映画『カルテル・ランド』がとんでもない感想(ネタバレはフリースタイルであり)

《推定睡眠時間:5分》

あぁ恐ろしい恐ろしい、などと。しかしこれは世界の現実だ、などと。今こそ観るべき学ぶべき、などと…そんな物の分かったことを言えるほど人間デキてないのでとりあえずはメチャクチャ面白かったの一言。
なにこの高揚感。いやこれはアガるよ、アガる。麻薬カルテルのヤツらのせいで俺たちは大事な人を失った。夢も希望も全て奪われた。ならば銃を取ろう! 我らの手で未来を取り戻そう! 立て国民よ! そういって灼熱の太陽の下で反撃の狼煙を上げる自警団の姿にアガらないわけがないが、以降自警団と麻薬カルテルの血みどろの抗争の一部始終をノンストップで見せられるので気分的にはもう『スカーフェイス』(1983)かマーティン・スコセッシのギャング映画の数々。こんな極限のドキュメンタリーと『スカーフェイス』みたいなの同列に並べていいものかと思うがそう思っちゃったんだから仕方がない。
そんぐらい、あんまりなお話と映像なので現実感を感じられなかったとゆーのもある。対象に目を近づけすぎて果たして今自分が見てるもんの正体がなんなのか分かんなくなっちゃったみたいなことか。もう、こうなるとフィクションとドキュメンタリーの垣根とかないな。いやはや…。

そんな感じで『カルテル・ランド』、麻薬カルテルの横暴と警察・軍の腐敗に耐えかねて結成されたメキシコすぎる自警団のドキュメンタリー映画の感想書く。
事の顛末はとっくに知れ渡ってんのであんまネタバレとか気にしないで行く。

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いやそれにしても冒頭からしてカルテルの下っ端が闇に紛れてメタンフェタミン(『ブレイキング・バッド』で作ってたヤツ)を製造してる場面から始まり、覆面を付けてるヤツもいれば付けてないヤツもいて、モザイクとかそんなもんは当たり前のよーに無い。
それでいいのかお前ら。超顔バレしてんじゃん。犯罪行為丸見えじゃん! しかも刑期重そうなの! …だがコイツら映画を使って自分たちの力を誇示しようとしてる風もあり、どうせパクられてもワイロかなんか渡してすぐ出してもらえるんだろうからむしろ映画にしてくれてありがとう、せっかくだからカッコよく撮ってな! ぐらいな感じなのだった。

のっけから常識の通用しない異世界に入ってしまってるんで後はもうなんでもあり感ある。麻薬カルテル・テンプル騎士団のメンバー宅を強襲した自警団が略奪の限りを尽くし、警官を名乗る男を泣き叫ぶ小さな娘から引き離して銃を突きつけながら尋問する。「警察? だから何だ? お前本当はカルテルと繋がってんだろ?」。自警団のアジトには仮設収容所が設置されカルテルとの関係を否定する容疑者の拷問がカメラの前(隠しカメラらしい)で平然と行われている…。
武装蜂起した市民たちを沈静化すべく出動した政府軍を市民たちが取り囲む。「お前たちが何をした! 私たちは自分で戦う!」。なにやら剣らしきものを兵士に振りかざしながら女闘士が叫ぶと拍手喝采、軍は退いてくんであった。
…世紀末か? いやむしろ中世か? 正義なんぞメキシコ異世界では通用しないのでメキシコ市民の希望の星であった自警団はやがてカルテルと同等の存在に堕してしまうのだった。

自警団のリーダーは一介の町医者ミレレスさん。町医者、と聞けば頼りなさそうな気もするが西部劇のヒーローにしか見えないダンディな風貌の雄弁家。
これはキャラが立ちすぎている…飲んだくれのオッサンにしか見えないミレレスの腹心パパ・スマーフ、地元ギャングを率いていたがミレレスに賛同し自警団に加わったエル・ゴルドなどなど名前の出てこない一般市民も含めてどいつもこいつもキャラが濃すぎる。
ただでさえこんなキャラの濃い面々が次第に対立を深めてやれ陰謀だ裏切りだ権力闘争だとゆー話になってくんので後半はもはや『仁義なき戦い』(1973)の様相を呈してくる。政治動向に警察の思惑まで入り乱れてなにがなんだか分からないカオス。まぁ最後の最後でなんとか収まるが、これがまた皮肉極まりないオチなのだ…。
ちなみにベストアクトは人畜無害な飲んだくれと見えて実は…なパパ・スマーフであった。この場合アクトと言えるかどうか分からんが、とにかくメキシコの金子信雄と言うべき食えない男なのだ…って金子信雄に失礼な気もするが!

なんだかメキシコ自警団ばかり強調してるが、一応これはメキシコ中西部はミチョアカン州で結成された自警団と共にアメリカはアリゾナ州の国境自警団の姿も追った映画なのだった。
アリゾナ自警団のリーダー、フォーリーさんはメキシコ自警団のミレレスさんと同い年。こちらの活動はメキシコ自警団と違って国境付近のパトロールと穏当なものだったが、フォーリーさんは退役軍人であり装備も本格的、その任務(日課?)はなんだかんだ言って危険を伴うものだった。
なんも接点がないと思われた二人だったがミレレスさんの活躍はやがてフォーリーさんにも伝わることとなる。友を家族を守りたい、この国を少しでも平和にしたい。その一心で自ら戦場に足を踏み入れた二人の宿命の対決の時が刻々と…

いや、迫っては別にこないけどね! 分かってるよ! だってこれフィクション映画じゃないもん! フィクションと違って人撃ったら本当に死ぬのも分かってるよ! あぁ二人ともとりあえず死なないで良かったっすねと言うべきなのも分かってるよ! 全然関係ないオッサン同士の対決なんて期待すんのがバカバカしいことも分かってるよ! フィクションじゃないんだよ! 分かってるんだよ!
…でも期待しちゃうんだよ! そーゆー映画なんだよ! そんぐらい面白すぎる、にわかに現実とは信じ難い劇的な映画なんだよ!

そしてたぶん、そのよーに感じさせる意図はやはりあっただろうと思わせるあたり映画の業を感じずにはいられない映画でもあるのだ…。

監督インタビューとか読んでないがたぶんこの監督兼カメラマンのマシュー・ハイネマンは自警団を通して社会のあり方を問う、ぐらいな感じで撮影に入ったんだろなと思う。こんなえらい方向に事が進むとは思ってなかったでしょう、たぶん。
それでも撮り続けたこの人は凄い。しかも映画評論家の町山さんの話によると言葉が分からない。分からないのに自分でカメラ持ってメキシコ麻薬戦争最前線に入ってった、自警団の暴虐に臆することなくカメラを回し続けた、外に出したら自警団の人に切り刻まれそうな感じの内部事情に肉薄した。
もう歴戦の戦場ジャーナリストじゃないか。何者マシュー・ハイネマン。

ほんで思ったのはさぁ、ちょうど同日公開の『ヒーローマニア 生活』ってこの『カルテル・ランド』みたいな話なんですよ。もう同じなんですよ、社会不安と政治不信から自警団が結成されて市民大歓迎、でもそれで規模が拡大するにつれて腐敗が蔓延して賄賂私刑拷問なんでもありの単なるギャングになっちゃうっていう。
これ面白いよね。同時期の映画っつったら『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』なんかも共通の物語構造とか問題圏に属してる面はやっぱあるんすよ。そもそも題材がメキシコ麻薬戦争の『ボーダーライン』に至っては物語が似てるどころか同じよーな画が出てきたりもして。マジックアワーのアリゾナの荒野で影法師と化す兵士とか、その作戦遂行中の映像がナイトビジョンだったりとか。

『カルテル・ランド』の最後に出てくるテンプル騎士団だかの幹部らしきオッサンの言葉を信じるなら自警団に武器を提供してたのは騎士団だってんで、メキシコ麻薬戦争を巡る諸々は複雑怪奇な関係の網の目に囚われて単独で存在できるものは一つもない。あぁメキシコは恐ろしい。
私的な言語はあり得ない、などと言った偉い人もいるらしいが、しかしこーゆー自警主義絡みの最近の映画観てるとやっぱ映画も私的に中立にあることは出来ないだろなと思えてくる。なにか同じ大きな現象の違う側面が意図の有無に関わらず映画に入り込んじゃってるんじゃないのとゆー気がし、逆に考えりゃ『カルテル・ランド』はメキシコ麻薬戦争なんてローカルで一時的な現象に留まらないもうちょっと射程の広い映画なんじゃなかろかと思う。

とは言いつつ…しかしやはりそんなことどうでも良くなるくらいドラマティックでテンション爆上がり、サスペンスとアクションいっぱい、ハイテンポで笑っちゃうとこもちゃんとあってキャラ立ちすぎと娯楽映画的に超面白かったんで、これはなんだか色んな意味で恐ろしいとんでもない映画な気がしたのだった…。

(文・さわだきんたま)

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業深系映画。これも『カルテル・ランド』もアカデミー賞とか絡んでるみたいですけど、こーゆー作り手が命を捨てにかかってるドキュメンタリー映画ばっか評価してるとそのうちもっと過激なの撮ろうとする誰かが死んだりゲリラの人質になったりして国際問題になるんじゃないか…。

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