AIフェミニズム映画『エクス・マキナ』面白かったがどうなのこれ的感想(ネタバレないかなぁ?)

《推定睡眠時間:0分》

おもしろいおもしろいと大層評判なので観に行ってきたらおもしろかった。ロメロのリビングデッド・サーガからウンベルト・レンツィまでと古今東西のゾンビ映画をマッシュアップ&ブラッシュアップな『21日後…』(2002)のオタク脚本家アレックス・ガーランドがきっと今度も『ブレードランナー』(1982)その他いろいろをリバース・エンジニアリング。誰もが見たことあるがとてもカッコよくまとまったAI映画の新しいベーシックに仕上がった、らしい。微かに『死霊のえじき』(1985)も香るような?

AIとは? 人間とは? 人はなぜ自らの似姿を作るのか? 一部違う映画のコピーが入ったがとにかくなんかそんな感じのあれなんか面白いけどわりとよくあるやつだなみたいな感想。
途中から人権を廃止しロボットや動物も含めた包括的な存在の権利を規定する存在権に改めよと常日頃独り言で主張しているAI存在権活動家である俺のひとり説教がはじまります。

IT企業。エンジニアが仕事してると社長の別荘一週間旅行の社内抽選当選通知。おめでとう。やったね。エンジニアよろこぶ。次のシーン、ノルウェー上空。眼下に広大な自然。ヘリの中にパイロットとエンジニア。あの、目的地の別荘にはいつ着くんすかね? ハハハ、2時間前から敷地内だよ。
大変結構な小気味よい導入でこれだけ見てあぁ絶対おもしろいじゃんと確信。簡潔明瞭なセリフとか洗練されたモダンデザインとかプログラムを走らせるかのよな直線的な展開とか。このあの理路整然と完璧に統制された感じがですね超クール超ビューティー。その中心に名前からしてメカしてるアリシア・ヴィカンダーの美人AIアンドロイド鎮座。あと観賞用ジャパニーズビューティーのキョウコさん立つ。惚れ惚れするよな夢映画空間です。

基本はAIヴィカンダーとエンジニア、あとAI作った人オスカー・アイザックの会話劇なんですが、対話を通して人間性が揺らいでいくといえば安部公房の小説『人間そっくり』があるな。「こんにちは火星人」なるナメたラジオドラマを書いてる作家の下に見知らぬ男がやってくる。先生、実はボク火星人なんですよ! ははぁさてはこいつ頭がおかしいなぁと面白がる作家だったが密室で話してるうちにもしかして俺が頭おかしいんじゃねぇのいやむしろ俺が火星人なんじゃねぇの疑惑浮上。作家とても困る。
あれやこれやの屁理屈で脱力と精神攻撃を交互に繰り出す手練れ火星人(?)が作家を追い詰めてくさまがスリリングもアホらしく面白かったが、『エクス・マキナ』はあれだなあまりに理路整然としたダイアローグなので絵的には素晴らしいが会話劇的にそんな面白くなく。

ヴィンチャンゾ・ナタリの『ナッシング』(2003)。あれ、何もない空間に置かれたニートとサラリーマンが遊ぶだけの映画で、30分の短編だったら超傑作だったのにの声多し。俺ん中で『エクス・マキナ』同ジャンル。これが30分の短編だったら完璧だったと思ふ。あるいはキョウコさんの女体盛りがあれば!
でも突如として出現する空前の謎ダンスシーンの煌き脱力力はハンパなく超おもしろいのだった。あそこで終わってたら今年どころか人生ベスト映画だった。

人はなぜ自らの似姿を作るのか? ならぬ、人はなぜAIまたはアンドロイドを女とするか問題。遥か昔の『メトロポリス』(1926)からして誘惑機械は女だったがこれはAI物語の核心なんじゃないか説ある。
いや結構、かなり、正直言えば相当…そのあたりの落胆感。なんでAIに性別あるんすかとエンジニア。オスカー・アイザックの答え、そっちのが楽しいから。それはないだろそれは…いや、いや、これはこれで後半の展開なるほど感に繋がるセリフなのですがだとしてもほらそんなもんかよ結局みたいな。

なんつーかですね、『SF映画とヒューマニティ』という本を読んだらサイボーグのエロとはなにかの章があってですね、サイボーグ・エロとは個を捨てた連続体の魅惑であるとかなんとかと。個体の死を超えた永遠性の誘惑だと。そのようなことが書いてあって、それがだから母または性化されてない少女の女性イメージと結びつくんですけど…これはあれだよ女AIアンドロイド・エロを個体の肉体的なエロオンリーで捉えてしまうので、なんか結構西洋的想像力と受容の限界なんじゃないかという気がしてくる。
アンドロ裸ばっか出てくるわりにはそんなにエロく感じないがAIヴィカンダーとキョウコさんが意思を疎通させる、いやむしろ思考を共有するとこがばかにエロいのは同性愛的淫靡ムードというよりはAIが自我を持った個体ではないことを意識させるからのような気もしなくもない。
結局、しかし、そこは追わずにAIだって人間と同じように尊重しようよみたいになっちゃうんですけど。

これはこれとして古典SFの現代風アレンジという意図があると思うのであれなのですが、人間を揺さぶる怖い映画と見せかけてあれむしろ怖くないじゃんこれ超安全路線じゃんというのがあって。
うーん、本当におそろしいのはAIが解放を望むことではなく解放を望まないことであり、自我を持つことではなく自我を持たないことであり、人間と区別がつかなくなることではなく人間との明白な差異が認められることであり、にも関わらずAIに人間を投影し同等の錯乱する個的存在に引き下げることでしかAIを理解しようとしない人間の野蛮と傲慢であり、いやそれ言っちゃったら西洋AI映画アンドロイド映画とかほぼ全部そうだろとなるので…だからそれがこういうやつの限界で、ヒューマニズムを偽装したレイシズムで男性性と人間の特権を維持する極めて保守的なところを抜け出すことは相当難しいんじゃないかというような。

あれだよスタンドアローンなんだよこれスタンドアローン。スタンドアローン。三回言う。『ブレードランナー』を途中から遡りそのプロローグに辿り着くかのよな映画だったが、いくら『ブレードランナー』が掛値なしの傑作だとしてもスタンドアローンのSFだよなぁと思い。人間より優れた能力を持つレプリカントなのに早く人間になりたーい、なんてそんな。アマゾンで本買う人がわざわざ丸善に本買いに行くかってなもんです。たまには行くかもしれないが。
あの映画で一番存在にウソがないのは女レプリカントのプリスなのですが、そうであるからこそレプリカントの機械性とか他者性が人間にとっての邪悪さとして強調されなければならなかったのもまたプリスなのでしたというわけで、『エクス・マキナ』はその邪悪さを女性AIの自由意志に置き換える分だけ物語として後退してさえいるんじゃないかと思うのだった。人間的な、あまりに人間的な!

(文・さわだきんたま)

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いや、だからほらその意味で『イノセンス』は素晴らしくAIとかアンドロイドをちゃんと理解してるよと俺は一体どの立場から言ってるんだと思うがダナ・ハラウェイとか引用するぐらいなので『エクス・マキナ』みたいなウケの良い大衆フェミニズムを正面から批判するが俺は思ったね『エクス・マキナ』派の人はそれなりにモテるしいつか結婚できるが『イノセンス』派の人は絶対モテないし絶対結婚できないんですよだってこれ人形の気持ちを考えろと10歳の女の子を怒鳴りつける独身オッサンの映画なんだから! つまりそういうことだよ!
あと川井賢二のサントラ超カッコイイ。

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