男社会を粉砕せよ映画だった『未来を花束にして』の感想

《推定睡眠時間:20分》

えげつないなぁと感じてしまうのは“花束”という単語は女性性の記号じゃないかと思うのでこういう邦題は諸々含意はあるのかもしれませんが(贈り物、連帯、開花のイメージなど)それでもなお内容に似つかわしくないというか。
別に花束を贈る映画ではないのだし。贈るのは爆弾なんであるし。それでも花束というなら『ターミーネーター2』(1991)の花束にショットガンを隠すシュワルツェネッガーというものがありますがああいう感じの花束なんじゃないですかねっていう『未来を花束にして(SUFFRAGETTE)』感想文。

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いやでもあぶなかったよほんとう。涙々の感動実録ドラマのような響きの邦題とビジュアルだったので食指が少しも伸びずに見逃してしまうところだった。まぁこの原題そのまま出されてもそれはそれで全然興味持てないと思うから誰が悪いとかでもないのですがとにかくあぶなかった。あぶない映画です。

デヴィッド・ボウイにそんな曲があったはずの原題SUFFRAGETTEというのはおもに女性参政権を求める活動家を指すそうで(へぇ)、セクハラモラハラパワハラが横行する過酷なくせに底賃金の3K洗濯工場で健気にはたらくキャリー・マリガンがある日出会ったサフランたちのリーダーはパンクハーストという名のメリル・ストリープ、パンクだしメリル・ストリープだしロックスターが題材にしているくらいなのでもうそれ以外に考えられませんがこの人たちは石投げる投げる爆弾置く置くの超武闘派組織だったのだ。
その生きのいい抵抗っぷりに感化されたキャリー・マリガンもやがて組織に合流、武力闘争に身を投じ当局にマークされ過酷な拷問を受け…っていう映画だったので重箱の隅をつつくようではありますが花束どころじゃねぇのです(まだ言う)。

それにしても意志と幸と給料の薄い女工マリガンの革命闘士への変わりようがすごい。はじめは怯えた目つきで嗜虐心を煽っていたのですが公聴会での証言を機になにかに覚醒、『ターミネーター』(1984)の逃走サラ・コナーの目から『ターミネーター2』の闘争サラ・コナーの目になる。
比較的淡々とした映画だったのでその振れ幅の大きさがたいそう映えていた。

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なんすか別に何に対してっていうこともないんですけどあるじゃないですか、つまり今の視点から歴史の一部分を鑑み正義だとか悪だとか断罪するような類の実録感動ドラマというやつが。しょせん勝者に書かれた歴史を勝者が自ら眺めて悦に入るようなやつが。あらかじめ決定された現在に向けてすべての過去が奉仕するとでもいうような現在性の暴力というやつが。
そういう映画だと個人というものは歴史の流れに押しつぶされてしまうわけで、たとえば人権擁護をテーマとしているような場合でも逆に歴史全体の中に個人を拘束してしまったりする気がしてそれでいいのかよって思うことはあったりするわけですが。

『未来を花束にして』がよかったのはそういう作り方をしてないところで、冷静な筆致で歴史じゃなくて個別的な情況を描きだそうとする。権力と権力に抑圧される側とその周辺環境の絡み合いとか相互作用っていうのを事細かに分析して見せていくわけで、こういうのはたぶんイギリス的ということだと思うんですけどあぁ真摯な映画だなぁってなるしイデオロギー映画ではなくて、ということは歴史映画ではなくて政治映画としてとても見応えあったんじゃないかとおもう。

具体的なところで言うと。次第に武力闘争を激化させるキャリー・マリガンら活動家をブレンダン・グリーソン演じる警部が捕縛するところがあるんですが、そのまま逮捕するのかと思ったらわざと夫の前で解放する。今回は見逃してやるからと温情の構えをとりながらも、その実あんたの飼い犬なんだからしっかり縄つけとけよとでも言わんばかりに。
権力の行使は暴力としてではなく配慮として表現される。留置場でハンストを行うキャリー・マリガンに看守たちが無理やり食事を取らせる場面が象徴的だったんですが、警察権力、職場、職場の人間関係、商業活動、流行文化、家族、子供とか…抑圧の構造は決して特定のなにかに依存しているわけではなくて生活のあらゆる局面でよりよい生活のための配慮として間接的に作り出されているという風に描かれていて。

一方でその暴力的な抑圧から一歩先に進んだ全体的な配慮の抑圧はあくまで配慮であるとの建前が崩れてしまったら成り立たないというわけで、実は余裕たっぷりに見えたグリーソン警部もあえて権力を行使しないのではなくてそもそも行使することができなかったんだとそこが映画のキモだった。
この人は活動家連中に殉教者を出させてはいけないって言う。殉教者が出てしまったら抑圧の現実を認めることになってしまうしそれをシンボルとして運動は更に拡大するってわけで、そういう中で落としどころはどこにあるのか、という。
警察側も露骨に動けないがキャリー・マリガンの方も武力闘争路線の拡大に躊躇いがあったりして、良い刑事と悪い刑事を一人の中に宿したようなグリーソン警部とキャリー・マリガンの静かなチキンレース的対決に着目すればポリティカル・サスペンスにもなるというわけでどこに花束…いやそれはもういいか!

とにかくそういうめっちゃ硬派な映画で超おもしろかったです。あとメリル・ストリープに関してはお前は抑圧される側じゃなくて抑圧する側だろサッチャーなんだからっていうツッコミどころがありますね、はい。

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