アートアニメ感想文『ホフマニアダ』『《外套》をつくる』

ロシアのアートアニメ(系)映画を続けて観てしまったのでまとめて感想。E.T.A.ホフマンの作品世界を『ミトン』『チェブラーシカ』なんかを製作したソユーズムリト・フィルムが全編パペットアニメで映画化した驚愕幻想奇譚『ホフマニアダ』と、そのソユーズムリト・フィルムの代表作の1つ『霧につつまれたハリネズミ』を監督したユーリー・ノルシュテインの工房に東京の名画座ラピュタ阿佐ヶ谷の館主がお邪魔した手作りドキュメンタリー『ユーリー・ノルシュテイン〈外套〉をつくる』です。

『ホフマニアダ ホフマンの物語』

《推定睡眠時間:15分?》

どれぐらいの間眠っていたのかよくわからないが起きている間に何を見ていたのかもよくわからない。よくわからない72分の甘美な映像迷宮だ。よくわからないが気持ちよくスヤスヤ眠れたので甘美なのは間違いない。

そもそもホフマンをちゃんと読んだことは一度もないのでこれはどうもホフマンの作品世界をホフマン自身が訪ね歩くというか、創作の過程を説明を排して幻想的に表現しているようではあるが、その作品からしてわからない。
読んだことがないのでわからないがなんか現代思想周辺の人が引用したがるような人というのが個人的ホフマン像、愛と信頼のウィキペェイディアによればドイツ後期ロマン主義の作家ということなのできっと作品の内容もよくわからない耽美的な感じなんだろう。

わからない×わからない。しまいにはそこにロシア的カーニバル文学の感覚まで入ってきちゃってもう全然わからない感じである。素晴らしいですね。いやこれは皮肉ではなくて真面目に。
汚濁と神秘がない交ぜになったイマジネーションの奔流、うっとりするような夢世界を突き破って飛び出すグロテスクなユーモア。キモとカワに挟まれた異形のものたち。こういうのが観たいから基本的に。映画は。

よくわからないまま映像に流されていると最後は大量のホフマンキャラ(?)たちがなにやら格調高い舞台の上で一堂に会す。てんでばらばら、ひっきりなしに何かをしているがなにがなんだか。あっちは歌ったりなんかしている。こっちは酒飲んで床ぶっ壊してる。そっちの方には殴ってるのもいたような。
そのカオスのまま幕を引かれても理性は納得してくれないが感情的にはいやぁ~映画観たな~みたいな大団円感であった。

ホフマンといえば自動人形が主要なモチーフになっているとどこかで読んだ気がするが、自動人形とくればパペットアニメの本領発揮。
生きているものと生きていないものの中間表現は至芸、たいへんうつくしくまたきもちがわるく、すばらしかったなぁ。

あと俺の観た回は『マイリトルゴート』という『ホフマニアダ』とは無関係の短編パペットアニメが併映だったのですが、グリム童話を児童虐待問題に絡めて翻案した痛ましくも優しさに溢れた作品で、これもたいへん面白かったです。トラウマ的なグロ表現もよかったっすね。被虐待児童の心象風景といった感じで。

『ユーリー・ノルシュテイン《外套》をつくる』

《推定睡眠時間:20分》

ラピュタ阿佐ヶ谷館主の才谷遼という人は自身でもいくつか映画を監督しており、姉妹館のユジク阿佐ヶ谷ほかで一般公開したりしているのでなんというか、ぼくは憧れませんがある種の映画好きの夢を体現したような人らしい。

フォルモグラフィーを見るとソクーロフの『牡牛座 レーニンの肖像』に製作でクレジットされているのでなかなかかなりすごい。絶賛かどうかはよくわからないが公開中の直近の監督作『ニッポニアニッポン フクシマ狂詩曲(ラプソディ)』にはアニメーションでユーリー・ノルシュテインが参加しているというからびっくり。驚きのロシアン・アート映画界隈パイプライン。

というぐらいなのでこの才谷遼という人はユーリー・ノルシュテインとは付き合いが長いらしい。よって『《外套》をつくる』、ホームビデオです。
才谷遼がユーリー・ノルシュテインの工房に行って久しぶりーなんつってハグしちゃったりして家族とかアシスタントと一緒に飯食って酒飲んで酔っ払ってノルシュテインにあなたは『外套』を作るべきなんです! どれだけの人間が『外套』を待っているか理解してない! ってろれつの回らない口でしつこく説教絡みする。すげぇな! なんか…すげぇな!

『外套』というのはゴーゴリに原作を基にしたノルシュテインの監督最新作。20年ぐらい作っているがまだ完成しないらしい。
どういうことだよと思うがその理由は映画の中でノルシュテインが率直に語ってくれていた。やる気が出ない。完成させようと思えばすぐ完成させることができるが工房の財政苦しいし病気とか色々あったからやる気が出ない。
まぁ、やる気が出ないならしょうがないよな…こんな身も蓋もない巨匠系ドキュメンタリーがあっていいのかと思うほどのウルトラ率直っぷりであった。

単にやる気の問題だったので制作に使ってる切り絵の型とか才谷遼が見してよって頼むと超普通に見せてくれる(すげー!)。これが顔ね。それからこれが身体。服。帽子。それから…水のしずくも動的に表現するからパターンが十数種類とかあって偏執に近い拘りがすごいのだが、ノルシュテインはこういうのを20年間シコシコ作ってたらしい。
サボってたわけじゃないんだよ、ちゃんとずっと作ってたんだよ、撮影がストップしてるってだけで、とノルシュテイン。あれは観客というより才谷遼に対して個人的に言ってるんだろうなぁ。

いやぁ、完成度が高いとは全然全く言えないほぼ素人ドキュメンタリーでしたけどこうなると完成度がどうとかそんな物差しは何の役にも立たないな。
カメラに撮られてる感ゼロのノルシュテインの愚痴の数々を聞くだけでも見る価値があるというもの。合間合間に差し挟まれる『外套』のフッテージは哀感溢れる繊細な皺の表現がそれはもう素晴らしく…確かに、早く『外套』作ってよ~ってノルシュテインに言いたくなりましたよ、俺も。ただろれつの回らない感じで説教的には言いたくないんですけど。

【ママー!これ買ってー!】


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これはこれで観ると心地よく眠れる。決して悪い意味で言っているのではない。

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