石油怪獣映画『バーニング・オーシャン』の感想

《推定睡眠時間:15分》

こういう技術的なことはほぼお手上げなので仕組みはおろか設備各部の名称すらわからずどう書いていいかよくわからないのですが制御できたと思った油井ポンプが逆流して泥水だか油だかが恐ろしい唸りをあげてぶわぁーっと噴出した瞬間どうしてもやっぱり戦慄を伴って意識の表層に浮上するのは気仙沼や仙台空港等々を通過して福島の例の映像なわけでありまして以後、開き直って、臭いものにはベントしないで蓋方式のジパングでは未来永劫このような形で(つまり、個人の内面のドラマではなく事故そのものをドキュメンタルに娯楽映画化するという意味で)描かれることのないであろう福一の映画化として見ることにしたのですが、そうと殊更意識するまでもなく迫真性を帯びて4DXでもないのに全身を揺さぶってくる、スクリーンの、ホライゾンの、対岸の火事では済まない『バーニング・オーシャン』だったのだ、の感想。

それにしても『バーニング・オーシャン』てなんかめっちゃメタルバンドの曲っぽいな。しかもバイキングをイメージさせることから北欧のエクストリームなデスメタルみあるぞ。サビの部分のバァァニングォォシャァァァァンの絶叫が聞こえないか。まぁ聞こえようが聞こえまいが邦題だから関係ないとも言えるが。
原題は『Deepwater Horizon』か。いやそれはそれでなんかそういうメタルバンドいそうだよしかもバイキングをイメージさせることから北欧のエクストリームなデスメタルバンドみあるよ! 出てくる男どももバイキングみたいな荒くればっかりだよ! マーク・ウォルバーグとカート・ラッセルのダブル主演ッ…!

導入部とえらい文のテンションが違う気がするがこういう二面性の映画だったよなつーわけで教訓を得るべき犠牲者を悼むべき生還者の勇気を讃えるべき実録社会派映画であるのはそれは間違いないが同時に戦慄に恐怖で手に汗握る大迫力大興奮パニック映画であるのもまた間違いない。
もーうめっちゃ恐いよ。施設中のパイプがねぇギシギシ軋むアポカリティックサウンドみたいな音とかですねぇ逃げてぇぇぇ! って感じですよねぇ。油まみれの鳥が突っ込んできてさ、ギャーギャー暴れまわるの、あれほとんど『ミスト』のホラー感すよねぇ。何が起こってるんだかわからない作業員たちが立ち尽くして音に耳をそばだててるところなんて『エイリアン2』みたいじゃないすかぁ。

そうか『エイリアン2』。原油目線カムとかガス目線カムとか出てきてなんか斬新な画に感じたのですがあれ人間を発見したときのエイリアンの視点だな。みんなでヘリ乗り込んでディープウォーター・ホライズンに向かう場面なんかスピルバーグの方の『ロストワールド』彷彿の男子ドリーム的わくわくを煽りまくるのですがそこにいたのは人間の手には負えないエイリアンズ!
なんておそろしいはなしだ…まぁそれを言ったら『ロストワールド』だって結局恐竜に食われるわけですが(会社の利益を優先して安全を怠ったがために!)

スピルバーグつーと竜巻を怪獣に見立てた『ツイスター』もあるわけで、これもその系統。最初の方に原油を恐竜に例えるシーンがあって、これからホライズンに出勤のウォルバーグは娘に言うのであった。パパが恐竜を捕まえてきてあげよう。怪獣映画なのだ。

やーアメリカさんとこってそういうの本当上手いっすよねぇと思いましたよねぇしかしねぇ。実はもうぶっちゃけ申しますけどけどねぇセリフはジャルゴンだらけで説明最小限の骨太映画でねぇなんつーか出てくるの全員ホライズンで働く当事者、当たり前すねぇ実話ベースすからねぇ。なので無知な観客の代わりに説明してもらったり素人考えを代弁してくれる都合のいい創作的キャラクターがいないわけですー。
はい、そらもう見てても何が起こってるんだかよくわからないね。中盤以降まったくわからないと言っても過言ではないね。まぁ寝たせいもあるかもしれませんが…。

で、だけど見れちゃうわけですよわからないのに。それ最初にあんた今見てるの怪獣映画ですよって前提もってきてくれてるからですよ。それが上手いなぁと思ったところで、言われてみれば『ロストワールド』だって出てくる恐竜の生態は全然知らないけどまぁ、怪獣映画だからな! で見れるノレる。
わけはわからないがとにかく原油とガスと火災の視聴覚的めっちゃやべぇ感が圧倒的なのでなにもわからなくても怪獣映画的にまったく問題ない、の凄さ。まぁわかったほうがおもしろいだろうから買いそびれちゃったけど今度見るときパンフ買おう。恐竜解説が見たくて『ロストワールド』のパンフ買うようなもの。公式サイトにもちょっとだけ専門用語と事故の技術面の解説が載っていた。

『新幹線大爆破』の千葉真一はほぼ運転席から動かないのに表情だけでアクションしていて、なにか見ていて非常に疲労感を覚えるが、吹き上がる原油にガスを押しとどめようとマーク・ウォルバーグ、カート・ラッセル、ジョン・マルコヴィッチ等々が顔面圧力の高さでもって抵抗すればそれはもう怪獣映画で戦車出てきたぐらいの感じにはなる(まぁマルコヴィッチはメフェストフェレスみたいな役回りなのですが)。
顔力もすごいがそのほか諸々、とにかく画がすべて。話がわからなくても見りゃわかる。を、徹底した超面白い怪獣映画で、作り手の意図ならずともの福一オーバーラップ感は、これも一つの『ゴジラ』なのだと思わせる傑作なんじゃないすかね『バーニング・オーシャン』。

【ママー!これ買ってー!】


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海難事故死ぬほど恐いっていうか死ぬし死ぬほど厭っていうか死ぬしの印象が叩き込まれたハードコア版『タイタニック』。『バーニング・オーシャン』同様のお仕事ムービーでもあるわけですがこちらは怪獣映画テイストとかないのでとにかく、タイタニックがどのように沈んでどのように人々が死んでいったかの仔細を創作や抒情を極力抑えて群像劇タッチで淡々延々と綴る。
氷山には序盤であっさり激突するので(その淡白さがまた恐い…)残り一時間半ぐらいはあぁこの人たちの努力は全部水泡に帰すんだなぁって思いながら見続ける地獄。

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