映画食べ比べ感想『スノーデン』VS『シチズンフォー』

《推定睡眠時間:0分》

具体的にいつの時点だったか忘れちゃったんですがたしかCIA入局前後、その後パートナーとなるリンゼイ・ミルズと出会ったジョセフ・ゴードン=レヴィットのスノーデンがワシントンD.Cでのデート中に反ブッシュ・デモに遭遇する場面があって。その人もまばらで活気のない風景に『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』(2015)のラストシーンが重なる気がした。
『世界侵略のススメ』、ムーアがヨーロッパを歴訪してアメリカにはない制度や精神風土などなど学んでいくみたいな他愛のないドキュメンタリーで、旅の終わりでムーアはベルリンの壁の跡地を訪れる。
で語るわけです、まさか壁が崩れるなんて思わなかったよなぁ、とか。あの出来事は俺たちに希望をくれたんだ、とか。そういうオールド左翼の思い出語りを感傷たっぷりにやる。

デモを横目にちょっとした政治談議をおっ始める情熱的なリベラルのミルズと理知的な保守のスノーデン。議論は徐々に白熱してこりゃ敵わんと見たミルズは論破される前に強引にキス。かくて二人は結ばれるの『いちご白書』(1970)的左翼ロマンス。
ベルリンの壁を語るムーアの頭にはきっとこういう光景があったんじゃないかなど想像すると壁、というもの、それにこの人がトランプの勝利を予言したことでちょっとした話題を呼んだことも含めてなにやら様々なものがやたらと衝突しながら心中に去来して大変複雑な気持ちになりますよねっていう(それスノーデン関係ないじゃん…)的なここから軌道修正する『スノーデン』かんそうぶんです。

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スノーデン事件。あまり詳しく知らないのですがそのまさに当事者が事の一部始終を記録したびっくりドキュメンタリー『シチズンフォー スノーデンの暴露』(2015)を寝ながら見ていたのでなんとなくはわかります(→サイバー黙示録映画『シチズンフォー スノーデンの暴露』観たんで感想書く)。
とにかくアメリカ超やべぇ! たぶんそういうことでしょうたぶん。

あのおもしろかったのはですねこれサウンドトラック流用してないってくらい『シチズンフォー』と音楽のアプローチが似ていた気がして…香港のホテルで告発に加担するふたり(『シチズンフォー』監督のローラ・ポイトラスとジャーナリストのグレン・グリーンウォルド)とスノーデンが対面する場面から『スノーデン』は始まってそっから回想形式で進むんですが、この部分の実際の映像を中核に据えて911後のアメリカの断片をちりばたのが『シチズンフォー』。なので同じ場面が双方に出てきたりして見比べると結構たのしかった(たのしい映画だろうか)

若干の印象では『シチズンフォー』のリアルスノーデン、ちょっとエキセントリックな振舞いをする奇人風。『スノーデン』のジョセフ・ゴードン=レヴィット演じるスノーデンは流石にハンサムで高邁な理想を持った天才(美化し過ぎな気もしないでもない…)。
『スノーデン』の香港を脱出する緊迫のシークエンスではわざと市販ハンディカムで撮ったような粗い手持ち映像が採用されていて、この部分『シチズンフォー』にもある同様の場面を再現しようとしたんだろうと思われる。

これはもしかするとネタバレになってしまうのかもしれませんがそんなに優しくないので気にせず書くと『スノーデン』にはスノーデン本人も本人役で出演していてジョセフ・ゴードン=レヴィットと入れ替わるというサプライズがあった。
『シチズンフォー』との、リアルとの境が分からなくなる虚実皮膜の仕掛けというわけでこのあたり事前に『シチズンフォー』を見とかないとなんや何がしたいのかよくわからんところかもしれない。

告発の現場というよりなぜスノーデンは告発に至ったのかということに主眼が置かれているのが『スノーデン』なので、スノーデン事件という括りで見ると告発の顛末などかなり淡白で物足りない気もする。
っていうかオリバー・ストーンにインターネットカルチャーとかコンピューターサイエンスの理解があるとは思えないのでそのあたりはわりと『シチズンフォー』に投げてしまってるんでしょね(『シチズンフォー』に比べると『スノーデン』のコンピューター描写はかなり荒っぽい)

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コンピューターはわからないオリバー・ストーンだったが現場のことは現役の映画監督のたぶん誰より知ってんのだった。なんの現場といえば軍隊の現場でスノーデンのオタク面には一切スポットを当てずに軍に志願入隊して鬼軍曹にしごかれるスノーデンをフィーチャーするベトナム帰りのオリバー・ストーンなのだ。スノーデンと聞いてその訓練風景を想像する人はほとんどいないと思いますがここらへん軍隊なら俺に任せろと言わんばかりに力入ってます。

『シチズンフォー』を見るとたぶんスノーデンの愛国心というのはアニメ・ゲームに影響されたところのある多少ネトウヨ的なものだろうと思うが…オリバー・ストーンの描くスノーデンは地に足の着いたガチの憂国青年。そうくるか!
そしてパートナーのリンゼイ・ミルズは『シチズンフォー』には少ししか出てこなかったので詳しくわからなかったのですがもう少しおとなしい風に思え、『スノーデン』でシェイリーン・ウッドリーが演じる激情家のミルズを見るとこちらもそうくるか! ってなった。

こういうのたぶん『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(1994)なオリバー・ストーンのマチズモというもので、お互いに『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』(1995)が好きで意気投合したオタクカップルの設定がビタ一文活かされていないどころかやけにエロティックな濡れ場まであったりしてそれはもうスノーデンじゃなくてやはり志願入隊してベトナム後遺症に苦しんだ(映画の中でスノーデンも任務の重圧と倫理的葛藤に苦しむ)オリバー・ストーン本人の投影だろとかおもう。
まぁ別にリアルスノーデンが見たかったら『シチズンフォー』見りゃいいのですが。逆にオリバー・ストーンはこういう風にスノーデンを理解しているというのが分かって面白いかもしれない(そしてちょっと呆れるかもしれない)。

個人的に思ったのは。『スノーデン』はアメリカ本国では昨年9月に公開されているらしいので大統領選本選の前、なのでアクティビストのオリバー・ストーンはトランプの顔を一瞬カメラに映したりして警鐘を鳴らすのですが。
その危惧が当たってしまった後に見るとこれが結構響く、響く。いやジョセフ・ゴードン=レヴィットのスノーデンが言う「もし次のリーダーが(大規模監視システムの運用に関する)方針を変えたら…」みたいな警告がとかじゃなくてですね。

911にショックを受けて軍に志願したスノーデンは国防のための監視システムで外国人よりもアメリカ国民が多く監視されているのが問題だと言っているわけで、アイン・ランドが愛読書だったりするこの人はリバタリアン的な思想の持ち主らしくっていうわりと共和党の極端な方寄りの人っぽいじゃないですか。
スノーデンの亡命を手助けしたウィキリークスのアサンジはトランプ支持を表明していたし、じゃあ『スノーデン』が反トランプの意図が明確だからそういう内容の映画かというとそんなことはなくて、逆に見てるとトランプの支持者像みたいのとかなり被るんじゃねぇのってなるスノーデンにもオリバー・ストーンにも。

そういう矛盾がなんていうか効いてるんじゃないかと思い。そういう矛盾が『スノーデン』を単純なイデオロギーとか一過性の出来事に回収されないアクチュアルなものにしている気がしてオリバー・ストーンもうカストロと一緒に化石になったかと思ってたからえぇこんな時代を撃つ的な映画やるの! ってなりますよねなるじゃんオリバー・ストーンっすよだって時代に追いついたのか時代の方が巻き戻ったのか知らんけどさ…そういうのすごいおもしろかったです。

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オリバー・ストーンの両義性はそういえば『ブッシュ』も反ブッシュの急先鋒だったオリストがどんなアンチ映画やるのかなと思たらシンパシーありありのブッシュにやさしい伝記映画で既に観測されていた。

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マイケル・ムーアの世界侵略のススメ [DVD]
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スノーデンファイル 地球上で最も追われている男の真実 (※原作)
暴露:スノーデンが私に託したファイル

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