『ハドソン川の奇跡』『築地ワンダーランド』『何者』三本マッシュ感想文

三本立ての名画座ってもう絶滅寸前なのでせめて感想だけでも、の三本立てプログラムです。
『何者』、こういうの大嫌いだけど目が離せなくなっちゃった。『築地ワンダーランド』、嫌いだけど築地の映像は楽しい。『ハドソン川の奇跡』、イーストウッドの職人芸堪能でもこういうの嫌い。
なんか嫌いばかりなのですが面白かったけど嫌いな三本の共通点はお仕事映画なことです。つまりぼくはお仕事が嫌いなのです!

『ハドソン川の奇跡』

《推定睡眠時間:15分》

「良かった」の一言で感想済むじゃん的職人芸映画で、なんらひけらかすところも歪に感じるところもないので心地よく記憶の表層をスルーするー。タルコフスキーは究極の映画体験とは画面を見ない(=寝る)ことであると教えてくれますが巨匠イーストウッドは記憶に残らないことが至高の映画体験であることを教えてくれます。

ハドソン川に緊急着水、はいはい助かるんでしょと知ってはいるがドキドキしちゃうサスペンスなのですがこのドキドキシーンと、着水後の救助シーンのトーンが一緒。墜ち行く機体の中で頭を下げてコールを機械的に続ける添乗員、乗客の一人一人が脱出するところ、駆け付ける近くのフェリーや沿岸警備隊の人たち、なにがあったんやと現場に直行の新聞記者、などなどつぶさに活写、キャプテン・トム・ハンクスを特別視しないで全員均等。
単に職務を全うしただけ、の人々のカッコよさ。家に帰るまでがお仕事ですのプロ魂。

つまりそういう映画。ここにはヒーローもおりませんしヒールもおりません。淡々と働く名もなきお仕事人たちがいるだけ。ことさら何かをクロースアップすることがない、わざとらしく盛り上げるということがないので、へぇすごい事があったんだなーで翌日には忘却の海。
ラスト、緊迫の公聴会、と思いきやのオールドウェスタン的竹割り勧善懲悪に気が抜ける(あのシミュレーションなんだったの!)。ちょっとしたジョークで気が抜けたまま幕。

何故? と言われたら「プロだから」のたった一言。こういう現場主義の労働賛歌映画にはジンマシンが出るのですが、マンハッタンで航空機事故発生の題材を明日になれば忘れる映画としてやられちゃったらそんな、やっぱプロの仕事すげぇなぁとしか言えないよね。ありがとうプロの人。

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『築地ワンダーランド』

《推定睡眠時間:0分》

見ているとトム・ハンクスの漁師姿が浮かんでくる仲卸とか寿司職人とか築地図書館の人とか色んな築地関係者が出てくるこのドキュメンタリー映画なのですが、膨大なインタビューを勝手にまとめるとやはりたった一言「プロだから」。
『ハドソン川の奇跡』労働賛歌でありつつニューヨーク賛歌だったように働く人と働く場は切り離せませんので、こちらも場としての築地だけじゃなくてそこで働くプロの姿を観察する社会科見学映画なのでした。カメラがネコの目になって自由気ままに築地探検にゃあ。たのしい。

だが築地すげーおもしれー大きな生きものみたいと思いつつも終始、苛立ちっぱなし鑑賞。映画っつーのは期待して観に行くもんじゃない説にまた一つ確信を深めるが、ということはつまり俺は相当この映画にワクワクを持っていたのだ。
だってワンダーランドでしょ、ワンダーランド。ワンダーランドには期待するよだってワンダーランドですもん。しかし、実際、これはたぶん、「Pen」か「BRUTUS」の特集の映像化のような映画だったように思う。夢いっぱいワンダーランドじゃないと思う夢のないスノッブオッサンが見るやつだと思う。始めからクソだと分かって観る『代官山ワンダーランドHORROR』(1987)のような映画よりワンダーランドの部分での落胆は大きい。

様々な分野のプロにお話聞きます。それぞれのお仕事論とか引き出しますがそれ以上は踏み込みません。一貫性のないエッセイ的な構成。築地の構造を切り取る確固たる視座とかありませんしかといって、別に詩があるわけでもないんじゃないですかね。ドローンとかで築地さまよいます。映像はプラスティック的に美しいけれどこれはどこかで見たことがある。
『二郎は鮨の夢を見る』(2011)は銀座の名店すきばやし二郎のドキュメンタリー映画。その中に店の二代目が築地に買い出しに行く場面があったのですが、撮影のアプローチが『築地ワンダーランド』とよく似ていたように思う(すきばやし二郎は『築地ワンダーランド』にも出てた)

『二郎は鮨の夢を見る』、大好き。なにが好きかってなにも無い。アメリカ人監督が興味本位オリエンタリズム丸出しで寿司と寿司屋と築地を綺麗に綺麗に撮った。美しいけれどそれだけ、の空疎に夢見心地。
『築地ワンダーランド』はどうか。俺はですね俺は、美しいが単なる広告でしかないようなものがさも高尚なメッセージでも持っているかのように振舞うのは品の無いことだと思いますね。

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『何者』

《推定睡眠時間:0分》

ところで『築地ワンダーランド』の冒頭には日本人女性による英語ナレーションが入るのですが、本編の言語は日本語であるし英語字幕は付きません。つまり単に日本人向けのアクセサリーでしかない英語ナレーションというわけで、舶来物ありがてぇの島国根性かよバカ野郎いま2016年だぞなのですが、『何者』の就活戦士たちの中でも一際意識が高くホリエモンとイケダハヤトに影響され(※想像です)「今の時代、組織に属すって無駄だと思うんだよね」とか何のスキルもないくせに言ってのける岡田将生の名刺もやはり意味もなくローマ字表記なのでした。決めゼリフは「今度一緒に仕事しましょう」(※してません)

『築地ワンダーランド』への怒りが収まらぬまま『何者』を観たらなにか腑に落ちるところがあった。
『何者』、なんの面白味もない付和雷同クソ就活生たちが時には代官山か中目黒に違いないクソ洒落たカッフェその名も「WHO ARE U ?」でなんだか知らねぇ筆記体英語メニューのクソカクテル飲んだりしながら部屋に仕切りの無いデザイナーズクソシェアハウスでテラスハウスに就活共闘と相成るがその実水面下ではマウンティング合戦が繰り広げられており本名アカとは別にみんな持ってるツイッター裏アカが地獄というお話。だから本名アカウントは信用できないんだよ!

もう死ぬほどどうでもいい話で、就活あるある学生あるあるツイッターあるある、とにかく今を感じさせるあるあるを並べるだけでポストモダン文学的な意味で物語はなにもないように思うのですが、映像はこれもですよこれも最近のトレンドで小奇麗な淡い画調のアレ、中田ヤスタカの音楽は過剰に感傷的だったりドラマティックだったり(笑ってしまう)でなんとなく見ちゃう狡い作り。
この作りをドキュメンタリーに適用すればきっと『築地ワンダーランド』。あるいはクソ就活生の一人が映像制作方面に進んで『築地ワンダーランド』を撮ったという妄想二次創作が可能なんじゃないかと思い至り、『築地ワンダーランド』に感じたムカつきの一部がこうして判明。

つまりあれは、労働の印象を表面的に掬っただけでリアルな築地の労働には目もくれないといったところに嫌味があるんじゃないか。で、その労働に対する態度は『何者』の就活生どもと同じように感じるわけで、こちらはこちらで就活のお話にも関わらず誰一人具体的な労働を語ろうとも触れようともしないのでした。
お前らまとめて築地で働いてみろバカ!

原作の朝井リョウという人の本は読んだことないのですが大好きな映画版『桐島、部活やめるってよ』(2011)もやはりそういう不在の何かについての井戸端会議映画だったので、読みもしないうちにその卑屈な凡人っぷりが嫌いになる。
将来と有能なスターの不在だった『桐島』に対して今度は労働と無能な愚か者の不在っすか。前田くんが見えなくなるわけだ『桐島』で言うところの。結局同じこと裏表じゃねぇか朝井リョウこの野郎と噛みつきたくもなるがそのメイン分身と思われる佐藤健の、結局は有能にも無能にも突き抜けられず不在のものを常に語り続けることでしか自分を保てない凡人の苛立ちと怯えには共感せざるを得ないので、朝井リョウに腹を立てれば立てるほど自分にも腹が立ってくるという下唇甘噛み映画体験。

あぁ不愉快あぁ面白い。困った。俺はこの映画はクソにクソを塗ったクソだと思いますが、こんなどうでもいいあるある話の最後に必死で自分の物語を紡ごうとする人物を置くことのお行儀のいい巧みさ(『桐島』と同じですが)にはしゃらくせぇがグッときちゃうので、その軽薄なスタイルが結局は内容そのものになっている面白さも含め、知りませんけどこれいい映画なんじゃないすかね。

(文・さわだきんたま)

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ほんのりゆかいな社会科見学映画の名品。

↓その他のヤツ
機長、究極の決断 (静山社文庫)
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何者 (新潮文庫)

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