかもしれん。まぁ受け手のイメージと知識の貧困の問題でもあるが!
それはともかく90分ぐらいのランタイムにギュっと身の詰まったアクション編『キングダム』と比べるとコチラ『ボーダーライン』はもっとアート映画寄りな弛緩した時間の流れる映画だったな。
監督、ドゥニ・ヴィルヌーヴとかゆーカナダの人。この人の映画は『複製された男』(2013)ってのだけ観たコトあるが、ぼやぼやしい画のトーンはこの映画とよく似てた。あるいは敵対するキャラクターの差異が無化されていくとゆー展開も共通するトコだろか。『複製された男』はドッペルゲンガーと男性性の喪失に直面した男が次第にもう一人の自分と同化してくとゆー極めてアメリカンな映画(※カナダ映画)だったが、憎悪の連鎖の中で自らをその敵と同化させていく『ボーダーライン』のベニシオ・デル・トロもそのドッペルゲンガーの一人と言えなくもない。

そのデル・トロ、コイツは恐ろしいヤツだ。視界に入ったメキシコ人を片っ端から殺してく。しかも一発で仕留めるハンターっぷり。あまりに強すぎて後半なんかちょっと笑いそうになってまった。出てないから良かったがもしマイケル・ペーニャがキャストに入ってたら例のニヤニヤ笑いを浮かべたまま巻き添え食らって死んでたろう。たぶん、場内大爆笑。
とはいえジャンル映画的に撮られてないのでそんな恐ろしいヤツなのにあんま怪物感なかったりする。とにかく全てが曖昧な映画であるから新人エミリー・ブラントのキャラクターも先輩デル・トロのキャラクターもあんま個性とか心情みたいのが表面化したりせず、その愛憎相半ばする師弟関係もそれほど強調されない。
カタルシスとかない。善悪の区別もない。なんちゅーか、渋いノワールな映画だなコレは。

国境に設けられた密輸トンネルをプラント、デル・トロらが襲撃するシーンが映画のハイライト。アリゾナ荒野のマジックアワーをバックにシルエットと化した部隊が影に溶け込んでくが、コレが影絵とかデ・キリコみたいで美しい。撮影ロジャー・ディーキンス。現実感を欠いた薄っぺらい画作りが面白い。
しかしこのシーンはどっかで観たコトある。どこかと言えば俺ん中じゃ『地獄の黙示録』(1979)だ。現実が神話に変容してしまう、理性も立場も人種もなにもかも、個々の人間の差異が消え去ってただ野生の絡み合いになってまう。そんな『地獄の黙示録』のクライマックスと同型の風景がここでもクールに映し出されてるんじゃないかと感じたりする。

ダーク・アンビエントとゆーかジャーマン・プログレ的な心拍音を反復する不穏な音楽もカッコイイ。緊張感アリアリ。
派手な見せ場とか別にないが睡眠推奨映画らしく後からジワジワ効いてくる映画だなぁ。観た直後より今こうして思い出してる時の方が面白く感じるよ。
おもしろかったです『ボーダーライン』。もっかいぐらい観たい。寝ながら。

(文・さわだきんたま)

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コレはすげー面白かったな。オチも決まってたなー。

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