奇才・堤幸彦最新作『RANMARU 神の舌を持つ男』の感想です(『真田十勇士』もあるよ)

《推定睡眠時間:0分》

その直後にあるオープニングシーンと一部説明の重複があったため完全に急ごしらえの後付けだと思われるダイジェスト/イントロダクションで狂言回しの、おそらく愛のあまり巨匠・堤幸彦がキャリアの大半をそのパロディに費やすこととなってしまった市川崑版・金田一耕助シリーズにおける加藤武の役柄であるところの佐藤二朗の、「みなさん意外とこのドラマをご覧になられていないようなので…」のジョークが平日日中とはいえ客入り10人以下の状況ではシャレになっていなかったのですが、『ケイゾク』『池袋ウエストゲートパーク』など数々の傑作を同局で生みだした堤幸彦の、原案も手掛けた肝いり企画である、プライムタイムのTBSドラマが、視聴率が3%台という衝撃の事実。これジョークじゃなかったんですね本当に誰も観てなかったんですね。

俺もドラマ版は観てませんが、しかし! おもしろかったぞ『RANMARU 神の舌を持つ男 鬼灯デスロード編』。おもしろかった。何度でも言う。おもしろかった!
たぶん隠れトランプ支持者こんな心境じゃないですか。

ところでその面白い『RANMARU』の前に今年公開されたもう一本の堤幸彦映画『真田十勇士』なのですがこれは酷かった、どのくらい酷いかというとずっと寝てたのであまり覚えていませんが上映終了後にこのつまらない映画はなんだと劇場スタッフに苦情を言うオッサン客がいたぐらい酷かった。
つまりは堤幸彦版『ルパン三世』のようなものであるらしく。それも『カリオストロの城』(1979)のようなものであるらしく。中村勘九郎演ずる飄々としつつも奸智にたけた猿飛佐助がグリーンジャケットのルパンといった風で。その曖昧なイメージが先行するばかりで上滑り空回りの…。

いやどうせおもしろくないからそれはどうでもいいのですが堤幸彦は仕事は選ばないが器用な人ではないので興味のない企画は本当に興味がなさそうに撮るし下手な時には考えられないくらい下手だったりしますが面白いときには面白い、なにかと堤幸彦に風当たりの強い世間に向けて我々堤幸彦ファンはまずそう説明しなければいけません。
みんな誤解してるよ! 堤幸彦はダメな人じゃないんだよ! ダメな映画もいっぱい撮ってるだけなんだよ! これは辛抱強くアピールしていきたい。

それで『RANMARU』ですがどうおもしろいのかといえば。冒頭、なにかを舐めるだけでその成分を解析できる神の舌を持つ男・向井理が行倒れになったところで岡本信人・渡辺哲・矢島健一の三人組登場。
この三人がズーズー弁で話す。渡辺哲はランニングに短パン。佐藤二朗がつっこむ。「裸の大将!」。それから、興奮したり驚いたりすると渡辺哲の顔が電波少年の松本明子みたいに拡大されたりとかする。

どうだおもしろいだろう。葛城ユキに心酔し「ボヘミア~ン」が口癖の財前直見がかつて主演したサスペンスドラマ『QUIZ』のセルフパロディをやるんだぞ。どうだおもしろいだろう。祟りババァの集団がほらあのEXILEのチューチュートレインのあの動きをするんだぞ。どうだおもしろだろう。
このタイトルは略称で正式には『RANMARU 神の舌を持つ男 酒蔵若旦那怪死事件の影に潜むテキサス男とボヘミアン女将、そして美人村医者を追い詰める謎のかごめかごめ老婆軍団と三賢者の村の呪いに2サスマニアwithミヤケンとゴッドタン、ベロンチョアドベンチャー!略して…蘭丸は二度死ぬ。鬼灯デスロード編』という。どうだおもしろいだろう!

言っておくがこういうのクソつまんねぇとか斜に構えてテメェは東京的シュールと称する逃げ道を確保した滑り芸しかやろうとしないようなヤツの方が往々にしてつまんないからなそれだけは言っておくからな。

愛は認識を歪ませるのでこのネタのチョイスと演出センスは古すぎるのではなく一回転して懐古趣味でありアンティークであるとの結論に至る。アラサーにとっての『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005)が『RANMARU』であると言っても過言ではない。
弟子筋に当たる大根仁などはその方向でサブカル中年層にアピールして成功を収めているわけだから、映画ファンほどこういう映画を嫌うがお前ら堤幸彦がいなかったら大根仁もいなかったかもしれないんだぞと釘を刺しておく。
よいかね! 堤幸彦が大作漫画原作映画に先鞭をつけたからこそその死骸の上に『アイ・アム・ア・ヒーロー』のような傑作も生まれたのだ! 桜の木は死体の上に生えるというぞ!

ちなみにこの下らなさにも関わらずお話の骨子はむしろ横溝的な正調田舎ミステリーな『RANMARU』にはきっちり社会問題も織り込まれており、その表現がまぁ意図は分からなくもないが今の世でどうなんだと思ったりするPC的にアレな類のものなのですが、こういうの良くも悪くも大作で適当に稼いだ金で問題提起の側面の強い自主映画を撮ったりもする堤幸彦の意識の高さがなせる業なのでありました。
こんなしょうもないバカ映画で社会を斬っても…つまりそれぐらい堤幸彦は本気だということだ!

でも『金メダル男』もそうでしたがテレビの人は木村多江にコントやらせて辱めるのやめてほしいとおもう。

【ママー!これ買ってー!】


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おもしろいから…意外な社会派であり同時に意外な映画ファンでもある堤幸彦のシリアス面での意外な本気が見れる『天空の蜂』おもしろいから…本当だから…。

↓その他のヤツ

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RANMARU 神の舌を持つ男 ~鬼灯デスロード編 (角川文庫)
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