フィリップ・K・ディック原作映画をたくさん観たから感想書く!(その2)

『ブレードランナー』(1982)、『トータル・リコール』(1990)、『スクリーマーズ』(1996)と、ディック原作映画の名作ケッ作がもう出てしまった(その1に書いた)。
でも!それ以降のディック原作映画も面白いのばっかりなんだぞ!
というコトで書く!カクカク!

『クローン』(2001)

http://uktor.ru
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エイリアンと人類の間に戦争が勃発。
人々はエイリアンの攻撃を防ぐべく、ドーム状のバリアーに覆われた都市での生活を強いられていた。
そんなある日、主人公の科学者ゲイリー・シニーズは、保安局のヴィンセント・ドノフリオに捕らえられる。
何が起こったのか分からないシニーズに、ドノフリオはこう話す。
「お前は人間じゃない。本当のお前はとっくに殺されて、今のお前はエイリアンに偽の記憶を植え付けられた生体爆弾だ…」

短編『にせもの』(1953)が原作。
エライ地味な映画ですが、これディック原作映画の隠れた傑作の一つ。面白いぞ!

ハナシはシニーズがホントに爆弾なのか、それとも人間なのか分かんないまま進む。
シニーズは人間だと言い張るが、証拠なんてどこにもないんで周りの人間は信じないし、自分でも段々分かんなくなってくる。

抑えた感じの演出とシニーズの苦虫を噛み潰したみたいな面構えが良くて、最後まで「コイツ絶対人間だな!」って観る人を安らがせてくれない。
地味だが、良いサスペンス映画なのだ。

https://rymdfilm.wordpress.com
https://rymdfilm.wordpress.com 色味を抑えた映像。このくすんだ雰囲気がイイ

いやそれにしても、スラムと下水道をひた走るシニーズと、それを追うヴィンセント・ドノフリオの絵面は素晴らしいなホント。
あまりにも華が無いが、華の無さこそディックである。
「ディックSFには英雄はいないが、英雄的行為はある」
とかなんとか評したのはSF・ファンタジー作家のル=グウィン。
華の無い、そこらへんにいそうな人たちが切実な思いで何かを成そうとするあたり、なんかこうグっときちゃうのだ。

脚本にB級SFの名手デヴィッド・トゥーヒーが参加してるせいか、トゥーヒーの脚本代表作『逃亡者』と共通するところが多い。
アッチほど手を変え品を変え…って感じでもないが、タイトにまとまっててイイ。
スラムのビルに隠れたシニーズをドノフリオが探すあたり、なんとなく『マイノリティ・リポート』。

マジで面白いB級映画だし、ディックらしさもスゲー出てるんだけど、原作の設定を一部変えてるせいで最後の展開がちょっと変になった。
でも映画オリジナルのラストシーンが良かったから、別にどーでもいいか。
コイツが人間らしさを「人に親切であること」と考えるディックらしいモノになっていて、ちょっと泣けんのだ。
「英雄はいないが、英雄的行為はある」んである。

『マイノリティ・リポート』(2002)

http://screengoblin.com
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殺人やテロといった凶悪犯罪が三人の予知能力者“プレコグ”によって事前に予知され、犯罪予防局によって阻止されている近未来。
数年前に子供を失い、それが原因で妻と別れた犯罪予防局のチーフ、トム・クルーズは、失意の日々を送りながらも未来犯罪者の検挙に勤しんでいた。
そんなある日、プレコグがトムによる殺人を予知。
一転して犯罪予防局の面々と司法局のコリン・ファレルに追われることに…。

短編『少数報告(後に『マイノリティ・リポート』に改題)』(1956)が原作。
ディック原作映画なんてどれも汚らしい未来世界しか出てこない(『ブレードランナー』の十字架は重い)が、コレはなんか清廉な未来世界。
車がマグネットみたいに壁面に張り付いてツルーって滑ってく光景なんか、ディックっていうかアシモフみたい。

アクションに趣向が凝らしてあって、自動車工場の生産ラインでの組み立てロボットVS警官VSトムなんてしっちゃかめっちゃかで楽しい。
ラインに巻き込まれたトムが押し寿司みたいに車に挟まった!と思ったら、ちゃっかり生きてたトムが完成した車走らせて逃亡、みたいな
っていうかラインの電源切ればいいのにとか、なんでトム生きてんだよとか思うが、監督はスティーブン・スピルバーグなんでそのあたり勢いで押し切るんである。

http://me.ign.com
http://me.ign.com ジェットパック警官とトム

あと、アパートの非常階段でトムとジェットパック警官が戦うトコも面白かったナ。
つかこのジェットパック警官、五分くらいしかしか出てこないが、全編ビュンビュン飛ばしたら良かったのに。
カッコイイぞ!

トムはいつものトムなんで別にどうでもいいが、コリン・ファレルがイイ。
汚らしい卑劣な面構えのクセして絶妙に抜けてんである(いつもそうだが)。
コリン・ファレルは後にディック原作『トータル・リコール』(2012)に出たんで、なんか縁があるかもしれない。
あとプレコグのサマンサ・モートンもキモカワ系で良かった。

http://www.imfdb.org
http://www.imfdb.org コリン・ファレルはいつもクソ野郎な感じでホント素晴らしい。今回はお坊ちゃま系クソ野郎です

トムが出たディック系映画『バニラ・スカイ』(2001)のキャメロン・クロウ監督がカメオ出演していたり、三人のプレコグの名前がアガサ、ハメットと著名な探偵小説家だったりと、見つけて楽しい小ネタがいっぱい。
ホームレスで遊んだり、おむすびころりんの如くトムが目玉を追いかけたりと、スピルバーグらしい無邪気な悪意に満ちたギャグもいっぱい。
トコトコ歩く走査マシン“スパイダー”、ババァの飼ってる吸血植物、オモチャみたいな犯罪予知システムと、楽しいガジェットだっていっぱいの、一大娯楽巨編だ!

なんか『北北西に進路を取れ』(1959)あたりのヒッチコックっぽい感じもあるな。

『ペイチェック 消された記憶』(2003)

http://bitterempire.com
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フリーエンジニアの主人公。
さる大企業から依頼を受けた彼は、巨額の報酬に引かれて仕事を請けるコトに。
だが、報酬には条件があった。作業完了後、業務に関わる記憶は全て抹消すること。
そして数年後、目覚めた彼は報酬として彼自身が望んだらしい19個のガラクタを受け取る。
果たして失われた記憶に何があるのか、彼はガラクタを頼りに探ろうとするが…。

短編『報酬(後に『ペイチェック』に改題)』(1953)が原作。
そういや似たようなハナシで安部公房の『カーブの向こう』(1966)ってのがある。
ゴミとか変なガジェットとか唐突な展開とかたくさん出てくるから安部公房好きなんですが、安部=真面目のイメージが強いんでバカには肩身が狭い。
あんなもんディック読むみたいに、星新一読むみたいに、マンガみたいに読んだらいいじゃない。笑えて楽しいのにナァ。
つか誰だよ、安部公房を純文学とか言って小難しくしたヤツ。

http://www.denofgeek.com
http://www.denofgeek.com 忘れてもうたー!まぁいっかー!

全然関係ないハナシでお茶を濁したが、映画の内容忘れちゃったんだから仕方ないじゃない。
ストーリーは原作に忠実だったと思うけど(主人公の持ってるガラクタが増えてたような)、香港時代みたいな熱はひとかけらも無いハリウッド期のジョン・ウーの映画なんで、とにかく印象薄いんである。
記憶無くす映画だが、観てる方も記憶を無くす。

でもアレだ、ベン・アフレックとアーロン・エッカート?の決闘シーンで鳩が飛んでたのは強烈に覚えてるぞ。
SFだろうと原作ものだろうと躊躇わずに鳩を飛ばすジョン・ウーのブレない姿勢に、感動した。

『スキャナー・ダークリー』(2006)

新型麻薬の蔓延する近未来。
覆面麻薬捜査官のアークターは自らジャンキーとなってジャンキー連中と共同生活を送りながら、新型麻薬の出所を追っていた。
そんな折、アークターは上司にジャンキーのアークターを監視するよう命じられる。
同僚や上司と顔を合わせる際には人物が特定できなくなる“スクランブル・スーツ”を着用しているため、誰も彼の正体を知らない。
仕方なく自分自身を監視するアークター。
だが次第に、彼は自分が何者なのか分からなくなっていく…。

長編『暗闇のスキャナー(後に『スキャナー・ダークリー』に改題)』(1977)が原作。
大学生がハッパでラリパッパな映画『バッド・チューニング』(1993)のリチャード・リンクレイターが監督で、同じくリンクレイターのラリラリ映画『ウェイキング・ライフ』(2001)同様、実写にデジタル・ペインティングを施してアニメにするロトスコープの手法がとられてる。
おクスリとかやったコトありませんが、見てるとへぇーこんな感じなんだねーと勉強になる(なんの?)

http://worldscinema.org
http://worldscinema.org 『ウェイキング・ライフ』

映画の前半はジャンキーの愉快な日常で、コレがホントバカバカしくて笑える。
リンクレイター自身が学生時代にハッパで遊びまくった(他も色々やってんだろな)人なんで、ネジの外れたジャンキーどもの愉快な日常を描いた原作には思い入れもひとしおだったんだろな。
アタマからケツまで、こんなにディック原作に忠実だった映画ってない。
原作の名バカシーン「自転車のギアはいくつ?」も完全再現だ!
わーい!

http://teenageintellect.blogspot.jp
http://teenageintellect.blogspot.jp 「すげーだろ、六段変速なんだぜ!」「おいおい、ギアは四つだぜ?」「いや、五つだろ」「待てよ…三つか?」

アークターはキアヌ・リーヴスですが、この人はおクスリとの関係が常に噂される人で、かつ常にディック界隈を漂う人。
サイバーパンク映画『JM』(1995)とか『マトリックス』(1999)とか出てるが、どっちも『ブレードランナー』と因縁浅からぬ映画だし、『マトリックス』の脚本読んだキアヌは「やっぱり!今見てる現実は偽物だったんだ!」とディックなことを言ったとか言わないとか。
実際ジャンキーかどうかは知らんが、ブレイン・ダメージ残りまくり感のある演技は本物にしか見えない。いや本物見たコトないけど。

その他、ロバート・ダウニーJr、ウィノナ・ライダー、ウディ・ハレルソンと、警察のお世話になったりおクスリと関係のある人ばっか出てんのもサイコー。
日本だったら小向美奈子にジャンキー役やらせて槙原敬之に主題歌歌わせるようなもんだろか。ナレーション田代まさしで。
そんなの絶対実現しないと思うが、実現させるアメリカ映画の懐(と闇)は深い。

http://www.agonybooth.com
http://www.agonybooth.com うぜぇインテリジャンキー(バカ)を演じたロバート・ダウニーJrも名演ですが、この人はガチの人なのでリアリティが違います

しかし、(アンチ)ドラッグ映画としてもディック原作映画としてもホント素晴らしいんだけど、もうこれなら上映時間四時間(無理だけど)でもいいから省略ナシで全部映像化して欲しいかったナァ。
前半は原作に超忠実なんだけど、後半はわりと省いてトントン拍子に進む。ソコ一番重要なトコだと思うんだけど…。
でも原作の最後に付いてた献辞、というか弔辞みたいのが映画にも付いてるから帳消しだナ。

中期まではスピードやりながら書いてたディックだったが、一時期はジャンキー仲間を家に招き入れて共同生活を送っていた。
ディックはいつも傍に誰かいてくれないとダメな人なんでそういうコトになったが、ラリラリの共同生活はやがて破綻。
『暗闇のスキャナー』はその体験を基にした半自伝的小説なんで、死んじゃったり壊れちゃったかつてのジャンキー仲間に捧げられてんのだ。

その3に続く…

【ママー!これ買ってー!】


スキャナー・ダークリー [Blu-ray]

スキャナー・ダークリー (ハヤカワ文庫SF)

メチャクチャ笑えるのに、メチャクチャ哀しい映画。と小説。
「彼ら(ジャンキー仲間)はただ、楽しく遊びたかっただけだ」
とかディックは書いてるが、その短い言葉はどんな反ドラッグの啓発文句より響く。
俺ドラッグなんて興味ねーからどーでもいーや、みたいな人もいると思うが、やっぱこういう映画観とくと懐広がるんじゃないすかね、人として。

余談ですが、『暗闇のスキャナー』はかつてテリー・ギリアムが映画化しようとしていた。
管理社会が云々みたいなコトを言っていたが、実際のところギリアムが共鳴したのは「彼らはただ、楽しく遊びたかっただけだ」という言葉の方なんじゃないかと思う。
なんせ、それこそギリアム映画の全てを貫くスローガンなんで。

↓その他のヤツ
クローン [DVD]
マイノリティ・リポート [Blu-ray]
ペイチェック 消された記憶 [DVD]

↓は原作短編の収録されている短編集。
〈アジャストメント〉には『にせもの』。
〈ペイチェック〉には『報酬(ペイチェック)』。
〈トータル・リコール〉には『少数報告(マイノリティ・リポート)』が収録。

アジャストメント―ディック短篇傑作選 (ハヤカワ文庫 SF テ 1-20)
ペイチェック―ディック作品集 (ハヤカワ文庫SF)
トータル・リコール (ディック短篇傑作選)

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