『パトリオット・デイ』を『キングダム PART2』にする感想

《推定睡眠時間:30分》

犯人兄弟が911は捏造だと熱弁するシーンがあったんですが、この人たちの背景が映画の中ではよく分からなかったので軽い気持ちでボストンテロを検索してみたところいやすごいよ。
検索結果の1ページ目に表示される記事の半分が「ボストン爆弾テロ事件は捏造?」みたいな。サジェスト、「ボストン テロ ヤラセ」「ボストン テロ 自作自演」みたいな。こわいインターネットをみてしまった。

兄の方は警官隊との銃撃戦で死亡しているしハッキリとした動機は未だなんだかよくわかっていないようですが、911陰謀説にヤラれてテロった人を見て更に陰謀る人たちがいるのかなぁとおもうと止まらない負の連鎖に暗澹たる気分だね暗澹。
まぁ『パトリオット・デイ』は今年一番決定の映画の中の銃撃戦が飛び出す劇的に熱いパニックアクション&サスペンス映画で要は監督ピーター・バーグですから『キングダム/見えざる敵』Ver.2.0ってわけで超&超激燃え、暗澹もどこかへ吹き飛んでしまったのですがまぁでも実録悲劇ものでそういう軽薄なコメントは人格が疑われそうだからやっぱり暗澹たる気分って言っときます…。

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いやほんとはね本当は難しい映画だと思いましたよ、本当は。基本的に悲劇のエンタメ昇華っていうのは必要なもんだと思ってますんでその点で『ハドソン川の奇跡』(悲劇を回避した話ですが…)とか平然と、世に問うでなしにただぽーんと世に放ってしまえるアメリカ映画すごいなこれが斜陽つーてもアメリカの余裕プライド超大国たる所以だなとかいつも思ってますけれども多すぎね最近、そういう実録悲劇ネタ。というのと。

あとやはりこれ見ながらエモーショナルに高揚しきった脳みその片隅を所在なく漂っていたのはファビュラス・バーカー・ボーイズ(まだこの呼称でいくからな)の、911実録風映画『ユナイテッド93』批判。
手元に本が無いからっていうかいや本当はあるんですけど押し入れの奥に埋まってて取り出すの面倒くさいから正確な引用はできないんですが、つまり、映画としては超おもしろいけどこれを事実として描いちゃっていいのか、映画が事実を作っちゃっていいのか、という。

ゆーても『ユナイテッド93』はツインタワーに突っ込んだ旅客機の中の出来事を断片的な音声素材等々から想像的に再構築したものなわけで、基本的には警察記録とか当事者の証言ベースと思われる『パトリオット・デイ』とは性格を異にするんでしょうが、これと同じくピーター・バーグ×マーク・ウォールバーグの実録もの『ローン・サバイバー』。
映画つーか原作の方ですがこんなの全然美談じゃねぇし話盛ってるじゃんみたいな異議を当事者は唱えているらしい(→ニューズウィークに載っていた

いやだからこうそのへんでむずかしいよねほんと。これめっちゃエモーショナルな最高映画なんでエモ駆動で事実かどうか分からないの消費しつつ事実として固定しちゃうの微妙に危なくねっていうのとかあるんでだからまぁうおぉぉぉすげぇぇぇってなりながらもそういう問題意識はあったよのエクスキューズは一応しておくよ! 一応な!

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あぁあとそうですねそうそう『ローン・サバイバー』でしょ、でBPの原油流出事故を題材にした『バーニング・オーシャン』でしょ、それでこの映画じゃないすか。
なんかバーグ&ウォールバーグの実録ものが続いてるんですけど、その流れの一本っていうかこれ2007年のピーター・バーグ監督作『キングダム/見えざる敵』の精神的な続編だと思いましたねって先に書いてましたが。

『キングダム』、サウジアラビアはリヤドに位置する石油企業のアメリカ人居住区をテロリストが爆弾積んで襲撃して。いっぱい死者が出たんでFBIが無理矢理乗り込んで、与えられた5日間で決死の捜査&銃撃戦。
そんな感じの話だったと思いますがこれ2003年のリヤド居住区爆破事件(→朝日新聞の記事だよ)が題材の一つになってるらしく、じゃあこの事件が仮にアメリカ人居住区で起きてたらどうなっただろうっていうたぶんそういう発想でシナリオ作られてますよね。
だから『キングダム』はフィクションなんですけどそこで描かれたイメージがある種、悪夢的な現実になってしまったのが『パトリオット・デイ』だと思うんですけど。

それでだから、この映画っていうのは単体として見ると結構鼻白むところも多かったんですけど(そもそもタイトルが嫌)、そういう風にして考えたら俺はなんか色々納得いったわけですよ。
たとえば映画の中でもたぶんリアルでもなんであの兄弟ぶち切れちゃったのかハッキリとは分かんないんですけど、事実関係とは別に『キングダム』の世界とイメージの上で繋がってるって考えたらそうなって当たり前なんですよね。『キングダム』はそういう終わり方したわけです。復讐が復讐を呼んで負の連鎖止まらんなみたいな。
なのでテロに打ち克つのは愛だなんだと何かと感傷的な泣かせの演出がうるせぇっていうのもあれはアメリカ人団結しようよみたいないつものUSA万歳じゃなくて。『キングダム』の結果がこれなんだからもうテロ起きたからって誰か憎んでもしょうがないだろうと、そういうことだったんじゃないかなぁと思いましたね。

ネタバレ…いやネタバレにならんしょ事実に基づいてんだから…とにかく弟の方は最後に生きたまま、つーても虫の息ですがともかく生きたまま確保されるわけですが、あの場面の救いは恐怖のテロリストが排除されたことにあるんじゃなくて、『キングダム』では撃ち殺すしかなかったアメリカの「敵」を殺さないで済んだっていう、そういうところにあったんじゃないかと思えば結構おもーいおもーいえらいすごい映画なんじゃないすか、『パトリオット・デイ』。

…結局は住宅街の銃撃戦が一番盛り上がるから罪深いのだけれど。

【ママー!これ買ってー!】


イヤー・ゼロ~零原点・・・

『パトリオット・デイ』の劇伴はトレント・レズナーとアッティカス・ロスによるもので、そこから連想されるのはエンドロールにミニストリーの楽曲を使用した『ハート・ロッカー』だった。愛国心を喚起させる(ところもある)テロリストと闘う勇敢アメリカ人の図、に反体制・反テロリスト戦争の姿勢が鮮明なアーティストの曲を振るアイロニカルな対比表現なんである。

『ハートロッカー』より少し前の2007年にトレント&ロスがナイン・インチ・ネイルズ名義でリリースした『イヤー・ゼロ』は近未来のアメリカを舞台にした陰鬱なコンセプト・アルバムで、『パトリオット・デイ』を見た後には「もし犯人兄弟がこの映画の主人公だったら」のifサントラとして重く響く。
曲名もなんかそんな感じだ。『The Good Soldier』『God Given』『Another Version of the Truth』『The Beginning of the End』…ブッシュ政権を揶揄した曲名だったのだけれど。

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