騙まし討ち凶悪映画『ヒメアノ~ル』にホゲー!っとなった感想(ネタバレないんじゃないかな)

《推定睡眠時間:0分》

まぁ半年ぐらい経った頃にこれ読んだ人はみんな忘れてると思うんですが本日は2016年6月3日なので例の恐ろしいストーカー殺人事件の記憶も覚めやらぬ中で観る運びとなった『ヒメアノ~ル』、やはり恐ろしいストーカー変態殺人鬼・森田剛が出てきて女の人に牙を剥くわけですがいくら実害がないと警察は動いてくれないからといって濱田岳みたいなダメそうな人に助けを求めても現実には絶対にどうにもならないので警察がダメなら各種相談窓口へ弁護士へ家族へととにかくある程度社会的に信頼の置けてかつ実効性のありそうなとこに相談してちゃんと対策を練ったほうがええんじゃないすかねと思うのだった。
絶対アカンだろ、ロクに知りもしない濱田岳とムロツヨシの最弱コンビになんとかしてもらおうなんて…。

そんなわけで狂気のストーカーに狙われたらどうすべきかの教訓も得られる切な系おそろし映画『ヒメアノ~ル』の感想です。

いやしかしこれはだな、森田剛がだな、実に森田剛がだな…もう森田業に改名しとけの森田剛なのだ!
キモイこれはキモイ、キモイし怖い。なにが怖いって人間が薄すぎるよ! なんの目的もなく死んだ表情でボケっとパチンコするだけの毎日、なんとなく暇になるとロクに考えもなく行き当たりばったりに殺る。でも殺しても全然おもしろくない。投げやりに死体の山を築いてはさして逃げの姿勢すら見せずパチンコ行ったりネカフェ行ったり。打つ殺る寝る。まぁ別に死刑になってもいいや。

薄いというか人間を捨ててしまっている。こないだの『ディストラクション・ベイビーズ』で柳楽優弥が人間を捨てたばかりだというのにまた人間の不法投棄か。
しかし柳楽優弥はまだ喧嘩してる間だけは活き活きとしてたがこちら森田剛はなにをしようが活き活きしない。あぁ怖い、一番タチが悪いのはこんな人間だ。殺る殺らない以前に誰にでもすぐ分かる嘘を平常トーンで吐いてそれを指摘されると「え? 言ってないよ?」と小学生レベルの言い訳を全く同じトーンで機械的に繰り返すあたり、絶対にこの人には話が通じないと思えて怖すぎるぞ…!

人間が生を感じさせない機械的な挙動を示したときそれは不気味なものになるのだとフロイトが言えば、いやそれはおかしみなのだとベルクソンは言う(らしい)。同じ毎日、死んだ表情、機械的な言動…と森田剛と同種の人間捨て人間が清掃会社に勤務するアスペ系の人ムロツヨシだったが、こちらはおぞましき不気味な森田剛とは対照的にその抑揚ゼロの表情とロボット喋りを聞いてると思わず笑っちゃうのだった。
濱田岳と佐津川愛美の恋愛ものに森田剛の狂気が入ってくる映画なのかと思ったら実は違った。馴染みのカッフェに勤める佐津川愛美に恋をしたムロツヨシは同僚の濱田岳に相談を持ちかける。「あの金髪の男、毎日ここに来て彼女を見てる。君、あいつを追い払ってくれ。彼女を守るんだ」

その薄気味悪いチャラそな金髪男こそ濱田岳の高校時代のクラスメート森田剛であり、そしてムロツヨシの恋のキューピット&佐津川愛美のボディガードをやってるうちに濱田岳は佐津川愛美とデキてしまうが、これは濱田岳と佐津川愛美を脇役として間に挟み同じ人間捨て組の不気味サイドと滑稽サイド、光と影の如し森田剛とムロツヨシが闘う映画なのだった。
そうかだから映画が始まってから30分少々経ってようやく、ちょうど森田剛とムロツヨシが共にその狭い狭い惨めな人生の唯一の希望であった佐津川愛美を失ったときにタイトルが画面に出たのか。カッコよかったぞあの出し方!

しかしこのタイトルシークエンス、あまりに直球。濱田岳と佐津川愛美が汁まみれになってヤってる画と森田剛が血まみれになって殺ってる画のカットバック。いやぁこりゃヒドイな。悪趣味もいいとこ。陰惨も陰惨。森田剛の役名がそのまま森田くん、濱田岳の役名は岡田進とあってこれはみんな大好き岡田くんを嫉妬する森田くんのV6内紛の図なのか、ついでに森田GOに対しての岡田進なのか、はははだとしたらなんだか意地の悪い楽屋ジョークだなぁと呑気に観てたがこの場面で一気に凍りついてしまった…。
いや原作は途中まで読んでたからだいたいのお話は知ってたとはいえだな、暗いお話なのも知ってはいたがだな、なんせ冒頭30分ぐらいかなりユルめの笑えないギャグと芝居が続きなんならムロツヨシのやりすぎアスペ演技にテメェらアスペとコミュ障ナメてんのかとその安易で無神経に見える作りに呆れすら覚えるくらいだったので(ただし濱田岳の童貞あるあるには笑う)、これは完全に不意打ち。だいたい濱田岳&ムロツヨシ&森田剛の和やかキャストからこんなもん飛び出してくるとは思わないだろ…チェストバスター的衝撃!

はてそっから先は濱田岳と佐津川愛美の恋愛の顛末はなどとどうでもいいことは放棄されひたすら森田剛改め森田業の殺人行脚。酷い怖い痛いのつるべ打ちでまったく参る。「めんどくさいから殺していい?」がこの映画のキャッピコピーらしいが、こんだけ内容に正直なコピーも中々ないぞ。森田業めちゃくちゃ面倒くさそうに殺すからな。それを長々とリアルな血みどろ描写込みで見せられるんでもうウンザリしきり。
人を殺すのはよくないがどうせ殺すんならもっと楽しそうに潔く殺してくれればいいのに…と思いつつも酷すぎてむしろ笑えてしまいなんだかすごく不快。そもそも前半の日常パートからしてどいつもこいつもバカで煮えきらずみみっちく不快だったので(飲み会の場面の不快さときたら!)とにかくずっと不快で救いのないのだった…もちろんイイ意味でね!

しかしこんな救いがない映画なのに最後は爽やかとの声もある。展開的にはハッピー感とか全然ないが、たぶん人間を捨てたと思われたキリングマシーン森田業もまた人の子であったと安心させられるラストなんじゃなかろか。こいつは暗い過去に囚われた愚かな哀れな人で、過去から逃げるためにキリングマシーンを必死に演じてただけだった。あぁ良かった。安心。
あれだな、ふと切通理作がバージニア工科大学銃撃事件の犯人チョ・スンヒについて書いてたことを思い出してしまう。ヤツは二次元に逃げ切れなかったのだ、現実との繋がりを諦めきれなかったのだ…(チョ・スンヒには妄想恋人がいたと学友が証言してる)

俺からすればこれは爽やかなんて微塵もなくただ切なくせいぜい苦笑するしかない終わり方だったが、なにが切ないかといえばその点に尽きる。濱田岳も佐津川愛美もそれに高校時代のイジメっ子も『マッドマックス 怒りのデスロード』(2015)のウーマンズなら全力で殺しにかかってるタイプのまったくどうでもいい人間なのに、森田業はそれだけが社会との接点で希望に思えてしまったので諦めることができなかった。人生を諦めた人のお話なんかではない。最初っから最後まで人生を諦めきれなかった人のお話だったのだ。
あーあ、諦めてさえいればキリングマシーンにならずに済んだかもしんないし逆に世界が開けたかもしんないのに。残酷極まる映画だったが、すると一番の残酷はエグエグな殺しのどれでもなく濱田岳が森田業に言うセリフの方なんじゃなかろか。「そのうち楽しいこともあるから!」。

離れられない忘れられないな森田業と違ってムロツヨシの病院での一幕は諦めと孤独の覚悟の表れに思え、けれどもそれを濱田岳と佐津川愛美は少しも理解してなかった風なんでなんだかまったく泣けてしまうのだった。
恐ろしいといえば徹底してつまらんバカどもの目を通してしか森田業とムロツヨシが描かれず存在が許されないかのよな作りがまったく容赦なく、恐ろしいのだ。

(文・さわだきんたま)

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