映画『マリアンヌ』で戦争後遺症地獄巡り感想文

《推定睡眠時間:0分》

マリオン・コティヤール大好き! かっこいいよね! つよそう! そのつよそうなマリオン・コティヤールが第二次大戦下のモロッコでレジスタンスの闘士! うわぁい! 殺れ! ナチを殺れ! ブラピも別の映画で殺っていた!

しかしもちろんそういう場面はあれどそういう映画ではない『カサブランカ』(1942)路線のハリウッド異国情緒メロドラマの現代風解釈なのでコティヤール無双は相変わらず夢想に留めておくほかない『マリアンヌ』の感想なのであった。

ちなみにコティヤールとレジスタンスというとアレクサンドル・アジャの長編デビュー作『フリア(1999)』があって、これは全体主義に荒廃した砂漠の町を舞台とするエンキ・ビラルみたいな動きのないSFだったのですがそこでコティヤールは密かに体制批判の落書きを描き続けていた。なんかレジスタンスっぽい顔をしてるんだろうか。

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それで冒頭、特命を帯びたブラッド・ピットが砂漠に単独で落下傘降下するのですがこれがなんだか不思議な光景。ふわふわ無重力空間を漂っているように見える。
どこがと言われても言いにくいのですがその後に出てくる砂漠の風景もシュルレアリスム絵画みたいに切り取られていて、ブラピとコティヤールの潜伏する偽装住居の屋上から眺める夜のカサブランカは夢うつつの嘘くささ。
睦み合う二人を覗く近所の婦人はまるで亡霊のよう。大使暗殺の大任から神経を尖らせるブラピの目には誰もが自分たちを監視しているように映る。

この奇妙な体験、僕ほどのインテリともなるとフロイトの有名なエピソードを思い出しますね。イタリアの小さな町を訪れたフロイト。暇なので散歩に出たら迷ってしまった。しばらく歩いているとある街区に辿り着いて、ふと見上げると飾り窓から女がフロイトを眺めている。こりゃあいかがわしい所に来てしまった。フロイトはそそくさと退散したが、迷いに迷ってふと気付くと再びあの飾り窓の前まで来ていたのだった。

それは単なるスケベ心なのではという気もしなくはないがこういうのあるじゃないすか、異国での不安と非現実感みたいの。なんとなくジロジロ見られている気がするとか。町の形が掴めなくて迷路みたいに感じたりとか。ありえないような出会いを待望する、とか。
そういうところが『マリアンヌ』はまず印象的で、ということは、結構これは普段とは違う異常な心理状態に置かれた人のお話。カサブランカでの摩訶不思議大使暗殺作戦で現地レジスタンスのコティヤールと結ばれたブラピは彼女を連れてイギリスへ。そこで待っていたのは静かで平和な暮らしなわけもなく空襲警報が鳴り響く死とセックスと酩酊にまみれた傷病世界とかそういう感じでわりと戦慄でしたよね…。

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表情筋の負担率の低いハンフリー・ボガート風演技をするブラピ。顔を知られたナチの将校を無表情に殺す場面はおそろしいが(本当にブラピの知っている将校だったのか判然としないところも含め)現実感のないふわふわしたモロッコ風景を背にするとむしろ『ハムナプトラ』(1999)のブレンダン・フレイザーに見えてくるので雰囲気三枚目。イギリス帰らないでそのままミイラとか倒しにいっておけば平和だったのにとおもう。

ボギー的なやつを相手にするわけだからコティヤールも背筋を伸ばさないといけない。パリっと社交メイクアップで演技過剰なコティヤールは俺の感覚からすると不自然でクソ全然魅力的ではなかったんですがわざとそういう風に作ってるはずなのでコティヤールは目の下にクマが出来てからが本気だし口紅を拭ってからがコティヤール、イギリス編ではブラピがメインで子供を産んで専業主婦宣言をしたコティヤールは急に大人しくなってあまり画面に出てこなくなったのですが、ブラピの願望としてのカサブランカのコティヤールと現実としてのイギリスのコティヤールという構図の演じ分け。
笑っていても目は獲物を狙う肉食獣の目のコティヤールだからこういう裏表ある役柄すごいよかったなぁ。ほんとうにルージュが白々しいんだよ。

俗流精神分析を下敷きにしたパラノイア心理劇的な作りはヒッチコックの焼き直しを狙ったようなのでそういえば映画の教科書に載りがちなイメージのある、タイトルを忘れちゃったヒッチコック映画のオマージュと思しき場面を確認。
なんかホームパーティーの場面でベニィ・グッドマンとか流しながらブラピが家のあちこちを移動すんですが、こういうシーンあったよねコンサート会場の楽屋とかで演奏の盛り上がりに合わせて主人公の緊張も高まっていってやがて犯人を閃く的な演出が。そういう技巧おおめ。

色々と歪みを感じる映画でアラン・シルヴェストリの現代的な軍事サスペンス風スコア(ハリー・グレッグソン=ウィリアムズぽいようにおもう)なんてびっくりするぐらい合わない、コティヤールの背景はもう少し丹念に掘り下げても良かったのでは、っていうかドラマの部分薄くないとか思うので振り返るとエグイ場面ばっかり記憶に残る、など結構な壊れた人ムービーな気がするのですがその調和の取れてなさはきっと奇妙なあじわい。

ブレンダン・フレイザーに見えておもしろかったブラピの能面も段々と内心の怯えと混乱が透けて見えてくる。モロッコというより戦争で壊れた人の脳内を冒険するかのようなそう考えると悲しい映画だなぁこれは。

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ブラッドがやるならジョージもやる。意識の高いハリウッドセレブはみんなこういうのやりたがるんですねっていうジョージ・クルーニーによる第二次大戦もの異国情緒メロサスペンス。こちらは『第三の男』とかがオマージュメインです。

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さるこ

こんにちは。壮大なメロドラマでビックリしました。でもいろんな映画へのオマージュを散りばめたりしてるんですね。コティアールはレジスタンス顔…そうかも。

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