砂漠を泳ぐ異邦人映画『王様のためのホログラム』感想

《推定睡眠時間:0分》

斜陽のアメリカ製造業を反映して自動車メーカーの偉い人だったトム・ハンクスは首切りの憂き目。半ば道を見失いながらもITメーカーに再就職したところサウジアラビア営業に回されてしまった。
ホログラム装置を国王に売り込むこと…目指すところはすぐ目の前に見えているのに一向に辿り着く気配はない。姿を現さない国王を追って砂漠のド真ん中に建設中の真鍮の都な新興都市を訪れたトム・ハンクスはきっとたぶんこう思う。この街はまるでホログラムだ。国王だってホログラムみたいだ。いや、ていうか、俺の今までの人生がホログラムだったのかも…。

『マイレージ・マイライフ』みたいな感じのよくある中年アメリカ人の自分探しものが途中から不条理コメディみたいになってしまった。朝起きたら背中に巨大な瘤のできていたトムハンがサウジ側の担当者を探して方々たらい回しにされるっていうなにこれカフカみたい…!
おもしろかったなぁ個人的暫定今年いちばんおもしろかったシナリオの映画だなぁっていう感想です。

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このおもしろいお話を書いたのは誰だろうと思ってクレジットを見たら監督のトム・ティクヴァが脚本になっていて、原作はデイヴ・エガーズという人。デイヴ・エガーズ、『かいじゅうたちのいるところ』を脚色した人みたいですね。
ティクヴァといえば『ラン・ローラ・ラン』だから…なんか数センチだけ地面から浮いたぐらいの浮遊感で世の中を斬っていく的な作風の二人のようなのでそれは確かに砂漠のホログラムだよなとか思うのですが。

がらんどうの高層ビルに案内されたトムハン。まだ内装工事中だったが入ってみると既にマックとかスタバとかの看板で案内パネルが埋め尽くされていておかしい。のですが、そこで終わらないところがこのシナリオの妙で多国籍企業に占拠されたと思われたテナントは実はまだ契約がされていなかった。完成イメージとして勝手にマックの看板なんかで粉飾しておけば後から本物のマック来るでしょっていうオチがつく。

ビルの中でトムハンは工事のため雇われた外国人労働者が喧嘩に興じているのを目にするのですがこれはあれじゃないかカミュ『異邦人』にこんな場面があったんじゃないかと思うのですが、ハッタリとハリボテだらけの砂漠の幻の中に突如として現れるナマの搾取と暴力はかえってトムハンに現実を見失わせるというわけで次第にお仕事映画の枠を逸脱していくその外し方がエレガント。

まぁアレクサンダー・ペインとかがやりがちな風刺悲喜劇といえばそうなのでしょうけれど所々で顔を出すシュールなイメージがなにやら不思議な余韻を残すので。結末なんか妙に収まりの悪いところがあるのですがそのへんも含めて風変わりで不条理な、でも現実と地続きな、というバランス感覚がこれはとてもよいシナリオだったなぁ。

ドライバー兼ガイドとして雇ったいい加減なおしゃべり現地人ユセフ(アレクサンダー・ブラック)に振り回されるトムハンは久々の笑えるトムハンで、無人島に漂流したり飛行機が墜落したり船を海賊に乗っ取られたりと近年は受難が続いて深刻芝居一辺倒だったわけですがこのあたり本領発揮って感じなんじゃないすか。
ユセフの適当さに呆れて口をへの字に結んだ憮然トムハン、こういうおもしろい顔のトムハンが見たかったよなやっぱり。

オフィスとは名ばかりのテントに回されたプロジェクトチームは日に日に萎びていく。ふざけて自分はCIAだと言ったら本気にされて困る(「アラブ人が爆弾持ってるって言ったら本気にするだろ!」)。二日酔いで目覚めてみればベッドに大量の血痕が! おもしろいおもしろい。笑いに毒々しいキレがあった。

レイトショーで観に行ったら風貌は崔洋一で言動は北野映画に出てくる寺島進みたいなオヤジが客席で若い女と乳繰り合っていてテンションの下落が半端なかったのですが始まったら見入ってしまったので良い映画でした『王様のためのホログラム』。なにその基準。

【ママー!これ買ってー!】


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プールからプールへ海パン一丁で有閑階級の邸宅を渡り歩くバート・ランカスターの肉体美をスローで捉える(別におもしろくはない)

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