チャリンコドーピング映画『疑惑のチャンピオン』の感想(ネタバレとかない方)

《推定睡眠時間:5分》

癌との死闘の末に現役復帰したらむしろ癌になる前より強くなっちゃって前代未聞のツール・ド・フランス七連覇ってどう考えてもおかしいだろお前と思ったら実はちゃっかりドーピングしてましたすいませんなロードレース界のスキャンダル王ランス・アームストロングの映画。
ロードレースとかよく知らんのでツール・ド・フランスといえばクラフトワーク(↑)。これカッコイイんだよなライブで超盛り上がる。クラフトワークのラルフ・ヒュッターは自転車マニアなので一曲二曲で飽き足らず勝手にツール・ド・フランスのサントラを作ってしまい(公式になってよかったですね)、自転車に乗る人間こそマン・マシーンなのだとじゃあテクノロジーで人間解体してきたクラフトワークの今までの歩みはなんだったんだよみたいなことまで言っていた。
ドーピングというが注射一本なんて安直なものでなくアメコミ映画でよく出てくる危険な人体実験(その後に怪人化)とか『ロッキー4 炎の友情』(1985)のドルフ・ラングレンみたいになことやってたランス・アームストロングなのでこれは確かにマン・マシーンですね!

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これ面白かったのですがあれだな変に引っ張ったり厚みを付けたりしない簡潔なお話っぷりがとても心地よかったよね。俺はそんなに知らないんですがランス・アームストロングがなにやったか人かみんな大体知ってると思うので余計な説明とかなくて。心情がどうとか全然言わなくて。何が起こったか時系列順にパッパッパっと並べてくだけみたいなドライな感じっすね。好きこういうの。

ほんでだからランス・アームストロングが何考えてるか最後までよくわからない。後にUSポスタル(復帰後のアームストロングの所属チーム)のチームディレクターになる現役時代のヨハン・ブリュイネールとか、これまた後にアームストロングのドーピングマネージャーになるスポーツドクターのミケーレ・フェラーリに自分の肉体の限界を指摘されちゃったからじゃあドーピングでいいじゃんと思ったのかもしんないが、倫理の一線をどこで超えたのか不明。
ドーピング七連覇を果たし幻の有終の美を飾った後は癌患者支援のための慈善活動に勤しむ。それはとても素晴らしいことだと思うが俺は癌患者のために戦ってるんだぞドーピングドーピングうるせぇよ貴様ら! とマスコミに怒りを露わにしたり罪悪感とかないのだろかこの人は…ってなところをベン・フォスターがとってもな見事感で演じており、肉体改造っぷりも凄いのですがその屈託ゼロのベイビーフェイスがまぁ幼児的キモさアブなさそして反面の愛らしさでフリーキー、素晴らしいのです。
いや、実際のランス・アームストロングはどうか知らないけどね。

フリーキーというとギョーム・カネのミケーレ・フェラーリ、完全にマッドサイエンティスト。怪しい訛り英語でこれは革命これこそ未来そして私は天才なのだと語りながらアームストロングをSF的いかがわラボでマン・マシーンに仕立て上げるのだったが、怒られないのですかこういうふざけた演出は。
ドゥニ・メノーシェのヨハン・ブリュイネールもいかにも怪しく笑ったが、あれだなランス・アームストロングのサポート役としてUSポスタル加入のフロイド・ランディス選手、演じるはジェシー・プレモンス、これがよいとてもよい。あまりにインパクトのある面構えのため大した役柄でもないにも関わらず『ブラック・スキャンダル』ではその顔面一つでファーストシーンを飾っていたが、こちらもモニター越しにアームストロングの活躍を見つめるプレモンスの顔面、南部のど田舎教会で説教をするプレモンスの顔面、更にはコーヒーを飲むだけのプレモンスの顔面と半端ない顔面フィーチャーっぷり。後半の半分くらいはプレモンスの何人か殺して食ってるに決まってるシリアルキラー顔を眺める映画になるのだった。

このフリークな人間模様は監督がスティーブン・フリアーズと知ってなにやら納得。この人は実録もの社会派ものを堅実にまとめる職人風を装いつつ本性は悪意アリアリの嫌味なイギリス人なので『グリフターズ 詐欺師たち』(1990)とか『殺し屋たちの挽歌』(1984)とか気持ちジョン・ブアマン風のしょせん人間なんてこの程度の生き物だろ的なインテリせせら笑いノワール映画だったが、業界激震の大スキャンダルをストレートに綴った真面目な実録社会派映画と見せかけて『疑惑のチャンピオン』もドーピングを暴露したジャーナリストを含めて関係者全員をほんのりコケにして誰にも感情移入を許さないハードボイルドなのだった。

あとサントラとかカッコイイすよね。偉大なるチャンピオン、とその他もろもろの夢の終わりにレディオヘッド「ノー・サプライゼズ」。俺の人生はいったいなんやったんやと自分で困惑のアームストロングの姿にこんなの流すとか卑怯なのでちょっと泣きそうになるが、エンドロールがレナード・コーエン「Everybody Knows」なので皮肉だったことに気付く。ミ…「ミセス・ロビンソン」…ふざけた選曲しやがって面白いなまったく!

こう、なんついますかよーくよーくシャープにキマりつつフリーク趣味と皮肉が隠し味的に染みたよい映画だったなぁ。
いったい何者だったんすかねランス・アームストロング。

(文・さわだきんたま)

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むしろドーピングしてない選手が少数派なのでドーピング実態をチクった選手をレース中に他のドーピンガーが集団イジメと自転車乗りが信じられなくなる『疑惑のチャンピオン』なのでこういう爽やかな映画で解毒する必要がある。
観てないけど。

↓その他のヤツ
偽りのサイクル 堕ちた英雄ランス・アームストロング
シークレット・レース―ツール・ド・フランスの知られざる内幕 (小学館文庫)
ただマイヨ・ジョーヌのためでなく (ランス・アームストロング著)
ミラクルトレーニング―七週間完璧プログラム (ランス・アームストロング著)
※そのプログラム大丈夫なんでしょうか…

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