落胆感想『映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン ~失われたひろし』

《推定睡眠時間:0分》

映画ドラえもんは毎年安定してある程度は面白いが映画クレヨンしんちゃんはファールかホームランの両極しかないっていうのが俺のしんちゃん認識なんですが今年のしんちゃんは場外ファールでした。

いや厳しかった。去年の『カンフーボーイズ』が面白かったから余計になぁ。お子様のひしめく場内も水を打ったように静まりかえっていて、それがまた厳しい。
お子様がエキサイトしないしんちゃん映画ってそんなのありかい。そこ一番大事にするべきところなんじゃないの。お子様が楽しそうにしてたら多少つまらなくてもなんとなく一緒に観てる大人だって楽しくなってくるってもんじゃないですか…俺は独身ですけど。

ようするに今回のしんちゃん映画、露骨に大人を取りにきてる。原恵一監督時代の大人受けしんちゃん映画を念頭に置いてるんでしょうね。もう、それが見え透いていて本当に嫌なのだが、とはいえ原恵一のしんちゃん映画はひとつ残さず全部傑作なので、それと同じくらいに笑えたり手に汗握れたりすれば別になんでも構わない。

問題はそういうところがほとんど無い。ギャグやアクションそっちのけで安易な泣かせと共感を優先してしまう作りで…副題は『レイダース/失われた聖櫃』をもじって『失われたひろし』ですが今回の主役は実質みさえ、っていうんで女性活躍の時流に乗って育児ママがどれだけ大変かみたいなことを折を見てはみさえに訴えさせたりするわけですが、ちょっとこういうの勘弁してほしいよね。

泣かせと共感を入れるなって話じゃないんですよ。泣かせと共感はそれだけが悪目立ちしないように原恵一みたいに巧く物語に組み込んで欲しいって話であって…たとえばそういう台詞は悪党とのチェイスシーンの最中だったり、絶体絶命の時の魂の叫びとして言わせることだってできるわけじゃないですか。

でもこれそういうことをしないんです。普通にみさえとゲストキャラのトレジャーハンター女(このキャラがまた立ち位置が定まらない酷いシロモノで…)の立ち話としてそういうのを入れてくる。
そんな浅はかな。はいここでお子さんをお持ちの女性の皆さま共感してくださいね~って言われてるみたいじゃないですか。客を馬鹿にしてんのかと。

共感が欲しかったら発言小町にでも投稿するよ。泣きが目的なら難病純愛映画のDVDでも借りるよ。エンパワーメントを求めるなら自己啓発本でも読むよ。俺はそんなもののためにしんちゃん映画を観に行ってるんじゃないんだよ。
最終的にはみさえとひろしが愛を確かめ合う話に落ち着くわけですから子連れの夫婦客とかカップル客の中にはこれで喜ぶ人もいるのかもしれないが、が、でもそれしんちゃん映画でやらなくてもいいだろって思ったよ…本当にもう、心から。

でも面白いところがなかったわけではないから公平にその点もちゃんと書いておこう。
MISIAの「Everything」をみさえ(ならはしみき)が、福山雅治の「HELLO」をひろし(森川智之)が、それぞれカラオケ風にカバーしたものがBGMに流れるっていうの馬鹿馬鹿しくて良かった。
ボケなのかマジなのかしばらく考えてしまう渋いギャグ、こういう遅効性の笑いは今までのしんちゃん映画にはあまりなかったから新鮮だ。いや、ギャグじゃなかったらちょっとキツいんですけど。

あとそうですね、今回しんちゃん一家は遅い新婚旅行としてグレートバリアリーフならぬグレートババァブリーフ島っていうところに行くんです。あはは面白い名前。ババァブリーフだって。しかもグレート。超ウケる。俺の中の5歳児大爆笑。しんちゃんは全然楽しそうにしてませんでしたが。

あとおもしろかったところはどこだろう。そうねぇ…そのグレートババァブリーフ観光の途中でみさえが一人ホテルの部屋に戻って水着を探すシーンがあるんですが、そのへんの日常的なショットはちょっとグッとくるところではありました。
みさえと口論になって外でビール飲んでたひろしがシャツにビールこぼしちゃって、で慌ててポーチからウェットティッシュを取ろうとしたらポーチの中身ぶちまけちゃって、とかもそう。
何気ない夫婦関係の機微であるとか、そこにさざなみが立つ瞬間っていうのはよく捉えてたなぁと俺独身ですけど思いましたね。

うん、そうだな、やっぱこれ完全に大人を取りに来てるわ。大人っていうか子連れの夫婦を取りにきてるわ。子供なんてそんなの関係ねぇ。
かすかべ防衛隊の出演時間とか約1分だしね。しんちゃんのブリブリ星人もなけりゃあゾウさんぶらぶらもない(それが面白いかどうかは別として)。とりあえず入れとけ的なアクションシーンの乱暴な扱いったらない。改めて、こどもメンタルな俺には相当面白くない映画だったと言っておく。

でもあえて付け加えれば、そういう路線が悪いっていうかその路線で新味のあるシナリオを組み立てられなかったことが悪かったんじゃないかという気はしてる。
ジャングルの舞台設定は気持ち『嵐を呼ぶジャングル』、ひろしが家族写真を見てみさえとの馴れ初めを回想するシーンはちょっと『オトナ帝国の逆襲』、機関車カーチェイスは名作『夕陽のカスカベボーイズ』を思わせたりとー、既視感の嵐。

これがしんちゃん映画で育った子持ち層の郷愁に当て込んだノスタルジー商売だとしたら軽蔑しかないが(実際そうだと思ってるが)、そうであろうがなかろうが、既成のしんちゃん映画のツギハギフォーマットの上に中年夫婦の少し枯れたラブストーリーを何の工夫もなく乗せたところでうまくいくわけがないんで、それならもういっそ春日部のマイホームから一歩も出ないくらい大胆なシナリオでやってほしかった、と思う次第、です。

っていうか、そういうチャレンジ精神がしんちゃん映画の強みじゃなかったですか? 違うと言われたら謝って引き下がりますが…。

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監督が原恵一から水島努に変わってからの2本のしんちゃん映画はどっちも大好き。こっちの方はしんちゃん映画でも屈指の出来じゃないすかね。

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匿名さん
匿名さん
2019年6月1日 9:42 PM

うんち

匿名さん
匿名さん
2021年7月10日 8:53 AM

本当にこどもメンタルには面白くない

匿名さん
匿名さん
Reply to  さわだ
2021年7月11日 5:05 AM

返信ありがとうございます。モヤモヤしてたのでこの記事を読めて良かったです。