『後妻業の女』は巨匠・鶴橋康夫の渾身の一作だ!(ネタバレなし)

《推定睡眠時間:10分》

「名匠・鶴橋康夫が超豪華キャストと送る愛とお金の人間喜劇!」だそうですがいや誰だよ鶴橋康夫。『後妻業の女』、サントラCDのジャケットはスチルとかじゃなくて鶴橋康夫らしいがなんでだよ鶴橋康夫。俺が知らないだけで有名な人なのかよ鶴橋康夫。
ウィキを見てみる。なんでも業界では有名な人だそう。たくさんテレビドラマ撮りました。ギャラクシー賞もらいました、紫綬褒章もらいました。映画の方の代表作は『愛の流刑地』(2006)です。鶴橋監督は語る。

「テレビジョンっていうのは、遠くを見るっていうのが語源でね(…)いちばん遠いものって何だろうって考えたら自分の心じゃないかなと。だから心の闇を見てみよう」
「他のドラマに対抗するのではなく、一流の文学や映画に対抗し得る、人の人生に深く刺さるような作品を創って、映像で人々を説得したい」

名言の数々の他にも〝芸術祭男”〝鶴橋学校”など大物を感じさせる語句が並ぶ鶴橋監督のウィキ。これはすごい。すごい典型的に高度経済成長期の日本を駆け抜けたオヤジのイメージしそうな教養深くて誇り高くて独立独歩・泰然自若、時流に乗らずウィットに富んだユーモアでもって世相を切ってみせたり人生の酸いも甘いも噛み分けた風で「男ってのはね…」「女って生き物は…」などと聞いてもいないのに語り出したりするカッコイイ俺! 伊丹十三みたいのになりたいだろお前!

そんな人が撮った映画。予告編は鶴瓶のイチモツに仰天の大竹しのぶの図。「通天閣どころやない…スカイツリーや!」。
完全にその時代錯誤をバカにするつもりで観に行ったのですが予想外におもしろかったので鶴橋監督なんかすいませんでしたお前とか言ってっていう感想。

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あのそれで後妻業というのは寂しい熟年やもめに取り入って財産かっさらう人。これとかですね振り込め詐欺とかですね熟年詐欺というのはそんなアホらしい手口むしろ引っ掛かる方が難しいだろと思ってしまうのでニュースで聞いてもあまりリアリティが感じられないのですが、一方でそのバカバカしいものは確かに現代日本の一つのリアルなのだと思い知らされたのが『後妻業の女』。
至る所に正論の蔓延るネットにどっぷり浸かっているのでたとえば道端にウンコが落ちてるの見たら誰だって避けようとするだろと思ってしまうがしかし! 自らウンコ踏みに行ってそのくせ靴が汚れたら誰かに当たり散らす、人間のリアルはだいたいそんなもんである、現実に正論なしと巨匠・鶴橋先生に教わります。

ほんでこれやっぱ関西が効いてるんじゃあないですか。あの猥雑。汚ったない埠頭の倉庫街とかばっか撮ったりして。タバコ吸い放題のクラシカル喫茶店とか近所の人間しか来ない営業してんだかしてないんだか分からない美容院みたいな平成を感じさせない場を威圧的な関西弁が飛び交うってわけで、自分からウンコ踏みに行く系人間の存在をなんかすごく納得させられましたねこういうのね。
するとなんだか濃そうな気がするがしかし意外とコテコテしてないところが面白く…ブラック結婚相談所の所長・豊川悦司と結託して後妻業を営む大竹しのぶ。次々とジジィを毒牙にかけ大金をせしめていくが…的なお話なのですが、その処理の仕方というのが。なんか洒落っ気あるっつーか垢抜けてるなこれ。カットが多くてどんどん編集で切ってくスタイル。色んな奇人変人悪人が出てくるがフラットで誰にも感情移入させないブラックコメディ。こういう感覚、テレビドラマの人だからかもしれない。

最初の場面、トヨエツ結婚相談所主催の婚活イベント。体を動かして健康に婚活しようというわけで真っ白な砂浜でゼッケン付けたジジィババァどもがかけっこしており、参加者を装った大竹しのぶはそこで体の悪そうな(そして金を持ってそうな)ジジィを物色。
所詮この世は食うか食われるかのサバイバルよの乾いた世界観をフラメンコギターの調べに乗せて軽妙に印象付け、このキャスト、このタイトル、そして「スカイツリーや!」から想像される湿り気とダサさを吹き飛ばすのでした。

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ところで大竹しのぶは白い日傘を手にこの砂浜に現れるのですが日傘と大竹しのぶと言えば石井隆の『死んでもいい』(1992)。永瀬正敏との不倫が旦那の室田日出夫に知られてしまい関係を断ち切った大竹しのぶ。しかしどうしても忘れられない。こうして大竹しのぶは再び永瀬の下を訪れるのですが、その時にもこの人は日傘を差していたのでありました。
誘惑する女のイメージとして引用してるのかと思ったのですが、たぶん偶然ではないのはちあきなおみ『黄昏のビギン』を大竹しのぶが歌う場面があったから。これ『死んでもいい』の挿入歌としてとても印象的に使われてましたよね。

こういうお話なのでやはり『黒い家』(1999)とか『ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う』(2010)なんかの大竹しのぶ男を殺して金にするシリーズも連想させられたりしますが、もっと広く大竹しのぶという人そのものをネタにしてるメタ的な女優映画なんじゃないですかねこれは。寂しいジジィを手玉に取っての後妻業、とくれば当時現役最高齢映画監督であった新藤兼人のミューズとして晩年の作品群を支えていた時の姿もダブる。
そういえば新藤兼人の『石内尋常高等小学校 花は散れども』(2008)には大竹しのぶと一緒に豊川悦司も出ていたはずなのでした。いや、なんだか笑っちゃう意地の悪さなのですがエスプリといった風でいやらしさを感じないのが『後妻業の女』のすごくええとこです。

必要以上に語らない乾いた作りの中で後妻業の悲哀が滲んでしまうのはさすがに大竹しのぶ。怒鳴りながら小銭をパクってく風間俊介のチンピラっぷり。闇探偵・永瀬正敏のハードボイルド小物っぷり。どんどん汚い役柄ばかりになっていく余貴美子。後先考えず下半身に突き動かされるアホのトヨエツ。鶴瓶の「どや、ホテル行くか?」。この素晴らしくいやらしい響きが笑福亭ブランド。鶴光も出てます。
役者に対する洞察の鋭さと適度な遊びの混成様式がザ・業界人な昭和教養オヤジ的余裕。なんとなく腹が立つが面白いので…。

とまぁそんな具合で、色んな角度から味わえるとっても見どころが多い映画でありました。

(文・さわだきんたま)

【ママー!これ買ってー!】


映画「後妻業の女」オリジナル・サウンドトラック

これ音楽わりと良かったんですけどそんなことより何故かジャケ写になった鶴橋康夫の巨匠っぷりがマストバイ。

↓その他のヤツ
後妻業 (文春文庫)

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