実写版『心が叫びたがってるんだ。』の感想(ネタバレと本心あり)

《推定睡眠時間:0分》

オリジナルは一昨年に公開されて評判を呼んだ劇場用アニメだそうで、ぼくは見ていないのですが、約1年のニート生活を終えて最初のアルバイト先でそのアニメ版のクリアファイルを貰ったのでタイトルは知っていました。
思えばあの頃はぼくの心も叫びたがっていましたね。メンタルクリニックに通院していましたし精神障害者手帳を申請していましたので、ぼくの『心が叫びたがっているんだ。』クリアファイルはいつの間にその関係の書類入れになりました。

あれから2年。病院も睡眠薬も生活支援も卒業してようやく人生が軌道に乗ってきた今、初めて対面する実写になった『心が叫びたがってるんだ。』。
ぼくは思いましたね。あれこれめっちゃ右翼映画じゃん。めっちゃ右翼映画じゃん。めっちゃ(略

まぁこれは幼い頃に舌禍事件を起こして心因性しゃべれない病になってしまった女の子のお話で結末をバラすと喋れるようになって良かったね的な感じになるがそのあたりは所詮こどもの価値観だね、大人の世界は喋らない方が良いこともありますよそれは、右翼映画とかそういうことは言わない方がいいんだよ、炎上の可能性があるからね、心に思っても口に出さない方がいいんだよ、わかってるんだよ、でも、心が叫びたがってるんだよ!
従って右翼右翼言って挑発するのはぼくがこの映画を真剣に見て真面目に受け止めた証だと考えてもらいたい。右翼映画です。

がしかし別にこれだけが右翼というわけではなく、基本的に地方を舞台にした学園映画という近年隆盛を誇る青春映画のサブサブジャンルはほぼ例外なくどれも右翼映画なんである。

真面目な考察は誰かちゃんとした学識のある別な人がやってくれるので勝手に投げるが、ざっくり言えば物語の水準でも映像の水準でもその特有のコードに極めて忠実であるという作劇の観点、多様性と混乱が同質性と明証性、首尾一貫性と変えられない運命の受諾に収斂されていくという物語内容の観点、マスコミュニケーションを理念的基盤に、地方フィルムコミッションを物質的な基盤として、これらをメディアミックスの手法で「学校」の中で接続する製作の観点等々を総合したときに、誰が意図するでもなく国民統合のイメージをプロパガンダする(良いプロパガンダは意図せざる無意識のプロパガンダだ)地方学園映画の保守的なイデオロギー性というものが成立してしまうんじゃなかろうか。

こんな感想だと思わなかったでしょう。特に検索でこのページ辿り着いた人、絶対こんな感想だと思わなかったでしょう!
俺も思わなかったです。勝手に叫んだ心が悪い。

いやぁでもね良かったんです、何が良いって野球部のキャプテンが良かったですね。
なんか知らんけど甲子園目指してたところを事故に遭って挫折しちゃって、以降(本人は善意のつもりの)後輩いびりが趣味の粗野で嫌な体育会系になってしまった。でも実の繊細ハートなので野球部の後輩に陰口を叩かれていると知ったぐらいで泣くションボリズムなんである。
『映画ドラえもん のび太の大魔境』でのジャイアンと一緒だ。ジャイアニズム&ションボリズム。こういうキャラには弱い。

この綺麗なジャイアン役の人、クレジットに寛一郎とあって誰やねんだったのですが検索かけると佐藤浩市の息子と出る。マジかよ。すごいな三世俳優。ちょっとこの人のオバQ的な泣き顔はもっと見たいのでチェックしておこう。
あと俳優陣だと学級委員長の石井杏奈も良かったんですけど、ぶっちゃけ主役コンビの引き立て役なのであんま出番がない。クライマックスのミュージカルシーンで僅か本領が飛び出すが、もう本当に僅かで残念。そういえばこの人は『四月は君の嘘』でもそんな損な役回りだった…。

えらい雑然とした文章になってしまった。えーと、この映画ですが、つまりですねつまり、心にダメージを負った高校生四人が地域まつりの出し物の実行委員にさせられて、それでミュージカルをやる羽目になると。
でこの人たちとクラスメートは最初は反発するんですが、段々とみんな打ち解けてきて、交流の中で心のダメージも癒やされていって、それでミュージカルやる。そしたら声が出なかった主人公の女の子が喋れるようになりましたとそういう映画。

すごい好きなシーンはあれだ、やっぱ野球部のキャプテン絡みになる。
キャプテンら実行委員がファミレスで会議していたら、偶然にも野球部の後輩連中と遭遇するというシーンがあって。でキャプテンの悪口言ってんの聴かれちゃったんで後輩みんな土下座するんですが、ただ一人キャプテンに憎悪を抱く一年生の現キャプテンだけは立ち向かって言い放つ。「あんたこんなとこで何してんすかぁ! 女連れてダベってよぉ! 甲子園行くんじゃなかったんすかぁ!」
また狂信的軍国少年みたいな相貌がアツイんだこのエースの一年生は。イイですよね、なんかイイですよねこういうの。グッと来たなザ・青春て感じで。「女連れて」って。

色々どうかと思うところはあるが(クライマックスのミュージカルが完成され過ぎ、とか)、トータルの感想はあれです、やっぱ面白いすね地方学園映画。
こういうベタなキャラクターでベタなストーリーをド真剣にやるっていう事の面白さがありましたよ。そのへん右翼映画の強み。こういう閉鎖的な地理的環境、こういう軍隊的な人間関係、こういう逸脱を許さない思想の中に自分が置かれたらと考えたら1日目で逃亡すると思いますが、見てる分には面白いというのがある。

そういう直球勝負でありつつ不貞行為によって主人公から言の葉を奪う父親が、絶対に絶対にどう見ても明らかに新海誠という痛烈な奇襲的批評が飛び出したりもするのでこれはおそろしい映画だと思いましたね…(※個人の想像です)

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地方学園映画の保守イデオロギーというのはシーンの背景の物質性が云々という話も俺の中で渦巻いているが要するに何が言いたいかと言うとロケに頼りすぎだろ。ロケ地第一主義が俳優さんの演技を抑圧しているというのが俺が地方学園映画に感じる嫌な部分なんですけどところが!

『ガールズ・ステップ』は違うのだ。石井杏奈主演『ガールズ・ステップ』は違うのだ! なんかめちゃくちゃヘボい緩い映画なのに! このチープな地方学園映画は!
石井さん筆頭にみんな活き活きとお芝居していて楽しそうに踊っていてそれが地方学園映画の息苦しさを自然と溶かしていてもう、実に、感動したね!
誰かの引き立て役じゃない石井杏奈をみんな見てくれッッッ!

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