パク・チャヌク最新作の『お嬢さん』を見た感想

《推定睡眠時間:0分》

『アシュラ』『哭声』と胃痛系コリアン・ノワールを続けて見てしまって大いに心がささくれ立っていたところにまさかのさわやか。『お嬢さん』、暴力コリアに荒んだ心の清涼剤でした!
ちょっと待て監督のパク・チャヌクて韓流ならぬ恨流の元凶のひとりじゃなかったのか…『殺人者に憐れみを』とかでいちばん惨いことをしていたはずの人間じゃなかったのか…なんか久々に再会した昔のいじめっ子がすごい好青年に変貌していてかつての怒りをぶつけようにもどこにぶつけたらいいのかわからないようなそんな気分だな…! お嬢さん!

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でも人間しょせんこんなもんでしょのアイロニーで業を肯定しクズVSクズの殺し合いを斜め上から目線の鷹揚な笑いに変えてしまうのがある時期からのパク・チャヌクだった気もしないでもないのでスッキリさわやか『お嬢さん』もメチャクチャ性格の悪い映画だった。性格は悪いがただ底抜けに明るいっていうあれそれ『アシュラ』みたいのよりタチ悪くない!?
直接的な描写が減れば減る分だけ暴力的に見えるし優しい顔をしていればしているほど裏がありそうに見える根性のひん曲がったチャヌク・ワールド…。

それでどういう映画かというと日本統治下の朝鮮を舞台にしたコン・ゲームものというやつで、日本人のケツを舐めて成り上がった珍本コレクターのケツを舐めて遺産を狙う詐欺師のケツを舐めていた下女がベッコウ飴(?)を舐めていた家のご令嬢のアソコを舐めてしまったが舐めるやつが実は舐められていた、いやいや舐められていたやつが本当は舐めていた、と見せかけて舐めていたと思っていたやつが…舐めて舐めて舐めまくっているうちになにがなんだかわからなくなってくるがとにかく、舐めたい! の艶笑ミステリー。

舐めたい人間大集合のドラクエで言うところのスモールグールが次々仲間を呼んでくるようなお話だったが内容を考えれば各方面を敵に回しそうなところを絶妙にかわし言質を取らせないようにしながらすべてを嘲笑うパク・チャヌクなのでいちばん舐めてるのはチャヌクですよね。
『オールドボーイ』のDVDに入っていたイベント上映のときの質疑応答を思い出すよ。「なぜオ・デスはラストで彼女と?」との女子大生の質問に対するチャヌクの返答、「性欲が強かったから」。

戸棚なんかの内側の位置にカメラをセットして、戸棚を開けた人物がカメラを覗き込む格好になる撮影技法というものがありますが。あれを、なんていうかオブラートに包みますがこの映画はマ○コでやる。
なんか音楽とかでドラマティックに盛り上げてくるのでつい襟を正してしまうしなんならちょっとウルっときてしまったが冷静に考えたらすごいバカじゃねぇかよなんだよそれ。

と、そういう具合にまんまと格調高い(風)のムードにつられた客を嗤う舐めまわし映画。人を食ったもうほんとうに人を食った愉快なやつ。エンドロールで思わず苦笑いだったよな、まったくもう!

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サラ・ウォーターズ『荊の城』の翻案だそうでそちら未見なんですけどチャヌクのこういうの。神父ヴァンパイア『渇き』はエミール・ゾラの『テレーズ・ラカン』を下敷きにしているし(それも読んだことないけど)『オールド・ボーイ』は土屋ガロンの漫画が原作(これもよく知らない)のうえ『オイディプス王』(読もうとしたけど数ページで挫折した…)を乗っける、脚本クレジットがウェントワース・ミラーとはいえいかにもチャヌクチャヌクした展開を辿るハリウッド進出作『イノセント・ガーデン』も、これはなにもクレジットされてないがまぁなにかしら元ネタあるだろうと思われるリミックス作家パク・チャヌクの海外文学韓国語訳シリーズすね『お嬢さん』も。

オマージュと引用で映画内世界を埋め尽くす映画作家の人とかたくさんいますけど。チャヌクの翻案ものがおもしろいのはどう翻案するかよりも翻案がなにを意味するかのメタ視点を導入してるところじゃないかの持論。
『お嬢さん』はとくにその傾向が顕著だと感じていて現代的な意味でコスプレ劇になっているというのがたぶんチャヌクの批評的な狙いなんじゃないすかね。
翻案することのコスプレ性。朝鮮人の下女が日本語を話して日本人のお嬢さんがハングルを話す言語のねじれ。後半になってくると翻訳がにわかに主題として浮かび上がってきたりしたが、日本語のお勉強でこどもにマ○コチ○コと復唱させる場面なんかに翻訳すること(されること)ってこういうことでしょみたいな身も蓋もないチャヌク思考があるんじゃないですか。

戦前のパラマウントでトーキー映画の世界配給に尽力したルイジ・ルラスキ(清水俊二が仕事を共にしたこともあるらしい)曰く、外国映画が吹き替えで見られるか字幕で見られるかの決定因は「国のプライド」(『日本の選択4 プロパガンダ映画のたどった道』)。
チャヌク映画と現代韓国人のアイデンティティの問題は切っても切り離せないので翻案・翻訳のSM性の考察はここに関わってくるが日本と朝鮮の狭間で仮面を替え服を替え言語をその時々で切り替えながらより有利な側に付こうとする人々の打算的で戦略的なふるまいの中からそこには収まらない欲望と快楽を取り出して、まぁいろいろあるけど気持ちいいこと、したいよね。に最終的には落ち着く。

こういう批評性と意識の高い映画で結局世の中エロがすべてじゃんとか言われたらどうしようもない。インテリ快楽主義者パク・チャヌクにまんまと舐められにいく映画だったなこれは。舐められてきもちよかったです。

【ママー!これ買ってー!】


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コスプレっていうのはそういえば『オールド・ボーイ』はカン・ヘギョンのコスプレ映画だったなぁと思うがタイトルを考えれば『お嬢さん』と対になるのかもしれないな。タコ出るしタコ。タコ。

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