《推定睡眠時間:35分》
普通のおもしろいラブコメだった。適当な嘘をついて女をオトすことが趣味のスケベで軽薄な靴メーカーの社長がひょんなことから下半身不随を装って車椅子のヴァイオリニストに接近、いつものように軽薄恋愛を楽しむが次第に(…人として最低じゃない?)ってなっていく。気付くのが遅くない?
ともあれ気付いただけでも人として一歩前進、ちょっと本気で好きになりかけてきたところでもあったので真っ当なお付き合いに切り替えるべく、愛想を尽かされる覚悟で実は普通に歩けることを打ち明けようとする社長であったが…まぁ、なかなか上手く行きませんよね。
主演のフランク・デュボスクが監督・脚本も兼ねた俺様映画で、この人はコメディアンらしいので随所に悪趣味すれすれ系の笑いあり。すれすれであって悪趣味ではないので下ネタ・差別ネタ・障害ネタばかりだがキツイ感じなし、アメリカの同種の映画みたいな過剰さもその裏返しのウェットなところもなしでバランス感覚にたいへん優れた万人向けコメディの観だ。
フランス映画はこういうの巧いっすよね、『最強のふたり』とか。それにしてもコメディアン監督は出たがりが多いなぁ。
わりと、それ以外の感想がない。悪い意味じゃなくて本当に普通に面白い映画は普通に面白かったとしか言えないというのがあって…まあ結構寝ているせいもありますが、とにかく普通によくできていたので…感想にしようとすると結構困る。
びっくりするぐらいスルーっと脳を通り抜けていってしまったのはそれがどこか見覚えのあるような光景だったからかもしれない。どこで見たかなぁと思ったら日本のテレビドラマでした。展開といい演出といい笑いの塩梅といい、すげぇこういう設定の和テレビドラマ、ありそうな感じ。
現代を舞台にした最近のフランス製メジャー娯楽映画を見ると日本っぽいセンスだなぁと思うことがよくある。アニメとかゲームとかオタクとかそういうサブカル的・先進的(ある意味で)な日本センスじゃなくて昔ながらの牧歌的な茶の間センスっていうか。
前衛が強い一方でその核心の部分は極度に保守的なのがフランス映画だと思っているので、たぶん変わりゆく映画グローバル・スタンダードの中で未だにこういう古典的な…スケベ社長が若いチャンネーの胸の谷間をなんとか覗き込もうとするとか…ギャグとか世界観を見せられると擬似的なノスタルジーが発動してしまうんだろう。基本的に嫌なやつが出てこない点もそれに一役買っている。
どこまでも予定調和な映画だったが予定調和だから安心して楽しめるということもある。すごかったな、その予定調和の裏切らなさ。なんか貶してるみたいですけどそうじゃないんですよ。本当に、本当にベタに面白い普通の映画だから取り立てて言うことが本当に、ないんです。良い意味でね。良い意味で。
【ママー!これ買ってー!】
これもベッタベタなギャグの連続で茶の間感あったなー。