映画『獣は月夜に夢を見る』を月夜の夜に観た感想(ゆるネタバレあり)

《推定睡眠時間:2回程度計20分》

これは困った。「『ぼくのエリ 200歳の少女』(2008)を彷彿させる…」とゆー胡散臭い惹句の時点で軽いネタバレ感あったりするが、変身映画である。変身映画であるが主人公のヤングウーマンの身に異変が生じたその時! …その覚醒と同時にコチラは睡眠に入ってまった。
起きたらなんかエライ事になってたが、そのまま映画は終わってまうんでいったい変身とはなんだったのかあの女の人は何者だったのか一切不明。しかしどうも、ちゃんと起きて観てたとしてもそのあたり曖昧な感じの幻想風味映画な気もする…。

つまりこれは抑圧された女の人の性の覚醒のメタファーとしての変身映画であり(変身映画なんて大体そうだろが)、その精神的な混乱を女の主観から捉えた系の『キャット・ピープル』(1942)的ニューロティック心理映画であり、混乱を乗り越え世界のすべては女の主観と円環的時間に取り込まれてしまうのだとゆー意味で『HOUSE』(1977)のよーな思春期少女映画であり、どうせベルイマンの影響下にある映画なんだろうとも想像は付くが、なんせ寝てるんで何一つわからない。
分からないけど別にいいや、ってゆーかむしろ分からないけど信じるのが愛なんだ! …的な開き直り映画であるからコチラも開き直って別にいいやたぶんそんな映画だろうと適当に思っとこう…。

どんなストーリーかとゆーと寂れた漁村があり、そこに謎の病に犯されて全然意思疎通ができないし自分で一切動けなくなった母親を介護する生娘がおった。
ほんでその生娘は家に篭っててもしゃーねーな金もねーしなっつって村の水産加工工場に働きに出るが、それと同時になにか体調がおかしくなってくる。
お医者さんに見せたらこう言われる。それ遺伝だよ、母親の病気の遺伝よ。母親みたいになりたくなかったら薬飲み続けてちょーだい。はい。
さて母親の病気とは一体なんじゃろか。そして生娘はどうなっちゃうんだろか。生娘の不安と呼応するよーに平和な村にも不穏な影が…。

ところでこの母親とゆーのは統合失調症の末期症状のよーな様相を呈しており、謎の奇病とゆーが実は謎とゆーより劇中ではなんも言及されない(少なくとも俺が起きてる間は)ので奇病でもなんでもない単なる統合失調症の患者さんの可能性もある。
水産加工工場に働きに出た主人公はそこで「お前あの母親の娘なんだろw」と笑われるが、なんせ田舎だから統合失調症の患者さんなんて浮きまくるに違いなく、全然理解されず適切なケアも受けられず村八分状態で家族は孤立とそのよーなことは容易に考えられる。
そうだとすりゃ曖昧も曖昧な映画だったが案外単純な話にも思えてきたりする。バケモノの話じゃなくてバケモノ扱いされる人の話なんだろう。

はて水産加工工場での主人公の受難が悲劇の幕開けであった。この工場、ザ・男社会とゆーか完全に男子校だなこれは。
いらない魚の頭捨ててきてと言われた主人公が魚の頭捨て場に向かう。プールに魚の頭がプカプカ浮かんでハエがぶんぶんいってる魚の頭捨て場を見てドン引きする主人公。と、背後から何者かの手が! 『フェノミナ』(1984)よろしく汚物プールに突き落とされた主人公は大パニックになるが(まぁ性のメタファーでしょね)、実はそれ工場の新人通過儀礼であり、プールから這い出た主人公を工場の男たちは暖かい満場の拍手で迎えるのだった。
「よくやった! これで君は俺たちの仲間だ!」…ガキかお前ら!

一応シリアスな映画であり主人公の主観からしか物事が描かれないのでこの場面なんか工場と村の男どもの異常性が強調されるが、ちょっと引いて見ればこの人たち単なるバカなのでアホらしい場面ではある。
いやまぁ男社会に単身放り込まれた女の人の恐怖は分かるが、一方でその主観と客観のズレの滑稽さ。あるいは事あるごとに主人公をからかうバカ工場男子(少しだけルトガー・ハウアー風)の目を必要以上に気にする主人公の図は…少女マンガかよ?
観てる間はあんま面白くないなぁとしか思わなかったが、するとこれは女の人にとってのホラーでもあるが意外と笑える映画にも変身するのかもしれん…。

冒頭、タイトルバックにアンドリュー・ワイエスっぽい霞がかって荒廃した幻想的な漁村の映像が広がる。
かなり意識している気がしなくもない。ワイエスのあの有名な絵、ポツンと佇む農家を女がうら寂しく眺める「クリスティーナの世界」とかゆーあの絵はポリオで下半身が麻痺した農村の女を描いたもんらしいが(追記:ポリオじゃなかったそうです)、あれなんてほとんどこの映画そのもの。着想はこのあたりにあるんじゃなかろか。なんせタイトルバックの最後に象徴的に写し出されるのは窓辺に置かれた無人の車椅子なんだし。

ほんでちょうど同時期の少女変身映画に『マジカル・ガール』があった。あれは少女の世界に取り込まれた男どもが殺しあって破滅してく映画だったが、ボンヤリ曖昧で何一つ明らかにされないこの『獣は月夜に夢を見る』とゆー映画もそのよーに解釈ができるなこれは。
そういえば『マジカル・ガール』、あれも病気になった少女がキーパーソンか…月光、いや結構似てる感じ、ある。

この映画ヒューマントラストシネマ渋谷で観たが、俺ん中ではヒュートラ渋谷で一日二回上映みたいなミニシアター系洋画は基本そんな面白くないって認識で、最近その枠は『コップ・カー』みたいな面白い映画ばかりだったから俺の知ってるヒュートラじゃない! と若干不安を感じたりもしてた。
今回はあんま面白くない映画でちょっと安心。そうそう、こんぐらいの感じのあんま面白くない映画が観たいんだよヒュートラ渋谷では!

あとはアレだ、主人公のソニア・スールの異形がちょっと良かったな。民話的なムードもええじゃないすか。いや『獣は月夜に夢を見る』、そんな面白くないけど好きな感じはあったんだよなんとなく。
そのワリにはかなり寝てるが、気持ちよく眠れるのが俺の好きな映画なんだよ!

(文・さわだきんたま)

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ジャック・ターナーのオリジナル版が女性心理映画の古典として名高いが、主演ナスターシャ・キンスキー、監督ポール・シュレーダー、音楽ジョルジオ・モロダーに製作総指揮ジェリー・ブラッカイマーとゆー完全肉食布陣で80年代にリメイクしてやろうってなリメイク版の豪快さは凄まじい気がするぜ…。
いや面白いかどうかはどうでもいいんだよ! デヴィッド・ボウイの主題歌がサイコーなんだよ! ニャー!

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