映画『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』を考える(雑ネタバレあり)

どのみち軍事衝突は避けられないのだから戦闘被害を最小限に留める方策を練るべきなのだ。ウォルター・マッソー演じる「現実主義」の政治学者が戦略会議の場で核の限定戦を提案すると幕僚から反対の声が上がる。それは違う。いかなる戦闘行為もあってはならない。核の限定戦など不可能だ…。

米ソ核戦争の危機を克明に描いたデジタル戦争映画の嚆矢、シドニー・ルメットの傑作『未知への飛行』(1964)の一幕が『アイ・イン・ザ・スカイ』で立場を入れ替えてコンパクトに再演されていた。タカ派の文民とハト派の軍人か、などとマッソーは皮肉っていたのですが、ここでは自爆テロを防ぐために民間人を犠牲にすることを厭わない国防相のベンソン中将(アラン・リックマン)と一人の犠牲者を出すことも認めない外相(違ったかもしれない)がロンドンの内閣緊急事態委員会の場で火花を散らす。

おそらく『未知への飛行(FAIL-SAFE)』を下敷きにしているというのは導入と結末だけ見てもまず間違いないんじゃないかと思うので、『FAIL-SAFE 2.0』としての『アイ・イン・ザ・スカイ』の感想。曖昧なネタバレ(既に)あります。

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ところで『未知への飛行』と『アイ・イン・ザ・スカイ』の最大の違いはどこにあるかといえば、『未知への飛行』がまさに未知の領域を模索することの恐怖と混乱の物語であったのに対して、それをそっくり裏返したような『アイ・イン・ザ・スカイ』では全てはクリアにモニターに映し出され未知のものなど何一つ存在しない。
不確かな情報が錯綜する中で生じていたコミュニケーションの断絶の問題は克服されて、あらゆる情報は精査されたうえで関係各位に共有されリアルタイムで淀みのないコミュニケーションが可能になった。

そういうところが違うと思うんですが、これ映画が始まると「戦争で最初に死ぬのは真実だ」みたいなエピグラフが出る。実はそれが主題らしくて、俺はドローン戦争の倫理的な是非を問う系のあれかなと思ってたんですけどむしろそういう面は意外なくらい薄かった。
焦点が当てられているのは最終的な判断の妥当性じゃなくてどのように決断されたかっていうその合意の形成過程の方だったんですが、そう考えると『未知への飛行』との比較は有効じゃないかと思うわけでして。

つまり『未知への飛行』では最後の最後で最悪の事態を回避するための「最良の」最悪の手段が取られるのですが、それはヘンリー・フォンダという理想のアメリカ大統領の超越的な独断でしかありえなかった。
『アイ・イン・ザ・スカイ』ではこういうことはないわけですよ。法的に問題がないかとか、情報戦略的にどうかとか、もちろん倫理的にどうかとかも含めて絶対に飛躍しないでルールに則った丹念な検討作業と議論が延々続く。

それが皮肉なのは。国家的に重大な判断について情報テクノロジーの進歩というものが隙のない文民統制と手続きを保障することになったが。どちらに転んでも厳しい結果が待ち受けていると分かったときに、誰もその判断に責任がとれなくなったときに、情報の方を都合よく捻じ曲げて判断を正当化することが結果的に英雄行為になってしまう。
ひとつの誤った情報によって核戦争の危機に陥る『未知への飛行』では不完全な情報環境に中にあって正しい情報が希求されていたのに、いざ完璧な情報環境(神の目だ)を手にしてみればその正確さこそが自らの攻撃対象になってしまう。

すべてが未知の世界とすべてが既知の世界はメビウスの輪のように繋がってしまうというわけで、その中で「真実」の価値がダダ崩れして無になってしまうというのが『未知への飛行』と比べたときの『アイ・イン・ザ・スカイ』のおそろしいおもしろいところだなぁと、なんかそんなこと思うわけです。

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それにしても登場人物と肩書と所属組織が多彩で混乱。人物相関図きっと必須。公式サイトに載ってなかったのでパンフレット買っておけばよかったとおもう…。

出てくる人でよかったと思ったのはいやまぁテロリスト殺害作戦を指揮するヘレン・ミレンとかですねアラン・リックマンとかですね当たり前のようにええ感じなんですけれどもやっぱりナイロビの現地工作員の人が。この人いちばん頑張ってたよな。
体張ってるしハラハラポイントも笑いポイントも子供との交流ポイントも一手に引き受けていたので…会議室で議論してる場面ばっかりな映画ですがこの人がスパイ映画要素と現場リアリティをスパイス的に持ち込むんで退屈しないで済んだよかった。
バーカッド・アブディつー人だそうで知らない人だなぁと思ったら『キャプテン・フィリップス』(2013)の海賊だそう。あーあの!

あとおもしろかったのはあれですねあんまよくわからないんですけど、これイギリス映画ですけどアメリカ主体の軍事行動を批判したようなというか、アメリカやらかしトピックみたいの集めた作りになってるっぽいじゃないすか。
攻撃許可を取り付けるためにヘレン・ミレンが被害予測を捏造するとことかやっぱイラク戦争のときの大量破壊兵器を連想するじゃないすか。ドローン誤爆とか言うに及ばずですけど、モニターの中の戦争って言われたらニンテンドーウォーってなるし。
映画の中だとイギリス側が英米合同のテロリスト殺害作戦を主導してるんですけど、でもドローン飛ばして実際に攻撃するのはアメリカ側っていうその捻じれ。そういうところ興味深いなぁっておもいました。

いろんな人が出てきて右往左往っていうところでパニック映画のような趣もあったようなかったような気もし、奇しくも『未知への飛行』とはウォルター・マッソー繋がりで『サブウェイ・パニック』(1974)を連想。あれもそういえば管制室のモニター(というか制御盤?)越しに事態が進行する映画だった。
なにか、パニック映画的危機状況のデジタル化は人のネットワークの縦軸ではなく横軸に比重を置く作劇を身近にしたのかもしれないなぁとかそういうことも考えさせられるような。

とにかくなんか色々考える映画すねこれは。面白かったです。最後めっちゃやるせないけど…。

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『未知への飛行』はジョージ・クルーニーがテレビの生放送ドラマとしてリメイクしたそうでいかにもジョージ・クルーニーっぽい意識の高さだなぁとか思うんですがそんなことよりこの時の監督がスティーヴン・フリアーズっていうのがおもしろいっすね。
このクセモノ英国監督を中継点にするとなんかルメットと『アイ・イン・ザ・スカイ』の繋がる線が見えるような気がするわけですよ。実際どうかは知らないけど。

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さるこ

こんにちは。さわださまを眠らせなかったこの映画はスゴイ(のかな?)。私は最後にもう一度パンを買いに走らせるエピソードに泣きました。これはあかん。

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