《推定ながら見時間:80分》
小説の方はケン・リュウのおかげで(俺はまだ読んでませんが)認知されつつあるチャイニーズSFですが映画の方はそういえばあんまり知らない。
記憶にあるものといったら『ポリス・ストーリー:REBORN』ぐらいですが、なにせ他に知らないものだから『ポリリボ』と『流転の地球』でなんとなくチャイニーズSF映画のイメージが出来上がってしまった。すなわちビッグバジェット、ビッグスケール、ビッグテイスト。ルー大柴のようになってしまう。
もう設定がビッグだから『流転の地球』。太陽あと何万年だか何十万年だか何百万年だか知りませんけど人類が終わるぐらいはもってくれるだろうというのが今までの定説でしたが嘘だったのであと100年で太陽崩壊による地球消滅の危機。
こんな場合にアメリカのSF映画だったらせいぜい『地球最後の日』みたいに方舟宇宙船を建造するのが関の山ですがチャイニーズSFはスケールが違うので世界各地に地球エンジンなるものを建造して地球ごと太陽系を脱出、アルファ・ケンタウリまで逃がしてやろうという話になる。無理だろ。
いやそこで無理とか言ってたら映画は見れない。こういうものです。映画こういうものなんです! DC映画やマーベル映画なんかを筆頭に欧米SF映画が空想科学とリアリティをなんとか接合しようとあれこれ試みている傍ら、チャイニーズSFはそんな西側的価値観には目もくれず太陽系脱出に向けて邁進しているのであった。社会主義陣営最後の砦のプライドである。
でそれは良いんですけど問題はあんま面白くない。映像的にはすごい…ブリューゲル(父)の如くゴッチャゴチャと作り込まれた地上のメカメカしいCG背景や地下都市のサイバーパンク的なスクラップ美術は映画の中に世界を丸ごと造ってやろうとする気概と金に溢れていて、異様なまでのプロップ・ガジェットへの偏愛(中国SFわりとどれもこういうところないすか)も含めてなんだかすごいのだが、シナリオにメリハリがないっていうか…基本、主役は映像なんすよね。
ビッグな映像世界がありゃそれでいいじゃんみたいな感じでシナリオは本当にこう、なんか起きて誰か死んでみんな悲しんでなんか起きて誰か死んでみんな悲しんでの繰り返しみたいな感じで非常に受動的で牽引力が弱い、情には厚いけどストーリーは薄い。
俺はSF映画にはストーリーを求める派なので結構う~んって感じでしたね。そりゃストーリーが薄くても独創的なビジュアルひとつでハートを持ってくSF映画というのもありますけどこれそういう感じでもないし。
地上からカメラがぐーっと引いて引いて引いて宇宙に出てしまって更にそこから引いて素敵な地球船宇宙号をナビゲートする国際宇宙ステーションまでワンカットで捉えてしまうダイナミックなカメラワークにはすげーってなりましたけどね。あと地球エンジン。色々あって最終的には百人単位の人力で地球エンジン動かすとかその絵面と発想はめっちゃ面白い。
でもそこぐらいかなぁ絵的な面白さっていうのも。作り込んではあるんですけど作ったら面白いってわけでもないしね。トンデモ系に振り切れていたらそれはそれで面白いんですけど大味設定のわりには変に真面目なところがあって煮え切らないし…それは絵的にもシナリオ的にもなんですけど。
そのへんは斜めに見ると面白いところでもあったかもしれない。なんていうか、役に立たないモノ・ヒトを出してこない。特定の目的を持った役に立つ技術がまずあって、人間にせよ文化にせよその技術に奉仕する中で価値を持つというような考え方が映画作りのベースにある。
技術的合理性・合目的性が科学的合理性やシナリオの合理性に先立っているから地球を宇宙船にする荒唐無稽が荒唐無稽として響かなかったりするんですよね。
これだけをもって中国SF映画を語ることはできないでしょうが、そこには中国SF映画…というか中国映画特有の難しさというのもちょっと感じたりもした。し、これは想像というか俺の願望なんですけど、役に立たない人間の代表格として出てくる地下都市のヤクザが暇つぶしにファミコンの『魂斗羅』をやってるシーンにはその国家を背景にした役に立つもの賛歌へのささやかな抵抗が感じ取れたりもして、なんのことはないシーンではあったがここが全編通して一番印象的だったりもした(このささやかな抵抗を画面から勝手に汲み取れば、とくに映画の後半、表向きのストーリーとはまた別のストーリーも立ち上がってきてちょっとだけグっとくる)
主演ウー・ジンですがアクションとかはほぼなし。それもそのはず今回のウー・ジンは宇宙飛行士、色々あって半無人状態のナビゲーション宇宙ステーションを歩き回るだけだった。
その宇宙ステーション・パートと地球パートがシナリオ的にも編集的にもあまり有機的に結びついていないあたり、盛り上がりに欠いて残念ではあったが、崩壊待ったなしの地球から遠く離れて無力と孤独を一人噛み締めるウー・ジンの横顔が沁みたので良し。
【ママー!これ買ってー!】
The Wandering Earth (English Edition)
原作短編『放浪地球』の入った中国SF界の巨人(らしい)劉慈欣の英訳短編集。なお『放浪地球』は『SFマガジン』の2008年9月号に『さまよえる地球』の題で邦訳あり。古いから探すのがたいへんだ。
この映画の元ネタは日本の東宝映画「妖星ゴラス(1962年)」だと思われます。
観たことないので時間があれば観てみます。