テレビでやれよ映画『恋妻家宮本』感想文(ネタバレ嫌なら避けた方が賢明)

《推定睡眠時間:20分》

愛してはいると思うが妻(天海祐希)に恋してる感というのは別になかった気がしたのでタイトルに浮かんだ疑問符はエンドロールで原作:重松清『ファミレス』の文字を見てある程度セルフ解決したんですがなんで原作とタイトル変えたんだろうと別の疑問が生じる。
でもまぁファミレスじゃあフックが無さすぎるのか…検索しても上に出てこなかったりするのか…これもわかるが恋妻といって阿部寛と天海祐希の夫婦関係の、実は、その機微のおもしろさ、という感じの映画ではなくて。

優柔不断でお料理大好き、人は良いがいまひとつ頼りがいのない中学教師の宮本先生とその周辺の人々が家族関係に苦労する悲喜こもごものファミレス群像劇といった風だった『恋妻家宮本』の感想文。
人は変れるんだと教えてくれる、そんな映画でした。

どう変わるかというと宮本(阿部寛)の回想に出てくる大学生時代の自分が工藤阿須加という若手俳優さんで妻の美代子は早見あかり。工藤阿須加と早見あかりが三十余年で阿部寛と天海祐希になる。人間の可能性は無限だなあ。
変わるといえば宮本先生が通うお料理教室の仲間たちというのが相武紗季と菅野美穂(逆に気後れして通えそうにない)なのですがどうも原作の方ではこのふたりが中年おっさんらしいのでとにかく人は変れる、人は変れると強いメッセージを打ち出した映画なのです。
吉田拓郎『今日までそして明日から』がテーマ曲になっていますがこれは違いますよ。ボブ・ディラン『時代は変る』ですよ。変るんだよ!

…むろん変わらないものもあるというようなお話なわけで、環境や年齢の不可逆的な変化に対して変化しないものに比重を置くベタなファミリー保守映画には違いなくもうさっさと離婚しろよ離婚しても死なねぇよお互い真っ新な気持ちで第二の人生歩み出したらいいじゃねぇかもっと新しいことにチャレンジしてみろよもっと面白いもの見つけてみろよもっと人生に前向きになれよ!
と個人的には言いたくなる映画だったのですがしかし、すべてはお前童貞じゃんの一言で無に帰すのでこれだから家族至上主義は嫌いだよ! 無に帰すってオニキスみたい!

これはもう個人の考え方の問題。合う合わないで言えば俺には蕁麻疹レベルで合いませんでした。坊主憎けりゃ袈裟まで…じゃあないが映画の土台の部分で合ってないのでそこから生えてくるものも基本合わないわけじゃないですか…なにを言っても偏った悪口になってしまうじゃないですか…。
ただしこの点だけは悪口ではなくいくら稚拙だとしてもある程度客観的な批評だろうと思っていますが、つまり、「テレビでやれよ」。わりとそれに尽きるんじゃないかな…!

でもおもしろいですよね「映画的」とか「映画みたい」っていう形容でイメージされるものは多少幅があっても世界中で似たようなものになると思うんですが「テレビ的」とか「テレビドラマみたい」っていう“悪口”はアメリカみたいなテレビドラマ大国だと悪口にならないばかりか…下手な映画よりテレビドラマの方がゴージャスだったりするわけでしょう…褒め言葉になってしまうよな…。
『恋妻家宮本』、俺は原題通り『ファミレス』のタイトルで「テレビでやれよ」と思いますが今後テレビでできないから映画に甘んじる立場の逆転が起こったりするとそういう悪口は通用しなくなるなぁと映画の感想から脱線したし日本のテレビドラマに限ってそれはないだろうから安心して落胆しながら今後も言っていいんじゃないでしょうか、「テレビでやれよ」。

実際のところ結構これは脚色がギクシャクしてる感じがあって、こういうタイトルなら宮本先生と美代子の話をもっと前に出してもいいような気もするんですが教え子の複雑な家庭エピソードとか料理教室の仲間たちの夫婦エピソードにかなり時間を割く。
宮本先生がいろんな家族の在り方に触れながら美代子との関係を見直していくみたいなそういうあれなんですけど回り道し過ぎて肝心の宮本先生と美代子のエピソードが淡白になっちゃった(※寝ていたからそう見えた可能性も高い)。
こういう網羅的な作劇は連続テレビドラマ向きなんじゃないかとおもうので「テレビでやれよ」。時間の関係からあまり踏み込めなかった登場人物も全員ファミレスに集めて『今日までそして明日から』の合唱で強引に締めるというのはちょっと…テレビドラマの最終回ならまだしも…。

おもしろかったところは阿部寛で阿部寛はなんでもおもしろいのでなんでもいいですのトートロジー。空回りと切実の綱渡りが絶妙絶妙。生徒の前で見せる作りきれてない作り笑いの情けなさときたらですね、もう『女王の教室』の夫とは思えないな!
あとはなに佐藤二郎の寸劇とか…佐藤二郎が菅野美穂の夫なんですよねなにそのミラクルうそでしょ…全然老けない菅野美穂はちなみに感情を表に出さずにあけすけにものを言うキャラクターだったのでたぶん『富江』(1999)の何百体目くらいだと思うのですがだとしたら佐藤二郎あぶないぞ…!

それぐらいしか、特には。とにかく阿部寛はおもしろかったです…なんか見た目ダリオ・アルジェントっぽくて…。

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ジョージ・クルーニーの回り道家族映画。似たようなもんだろジョージ・クルーニーと阿部寛とか。

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