マッシュ感想『人類遺産』『アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発』

おもしろかった映画の感想ふたつ。ナレーションなし劇伴なしストーリーなし登場人物なしのカメラ固定で世界中の廃墟を撮り尽くしたつまり映画館で観る廃墟BGV『人類遺産』と、通称ミルグラム実験、人間どうせ権威の力には逆らないじゃんを容赦なく暴き出した名心理学実験を軸にスタンレー・ミルグラム博士の半生を描いた『アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発』です。
杉本博司『ロスト・ヒューマン』展、クリスチャン・ボルタンスキー『アニミタス―さざめく亡霊たち』展の感想も混ざったのでマッシュアップ。

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『人類遺産』

《推定睡眠時間:15分》

こないだ東京都写真美術館でやっていた杉本博司のロスト・ヒューマン展、これがとてもたのしい展覧会で遺物とか失われたものをテーマにした三つのシリーズで構成されてるんですが、そのメインが1フロア丸々使ったインスタレーション『今日 世界が死んだ もしかしたら昨日かもしれない』。タイトルと同じ書き出しの遺書をライトモチーフに様々な終末のかたちが遺物に見立てられた雑多な展示品(小瓶とか、新聞の切り抜きとか、からくり人形とか、化石にダッチワイフまで)で表現された博物誌的な作品で、ほらこういうほらって言われても困るとおもいますけど終末SF的なの好きなのでこれよかったですよね結構笑えるしバラードみたいだし。

ということをおもいだした『人類遺産』原題『HOMO SAPIENS』。いやもうだから本当にBGVだったのですごい映像だなぁ綺麗だなぁ怖いなぁ寂しいなぁぐらいしか言うことがないので一応見た映画はちゃんと感想を残すことにしていますけど映画外に話を逸らさないと感想にもならないまさに内包量:ゼロの廃墟のような廃墟の映画。
風とか雨とか鳥の羽ばたきにびっくりして安心したりもする環境音映画でもあったので劇伴ないけど爆音で観たいっす爆音で。ソクーロフとかタルコフスキーと一緒に廃墟オールナイトとかどうすか。おもしろかったし心地よく眠れました!(寝ても一向に差し支えないから疲れた体にやさしい)。

ところでロスト・ヒューマン展のメインビジュアルになっていたのは写真シリーズ『廃墟劇場』で、なんでも廃墟になった全米各地の映画館にスクリーンを張り直して杉本チョイスの映画を映写、その様子を始まりから終わりまでシャッター開放したカメラで撮ったもの、だとか。
映画館によって上映作品が違う。ヴィスコンティ『異邦人』とかは分かるが『ディープ・インパクト』のチョイスにはちょっと笑う。でも長時間露光で撮ってるからスクリーンはどれも一面真っ白なわけで、カメラが写し出すのはただただ廃墟の姿でしかない。客席が闇に沈む普通の映画館の逆。

『人類遺産』は幾つかのパートに分かれているらしく、その終章は風に削られ砂に埋もれ水に沈み…の廃墟受難。やがて雪が。戦車とか放棄された軍事施設のようなものが雪に覆われて、いつのまにか画面が真っ白にフェードアウトしてしまう。
この光景は『廃墟劇場』と同じなんじゃないかとおもいましたね。そうだ、廃墟の映画じゃなかったんだ、映画館が廃墟だったんだ。我々はロスト・ヒューマンで、映画館の幽霊だったのだ!
(ジョー・ヒルが『20世紀の幽霊』と呼んだのは映画館に出没する映画好きなお化けだった。あるいは映画そのものが)

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『アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発』

《推定睡眠時間:0分》

『人類遺産』の廃墟美にはタルコフスキー『ストーカー』を想起せずにいられないが『今日 世界が死んだ もしかしたら昨日かもしれない』は杉本博司の代表的な写真シリーズ『海景』から展示が始まるわけで、『海景』、初めて目にしたときに呼び起こされた記憶もタルコフスキーは『惑星ソラリス』の生きた廃墟の海だった。
廃墟と自罰と過去のトラウマ『惑星ソラリス』。あまり頻繁に美術館に行く方ではないし別になにか意識したわけでもないのに偶然それとスライドする形でリンクしてしまっておもしろかったのが去年末のボルタンスキー『アニミタス―さざめく亡霊たち』展で、もうタイトルからして廃墟感があるが旧朝香宮邸の東京都庭園美術館を記憶の集積場=廃墟の記念館にしてしまうみたいなやつ。

中に入ってアールデコ様式の内装を見て回っているとあちこちから謎の音声が聞こえてくる。「その扉に入らないで…」「わたしはやってない…」。展示らしい展示もないのでなにがなんだかわからないが階段を上ると。ボキャブラリーの問題で表現ができないが隣室から覗くことしかできない首吊りギャーの影絵とか赤色灯の点滅する心臓音バクバクの部屋とかあってもう超戦慄でしたよねこの書き方だとなにも伝わる気がしませんが。
それでそのあたりでようやく分かりはじめるのですがこのボルタンスキーという人はユダヤ系の人らしくホロコーストをひとつのモチーフとしているぽいので、謎の声とか首吊り影絵というのもなにか虐殺とか迫害とかトラウマ的記憶に関する作品だろうし、そういうわけでこの三幕構成になった展覧会の後半はどこか亡命監督タルコフスキーに似て悔恨と鎮魂のイメージが拡大投影されるようなのですが。

ホロコーストに関連して『アイヒマンの後継者』、アイヒマン裁判の翌年に実施されたのでアイヒマン実験とも呼ばれるらしいミルグラム実験の映画。邦題が邪悪なのでパーフェクトに(倫理的に問題あり実験仲間のスタンフォード監獄実験をモデルにした)『es』みたいなの想像していたが全然違いまして実物はどうか知らないが映画に出てくるミルグラム博士(ピーター・サースガード)はいつも人を見下した陰気な面してちょっとした皮肉ばっか言ってるウディ・アレンみたいな人だったしミルグラム実験そのものより実験結果を受けての博士の心情とか社会の反響を淡々飄々とシニカルに描く映画だったのでホロコーストでもアイヒマンでもなく実質的に社会心理学版『アニー・ホール』。

おもしろいところ大学の廊下を歩きながらカメラに向けて、観客に向けて急に語り出すミルグラム博士。その後ろからは何故か象が…とかそういうところ。アイヒマン実験だけじゃないミルグラム博士のおもしろ実験の数々もキュレーションサイト的に教えてくれるのもおもしろいな。人は手紙の宛名で態度を変えるか実験、人は自分以外のみんなが何も無い空間を眺めていたら自分もその空間を眺めるのか実験…それドッキリカメラじゃねぇかよと思うがテレビでドッキリカメラを見て実験を思いついた性格の悪いミルグラム博士なのだった(ドイツでもアイヒマン実験を実施しようとしたから並大抵の性格の悪さではない)

杉本博司の『今日 世界が死んだ もしかしたら昨日かもしれない』というのは『異邦人』の冒頭をもじったものでしょうが。そういえば『異邦人』は抵抗の物語と解すことができるのだから性格の悪さでアイヒマン化に抗えのミルグラム博士に繋が…いや繋がんないかもしれないが繋げたい病なので繋げておわりますよ。もう、それがロスト・ヒューマンを避ける道だよねとでも言って!

※ピーター・サースガードは嫌な奴の孤独を名演。チョイ役のジョン・レグイザモは、うれしい。

【ママー!これ買ってー!】


惑星ソラリス Blu-ray 新装版

めちゃくちゃ格好よくないこのジャケット。まぁ買わないし見ても寝るんですけど…。

↓その他のヤツ

服従の心理 (河出文庫)
クリスチャン・ボルタンスキー -アニミタス―さざめく亡霊たち-
SEASCAPES (杉本博司)

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