ミニマル映画感想『グリーンルーム』&『スプリング、ハズ、カム』

知らない土地に行ったら変な人たちに絡まれました。『グリーンルーム』は売れないバンドが全米ツアー()中に訪れたライブハウスがネオナチの巣窟だったためうわぁたいへんていう映画。『スプリング、ハズ、カム』は東京の大学に進学の決まった広島娘がお父さんと一緒に一人暮らしルームを探してたら癖のある下町東京人ほか数名と遭遇してうわぁめんどくさいけどまぁいっかぁっていう映画。どっちもおもしろかったよ。犬の映画と猫の映画(みればわかる)

『グリーン・ルーム』

《推定睡眠時間:0分》

シチュエーション的にパンクバンド版ミニチュア版『要塞警察』。カーペンター自身の手による『要塞警察』をZIPした『グッバイ・ベイビー』というのが競作シリーズ『マスターズ・オブ・ホラー』の一本としてあったからそっちの方に近いかもしれない。
ネオナチの集会場を兼ねる僻地のライブハウスに呼ばれたパンクバンドが調子に乗って「死ねクソナチ! 死ねクソナチ!」とか歌ってたら意外とネオナチオーディエンスの反応が良くてそのまま上機嫌で帰ろうとしたら死体を見ちゃった。帰るに帰れない。

パンク! ネオナチ! 死体がひとつ! とくればパンクバンドの人がギターで殴るとかドラムスティックを突き刺して闘うようなものを期待せざるを得ないがインタビューではパンク性をアピールしつつも本当はプリンスが一番好きですみたいな人たちがこのパンクバンドだったので…楽屋にこもってウダウダ言ってる時間が多くを占める映画だったりして見ているうちに『要塞警察』からスプラッター版『ソラニン』に印象変化。『ソラニン』見たことないからわかりませんけどとにかく暴れない映画です。

パンクでラウドなサントラで攻めていくどころかそもそも劇伴が少なかったりする。含シニカルなブラックジョーク、どす黒いゴア描写はむしろ笑ってしまう。伝わってくるのは売れないバンドの大変さと田舎の貧困の大変さとライブハウスの店長の大変さばかり。これは渋い…。
そんなわけで体温はまったく上がりませんがパズルみたいに組み立てられたかったるいライブハウス攻防戦、おもしろかったです。あと手がやべぇ超いたい(それはダクトテープでどうにもならないだろ!)

『スプリング、ハズ、カム』

《推定睡眠時間:0分》

何年か前に完成していた気がしたのでリバイバル上映かと思いきやそうではなくて、なかなか一般公開の目途が立たずようやく映画祭以外で初公開ということのよう。この映画は一人暮らしを始めた石井杏奈さんが数か月前の出来事を回想していく的な構成なのですがそうなるとなんかちょっとダブってしまうぞ映画と現実。
ぎこちないお芝居を頑張ってこなす姿が魅力的な杏奈さんなのですが公開を待ってる間に上手くなってしまったので『四月は君の嘘』の女優っぷりなど経過したこちらとしては映画自体が回想的に見えてしまう。
ラストシーンで見せる妙に大人びた表情というのもそういうわけでとても感慨深いものがあったので、これは寝かせているうちに味が染みてきた災い転じてパターン。今なんとなく気持ち悪いことを書いている気がするがべつにいいか。

どういう映画かというと他愛のない他愛のないロード…ムービー? まぁお父さんの柳家喬太郎師の方は杏奈さんに会うため夜行バスで東京に来てるので旅といえば旅はしているがとりあえず東京色に全身で染まった叔母の朴路美さんと三人で新宿ランチしてそれから物件を探す、だけの、そのささやかな一日のお話。
他愛のなさが本気なので巧妙にどうでもいい伏線を張っていたりしてそうかそういうことだったのかとは思うが思ったところでだからなんだよってなったりする。東京の映画だなぁとおもう。泣いたり怒鳴ったり抱き合ったりとか絶対しないし相手の事情には深入りしないがいなくなったら多少は悲しいというようなさっぱりした人の繋がりの映画。こういうの好きだなぁ。

ちょうどほらあえてタイトルは出しませんが例のこの世界が片隅な映画でのんのんさんが広島弁を披露していたところにこちらスプハズも杏奈さんの広島弁フィーチャーの偶然がおもしろいのですが、リアリティというより方言の見せ方としてさすがに上手すぎる喬太郎師の広島弁っぽい広島弁と杏奈さんのぎこちな弁の掛け合いの妙。
ところどころでエチュードみたいにも見える微妙な距離感空気感が逆に逆に父娘を感じさせてよかったすよねなんかね。それがこう、祖師谷をのんびり散策しながらなんとなく詰まってくるっていうのが。ちょっとドキュメンタリーっぽい凄みがあるかもしれないな、柳家喬太郎の世田谷区祖師ヶ谷…。

他人と話すときの距離がやたら近い不動産屋の東京03角田晃広、いつまでも話の終わらない年寄りの柳川慶子、など。わりとうぜぇが別に嫌いなわけではない迫真のそこらの人たちが素晴らしい映画だったりもするのですが最終的には山村紅葉に潰される(笑いの規模で)

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ライブハウスでネオナチ殺人事件な『グリーンルーム』、町内で出会いと別れのロードムービー『スプリング、ハズ、カム』。『グッバイ・ベイビー』は田舎の診療所で世界の終末ですからやっぱカーペンターは格が違いますよ格が。

↓その他のヤツ

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