映画感想:『怪物はささやく』、『アイム・ノット・シリアルキラー』

ささやく映画二本立て感想。ささやくと言っているくせに巨体怪物がうるさい『怪物はささやく』と、殺りまくりシリアルキラーのくせにささやくように話す『アイム・ノット・シリアルキラー』です。
『アイム・ノット・シリアルキラー』は主演の人が『かいじゅうたちのいるところ』のマックス・レコーズだからなんとなく縁があります『怪物がささやく』とは。

『怪物はささやく』

《推定睡眠時間:20分》

いかにもダークファンタジーな大冒険が繰り広げられそうなポスターだったし見ていたら父親は家を出て母親は末期がんで更に学校では虐められている孤独すぎる少年の下にビッグでフレンドリーでジャイアントな巨木がやってきたので喋る木と孤独を抱えた男の子といえば『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』も記憶に新しいがガーギャラのように宇宙の果てまでとは言わずとも地底の果てまで掘り進んでいきそうな感じはあったこの少年は墓地裏の家に住んでいたので。

ところが。巨木、全然冒険に誘わない。冒険に誘わないし困っている少年の助けになるわけでもなく殺した殺された恨んだ恨まれたのブラックおとぎ話を語り聴かせて少年をげんなりさせるだけだった…お前なんのために来たの?
巨木の声はリーアム・ニーソン。ただでさえエキサイティングもカタルシスも皆無のげんなりおとぎ話を感情の枯れた初老男の平坦な語りで聞かされるので完全にベッドタイムストーリー。寝てしまうよこれはスヤスヤと。

巨木が歩くのに冒険はおろかファンタジー臭も一切ないのはそれが空想または悪夢であることを少年が自覚していたからなのだった。別にネタバレじゃないよそういうお話なんだよだからもーう盛り上がらないよね見てる方を悲惨な現実から逃がしてくれないので。
少年、家出くらいすればいいのに。巨木の助けを借りてさぁ…まぁそういうことは何一つしてくれない使えない巨木でほんとにお前なんで来たんだよ巨木お前…とあとシガニー・ウィーバー。

つー具合に少しイライラしながら見ていたのですが最後の方になりまして分かったのは現実から目を逸らそうとしていた少年が現実を直視する勇気を得るというのが実はこの映画のプロットでああああああああああ!
オチは口外不可ですが、こーのファンタジー感皆無というところにファンタジーの本質があったんだなぁって感じでしたねえ。いい映画これはいい映画。

少年役のルイス・マクドゥーガルくん、なんとなくトム・ハンクス風。

『アイム・ノット・シリアルキラー』

《推定睡眠時間:0分》

つーかそういう意味で言ったらこっちもファンタジー映画だよね。だいたい主人公がおんなじような境遇なんですよ。母子家庭、学校で虐められてる、閉鎖的な田舎町在住、たまにキレたりするので問題児または怪物扱いされてる、とか。
墓地裏に住む怪物少年に対してシリアル高校生の実家はモルグだった。『ジェーン・ドゥの解剖』とセットになってたのはそういう理由か。あっちも死体解剖を家業にする親子の話だもんな。

『怪物はささやく』と違うのはこのシリアル高校生の母親は別に健康状態に問題ないというのとそれから出会う怪物が巨木のリーアム・ニーソンじゃなくて連続殺人鬼のクリストファー・ロイドだったっていうところですね。
クリストファー・ロイドだよ、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の。なんか『ピラニア3D』とかにも出てたからチョイ悪ジジになりたいのかな…。殺人ロイドに影響を受けまくったシリアル高校生が段々と衝動を抑えられなくなっていくこれはチャップリンならぬロイドの『殺人狂時代』。ドクじゃなくてこいつぁ毒です。

死体解剖をする人と死体解剖をする人に商品を提供する人のお話であるから必然的に体温が低かった。暇な人がワカサギ釣り的なことをしているぐらいなので寒い風景が雪すごいし。
装飾性に乏しいインテリアを背景にした室内シーンはフェルメールっぽく構成されてたので家に入っても寒い。ロングショットだったりワンカットだったりでダラダラ切り取られる少しもおもしろくなさそうな殺しの場面も寒いのでとにかく寒い、アメリカ映画だそうですがカナディアン・ホラー的な空気が充満する静かなホラー映画だったなあ。

あとこれはこれでラストにツイストを効かせてるタイプのお話で。でも『怪物はささやく』みたいにズバーって解決しない曖昧さがまたカナディアン風味。ちょっと含みを残した…っていうかむしろ含みしかないなこれはこのオチはなんですかあれ。
なんか怪物がささやくんですけど…謎。防腐剤が鍵らしいので各自勝手に考えよう(いやもちろんぼくはあれはああいうことだと解釈しているからこういう感想になってるんです配慮を効かせ過ぎてなにを言っているのかわからないが…)

火葬場から立ち上る白煙が雲に溶けていく場面、綺麗だったし少しだけ『赤い砂漠』を思わせたよね。鬱屈シリアル青年が“犯人”を発見した時の高揚感はなかなか迫ってくるもんがあったなぁ。

【ママー!これ買ってー!】


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ファンタジーとジュブナイルとホラーというのはつまるところ同じ物語の表現方法の違いに過ぎないということをフルチ先生は教えてくれるよたっぷりの蛆虫と内蔵とフロイトシュタイン博士でな!

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