『明日の世界』も『きっと全て大丈夫』! ドン・ハーツフェルト作品集にヤラれた感想(ネタバレたぶんなし)

《推定睡眠時間:0分》

こりゃあええもんを観た。大変にええ。素晴しい。みんなひっくるめて関係者の方々ありがとうございますとまずは雑な感じに感謝。
なにが素晴しいかと端的に言えば「世界のことがよくわからない」。これだな。いや、俺はそこだったわけだ。他の人は知りません。
あの動物はなんじゃろな。犬かな? いや犬っぽいけど猫っぽくもあるな。じゃあ猫か? いや、でも狸っぽくもあるし…みたいなフラつき加減。分からないもんは分からんよとなにやら達観するでもなくいや絶対に分かるんだと意固地になるわけでもないどっちつかずのガキ思考で世界を横断。
結果、人生山あり谷ありどころか素粒子の対消滅からビックバンまで全部見てきたがやっぱり世界がよくわからない。とっぴんぱらりのぷぅ…とそんな具合。

その答えを出さないモラトリアム的ポストモダン的境界線ブラブラ思考に価値を見出せない人(つまり常識的な意味でちゃんとした大人の人である)にはたぶんなんも面白くないと思うが、ラファティのワンダーなホラ話とか星新一の諦観まみれの童話をイイ歳こいても楽しめる人ならグっとくるんじゃないかこれは。
それに世界のことがよくわからない人への眼差しがとても優しいので、なんや理不尽な世の中に脳が疲弊しきった人には超絶癒し効果ありそうな感じなのだ…。

『きっと全て大丈夫』(2012)


※前の特集上映のときの予告編

ぼやぼやオッサン三部作『きっと全て大丈夫』(2006)、『あなたは私の誇り』、(2008)『なんて素敵な日』(2012)の総集編。
なんとなくの感じで生きてるオッサン。そういえばさっき道端で知り合いっぽい人に会ったけどあいつ誰だったんだろう、とりあえず挨拶しようと思ったら変な声出ちゃったけど。スーパーマーケットの青果売り場に積まれてる果物って、手前の方はお客さんの股間に当たったりするから汚くない? テレビでボクシング中継見ながらお菓子食べてたら気持ち悪くなっちゃったなぁ、そういえば流血シーンが何度もスローで流れてたっけあの番組…などと極めてどうでもいいオッサンの日常が綴られる。ノートの隅っこの落書きみたいな棒人間調の絵と監督ドン・ハーツフェルトの躁的弾丸ナレーションで。

んがしかし、ボンヤリと愚痴愚痴した日常系オッサンコミック(ハーヴィー・ピーカーとか)みたいなもんかと思って気を抜いて観てたらアラびっくり、オッサン謎の奇病に発症。三部作に分けると『あなたは私の誇り』以降になるらしいがそっからが凄かった。
日常豹変、見知った景色と時空が溶けて『ブリキの太鼓』とか『ガープの世界』とか『スローターハウス5』とか『百年の孤独』とかなんかあーゆー感じの片っ端から全部シルクハットの中でゴチャ混ぜにしてディックだバロウズだみたいなドラッグ小説を切り刻んでふりかけたよなゆるゆると散漫極まりないカオス世界にいきなり突入してしまう(自分でもなにを書いてるかよくわからない)

奇病で脳内大迷走のオッサンの意識の流れに沿って進むので唐突にウソかホントか分からないシュールな挿話が入ってきたりして観てるこっちもなにがなんだかとなるが、あっちこっち迷走しながらもふと正気を取り戻す瞬間があり、その現実崩壊を眺めながら涙腺崩壊。
クスリのせいだかなんだか知らんがすっかり別の世界にイッて社会復帰不能状態にあった元ピンク・フロイドのシド・バレットが『炎 あなたがここにいてほしい』収録中のメンバーの前にひょっこり顔を出した、みたいな狂気と正気の境界うろうろエピソードにはまったく弱い。

いやしかしなにが起こってもへぇ不思議なこともあるなぁ、まぁ世の中こんなものかで済ませてしまうキャラクターの無表情力とハーツフェルトの驚異のよくわからない力にヤラれるなこれは。特に『あなたは私の誇り』のパート。色んな意味で明晰でない人たちの怒涛の悲劇と壮絶な生死がよくわからない力によって全部横丁の飲んだくれが語るホラ話みたいになってしまう。
これは爆笑。…と思わせといて「あなたは私の誇り」のセリフで爆泣き。よくわからない力を駆使してふわふわ浮かびながら叙事に徹してたと思ったらそれを引き裂いて絵的にも物語的にも叙情が大噴出してしまう瞬間があって、実にこう脳にクる。

果たしてこりゃ現実か妄想か、日常か非日常か、極小か極大か悲劇か喜劇か…などと境界を定めることが段々無意味に思えてきてしまったので思考放棄でダラダラ泣きながらゲヘヘと笑ってそして脳が溶けていく、かように恐ろしき感動的ドラッギー映画体験をさせてくれたのが『きっと全て大丈夫』三部作なのだった。
なんて素敵な日! きっと全て大丈夫! 脳が溶けても!

『明日の世界』(2015)


※今回の予告編

新作らしい。ある日5歳くらいの女の子が未来通信を受信。「私は未来のアナタなのです」と言われるが女の子はガキなのであまり話を聞かないのだった。
あぁこれも素晴しいな。ちゃんと一貫性を持って作られてるっぽい分『きっと全て大丈夫』みたいなトリップ感とかないが、すごくええ叙情系時間SF短編。
完全主知主義クローン人間の世界をよくわかってない生き物(?)に対するほのかな憧れ。なんだそれ手垢の付いたテーマだなと思うが脳なし人間とか鉱物とか幼い頃の自分とか道具立てが素晴しいよこれは。
アッチコッチ不思議な惑星にユーモラスでちょっと切ない未来世界にワクワク。枯れたロマンティシズム漂う脳なし人間の視線のエピソードなんてそれだけでSF短編一本いけるだろ。一見なんのオチにもなってないよーなオチもまた…めっちゃよく出来てるなクソまったくもう!

なによりまずストーリーテラーとしての才能がこの人は凄いと思うが、先に観た『きっと全て大丈夫』の印象から奔放なホラ話作家かと思わせといて今度はやたら理詰めでくる(別にハードSF的な仕掛けがあるとかではなく)。なんかラファティ読んでたら途中からテッド・チャンになってたみたいな衝撃あったが、ハーツフェルトはスタンリー・キューブリックとデヴィッド・リンチに影響を受けたとか言ってるらしい。
そうかリンチも落書き調アニメやってたな。なるほどと膝を打つが、どっから見ても正反対のキューブリックとリンチが繋がるってどんなシナプス形成されてんだお前の脳はと思う(サイレントのスラップスティック・コメディが好きだとも言ってるらしいからジャック・タチなんかを二人の間に緩衝材的に配置してんのかもしれない)

いや、これはとにかくええもん観た。ええアニメ。ええ映画。再度のありがとうございます。よくわからないけど。

【ママー!これ買ってー!】


デイヴィッド・リンチ・ワールド DVD-BOX【期間限定生産】

リンチが好きだというハーツフェルトなので敬意を表してリンチの落書きアニメ『ダムランド』(2002)収録のDVD貼っときますがこっちはただもうバカなだけです。
しかし高いな。『ダムランド』ほかここに収録されてるネット発表短編はリンチ公式サイトで全部観れたはずだから高い金払わなくても観れるんじゃ…と思ったら公式サイトがいつのまにかミュージシャン・リンチのCD販売サイトになっていた! てめぇリンチこの野郎! じゃあCD買うよもう持ってるけど!

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よーく

観てから半年以上経ったけどすっかり忘れていた。ありがとう。
いきなりお礼を言われて困惑するかもしれませんが、俺は数年前にめっちゃ行きたかったのにイメージフォーラムでのドン・ハーツフェルト3部作を観に行けなかったんだ。何で行けなかったのかは忘れたけど。それでたまに暇つぶしに眺めてるこのブログでまたやってることを知って観に行ったのですよ。もう大分前だけど。そんでもう半年前からずっと今年ナンバー1映画だなこれはと思い続けていて師走も半ばに近づいてやっぱナンバー1のままだったからこの作品の上映を知らせてくれたお礼を書いとこうと思ったわけなんですよ。
ということでありがとう。
本当にこいつは素晴らしかった。言葉でもって語るのが馬鹿らしくなるというか無意味で野暮な気がするような映画を観たのは久しぶりのような気もする。ダラダラ泣きながらゲヘヘと笑ってそして脳が溶けていく、というのは全面的に同意ですわ。鑑賞するというよりも体験するという感じだった。なんか真に迫るものがあるんだよこの映画。なぁんか。それは何?と問われてもよく分からんけど。
あと「世界のことがよくわからない」という端的で鋭い(と思う)感想が最初の方に書かれてるけど個人的には最初に観た時の感想はそれにおまけを足したような感じで「世界のことがよくわからなくても別にいいよ」という感じだったな。よくわかんねーけどすげぇ面白いものとか綺麗なもんがあったら他人に教えたくなるよね?ならない?まぁ別にいいか俺もよく分かってねーし、くらいの。
よし、今年中にお礼を言えてよかった。じゃあまた面白そうな映画観たら紹介してね。
あとちなみにどうでもいいと思うけど今年ナンバー2は「この世界の片隅に」でした。いや、ちょれぇわ俺。

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