シリア内戦ドキュメンタリーが立て続けに2本公開されたので観に行ってきた。どっちもかなり寝ているので信用ならない(感想が)
『セメントの記憶』
《推定睡眠時間:45分》
レバノンはベイルートに逃れてきたシリア難民労働者を描いたドキュメンタリーとのことだったがそういえばレバノンがどこにあるか知らなかったのでグーグルに聞いてみるとあれびっくり、シリアのすぐ隣なんですねぇ。
トルコと並ぶメイン亡命先の一つっぽいのでそれもそうかという気もするが、でもこうして地図で見ると首都ダマスカスとの近さやっぱびっくり感あるな。あとシリア結構でけぇ。レバノンが小さいのかもしれませんけど。
冒頭、ドローンカメラが石切場にぐーっと寄っていってそれを通り越すと一気に姿を現す地中海、石切場からはその海沿いの建設現場に向けて資材が運ばれていく。
観ている間は材料供給先こんなに近いんすねぇ嗚呼格差社会、としか思わなかったがグーグル先生のおかげであたまがよくなった今はダマスカスとベイルートの近さのメタファーだったんだろうなと思う。天国と地獄の間にはほんの数キロの緩衝地帯しかない。
天国といっても相対的な天国という感じで、この難民労働者(たち)の置かれた環境は当然ながら恵まれているとは言えない。
そこらへんジャーナリスティックなドキュメンタリーではないので(寝ていただけかもしれないが)具体的な労働環境であるとか法的な庇護の度合いなんかはよくわからないが、その曖昧さが特定の地域の特定の難民ではない難民一般の悲劇性を浮かび上がらせているようでもあった。たとえ亡命先で相当平和に暮らすことができたとしてもそのことで故郷の喪失が賄われるわけではないもんな。
映画は難民労働者から見たベイルートの建築風景と主に市民ジャーナリストが捉えたシリアの都市破壊の風景を連想の赴くままに対比させて、その二つの世界を詩的なモノローグで繋いでいく。
亡命シリア人監督のドキュメンタリー映画といえば『シリア・モナムール』も同じような作りだったからなんかこういうの、シリア映画っぽさだったりするんだろうか。すごくこう安らぎに満ちた無時間性というか…まぁようするに眠いということですが。むろん、眠いことは悪いことではないし寝ることも悪いことではない(強弁)
ひとつひとつがロックのアルバムジャケットみたいに格好良いベイルートの風景画は画面のどこかがだいたい黒で欠ける構図を取っている。それがなにか思い出したくない過去の存在を暗示しているようで、過酷でありつつも穏やかな風景に亀裂を入れる。
映画の公式サイトを見るとこの監督は元々シリアで映画監督をやっていたが内戦が始まると政府軍に徴集されたらしい。やがて色々思うところあって亡命。
難民労働者のドキュメンタリーの体を取っているが、難民労働者を撮るというよりも、被写体を通して監督が心の内を吐露する自己治癒のような映画だった。
『アレッポ 最後の男たち』
《推定睡眠時間:20分》
トルコにほど近いシリア北部の要衝アレッポはそういえばシリア内戦報道がまだ熱かった頃によく政府軍に奪われたとか反政府同盟に奪い返されたとかでニュースになっていたと思うが、最近はとんと聞かなくなった。ていうかそもそもシリア内戦関連のニュース自体が全然なくなったな。お前が見てないだけだろうと言われたら一言もありませんが。
ニュースはなくなったが悪い意味で情勢が安定してしまっているらしいのでアレッポの戦争状況はもはや日常。気分はもう戦争をすっかり通り越して戦争ってなんですかみたいな感じである。この映画を見ているとそんな感じになる。空爆がまるで自然災害のよう。
アレッポほかで活躍する民間救助隊ホワイト・ヘルメットのメンバーにカメラが密着。ホワイト・ヘルメットとは! …まぁぼくなんかではとても正確に説明できないと思うので各自勝手に調べたらいいと思うが、これウィキを見ると母体となった組織が活動を始めたのがシリア内戦の始まった翌年の2012年、1作目の『アベンジャーズ』が公開された年なんすね。
そうかぁ『アベンジャーズ』と同い年かぁ。今これ書いてるのが2019年4月25日だから『アベンジャーズ』ちょうど終わっちゃう(らしいが知らない)タイミング、なにかわからんがなにかこう、クるものがあるな。
2017年の映画だから撮影期間はもっと前だ。良くなったか悪くなったかは知らないが今のアレッポの状況は映画で描かれるものとは全然違っているはずで、そこを紐付けて考えることはできないが、ともあれ『アベンジャーズ』が始まって終わる間にこういう人たちとこういう活動があったのだと思うとクるんである。
そのわりに寝ているのはカメラが捉える光景があまりにも非日常感のない非日常だったからかもしれない。
ホワイト・ヘルメットのメンバーの一人が子供を連れて子連れで賑わう公園に行くと空襲警報、何人かは慣れた感じでテーブルの下に隠れたりするがほとんどの親はまた警報かぁって感じでとりあえずそのままおしゃべりを続けていたりする。
空爆で倒壊した建物の下敷きになった子供の遺体なんかもバンバン映し出される映画だが、俺にとってはそっちの方が衝撃的で、戦争のリアリティってこういうことなんだなぁと思いつつ、同時にそのありふれた日常っぷりにやがて驚きを感じることもできなくなって眠くなってしまうような、なにかそんなアンビバレントな鑑賞になったんであった。
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難民建築作業員と現地住民の洒落にならない大喧嘩がベイルートで勃発。こっちの難民はパレスチナ難民なのでシリア難民とは政治的な意味合いが全然違うのだが、『セメントの記憶』の背景を理解する一助になった。