すごい映画を観た感想『パラレルワールド・ラブストーリー』(ネタバレ全開超注意)

《推定睡眠時間:0分》

主人公の敦賀崇史(直近の東野圭吾原作映画の監督が三池崇史という奇縁)を演じるのがキスマイの玉森裕太ということで最悪ファン向けムービーとしてもこの出来は厳しすぎないか。
通学電車で毎日見かける電車美人・津野麻由子(吉岡里帆)を崇史がただただ眺めることしかできないように映画もシナリオをただただ漫然と緩急もなにもなく追っていくだけだが、そのシナリオも面白くないという面白くなさの挟み撃ち。

面白くないからもうネタバレをしてしまうが(※あらすじは書かないので各自勝手に確認してください)パラレルワールドではありませんでした。崇史が迷い込んでいたのは同僚のテンサイ科学者・三輪智彦(染谷将太)が作った記憶書き換えマシーンによる模造記憶の世界だったのだ!
親友にしてライバルの三輪に彼女ができたっていうんで早速会わせてもらったらなんと例の津野さん! びっくり仰天しつつ崇史くん嫉妬の嵐! 色々あって三輪も崇史くんも記憶書き換えマシーンのお世話になって意識の中にパラレルワールドが出来上がってしまったのであった!

俺にどうしろと言うんだ。誰もどうしろとも思っていないと思うが俺の記憶が改ざんされていなければ今2019年ですよ。こんなの単なる安上がりなフィリップ・K・ディックじゃないですか。記憶書き換えマシーンの造型が若干ほんとうに若干オマージュしていたかもしれない『トータル・リコール』じゃないですか。記憶書き換え技術を完成させたい会社が津野さんに崇史くんの恋人を演じさせて崇史くんの模造記憶を補強しつつ監視していたとかマジでシュワの鼻から痛そうなのが出てこない『トータル・リコール』じゃないですか…。

あまりの展開に頭を疑ったよ。そんなオチやる? 思い付いたとしても。作家とか脚本家としての矜持とかないのかよ。いや別に面白ければそんなもの無くてもいいしパクリでもなんでもオールオッケーですけど問題は面白くないんだよ…だってガッカリでしょう、パラレルワールドの正体が『トータル・リコール』でしたって言われたら…。
逆でいいじゃんね逆で。模造記憶かと思ったらパラレルワールドだった! っていう方が遙かにワンダーがあるしロマンティックなのに…なんなんだ、なんなんだ!

パニックですよ俺は。なんでこんなことになってしまったんだ。監督は『聖の青春』の森義隆、音楽は石井隆組の安川午朗、原作は東野圭吾でエンディング曲は宇多田ヒカル、脚本は一雫ライオンという豪華布陣でなぜこん…お前誰だぁぁぁぁ!
でも全体的につまらないので脚本の人が特別に悪いとかそういうことじゃないと思います。みんな悪い。せっかくの恵まれた才能を無駄遣いしたみんなが悪いし軽はずみに観に行った俺も悪いしなによりこの映画を生み出した邦画業界の土壌が一番悪い。これで痛み分けだ。これからはお互い仲良くしような! しねぇよ!

大袈裟に貶しすぎている。一応それ、自覚済み。ぼくディックわりと好きなので天下の東野圭吾先生がいまどき臆面も無くディックネタで攻めてきたらそれはちょっと待てよお前ぇぇぇぇってなってしまいます。でも本当にディックなんだぜ。マジでディックなんだぜ。最悪ディックは免れても『エターナル・サンシャイン』のなんの創意もない二番煎じっていうのはどうなんですか…これ模造記憶じゃないよね!? 『エターナル・サンシャイン』っていうスイーツ版ディックみたいな映画確かにあったよね!? 白々しい書き方はやめろ。

ともかく、これではタチの悪いネガキャン的印象批評だ。だから俺もがんばった。多少なりとも公平な映画鑑賞者であるためにがんばってディック作品の想い出は雨の中に流してついでに東野圭吾のことも忘れてひとつの映画作品として『パラレルワールド・ラブストーリー』を頭の中で早くも再鑑賞してみた。
どこだ、どこにある。この映画のおもしろいところはどこにある…呆れるところしか見つからない! あなたは砂漠にいる。そこにひっくり返ったカメがいて…脳の! 秩序が! 乱れてくるッ! なんかもうダメっぽい。

脳が破綻を来した理由を列挙する。まず崇史くんと津野さんが同棲していて三輪はアメリカ本社で働いている世界Aと三輪と津野さんが付き合っていて崇史も三輪も同じ日本支社で働いている世界Bの絵的な差異がなさすぎる上に二つの世界を意識の上で行き来する崇史の混乱が微塵も伝わってこないのでこの手の物語のキモになる現実崩壊感覚絶無。

世界Aと世界Bに見た目の顕著な違いがないのは世界Bが世界Aの記憶で上書きされた過去に過ぎないからだが、そこに微妙な違和感を出してパラレル感を演出しないとこのプロットは成立しないのに、それがない。二つの世界で交流のない隣人が違う人になってるとか、世界Bの旅先で撮って部屋に飾ってる写真の背景に写っていたものが世界Aでは(なんらかの不都合な事情があって)写ってないとか、そういう小細工をしない。

これは趣味の問題かもしれないが曲がりなりにも謎解き要素ありのSF、小さな引っかかりが伏線となって後半で回収されていくのがこういうSFの醍醐味だと思うわけで、そこに凝らなかったらいったい何に凝るんだ…と思ったが答えは映画の中にあり、何にも凝ってなかったんであった。
もっとも手軽に映画の売りになりそうな俳優陣さえ葬式みたいなツラで終始無味乾燥な説明台詞をつぶやき続けるだけで誰一人として魅力的に撮られていないのだから凝ってるとか凝ってないとかそういうレベルではない。

ここまで来ると映画を面白くしようとする熱意どころかむしろ映画への憎悪すら感じてしまうのでちょっともうわけがわからない。
津野さんとの同棲生活がまがいものであったことを知った崇史くんが怒り狂って家に置いてある二人の想い出写真をガラガラガッシャンとやっていく場面がある。その数時間後、津野さんは一人で割れた写真立てを片付けていくがそのとき、素手。ゴミ袋をちゃんと傍らに用意してるぐらいには冷静なのに素手で写真立ての破片拾ってくんです。やらないよそんなの。怪我するもん。

崇史くんが世界Bが世界Aの過去の出来事だと確信を得たのは二年ぐらい前に津野さんと三輪と三人で飯を食いに行った時にレストランで撮られた写真を見たときだった。(記憶書き換えによって)崇史くんの脳内では津野さんと自分の二人しか写っていないはずのその写真にはしかし、しっかり三人写っていたのだ。
その写真はどこにあるかというとレストランのお客さん想い出ボード的なところに普通に貼ってあった。開始20分ぐらいで崇史くんはその店のことを夢に見ていたのでだったら世界Aに疑念が芽生えた段階でさっさと確認しに行けよなんでそこ終盤まで引っ張ってんだよ。

なんかあるだろSFとしてっていうか映画として一工夫、確認しにいったらそこに写真はなくてオーナーの記憶は曖昧でみたいなそういう歯痒いミステリー展開、そういう手の内を見せないサスペンス演出…本当そういうちょっとの手間とツイストをどこまでも省くなこの映画は。お前(誰?)絶対部屋汚ないだろ。
仮にSF要素を度外視するとしても崇史くんと三輪の友情がいかほどのものか描かれていないので三角関係ものとしての基礎が崩壊しているし、二人の間で揺れる津野さんの心理描写もゼロに近いので恋愛映画にもなってない。緊張感を高める目的か必要最低限の効果音が入る以外は八割方無音楽を貫くサントラは、ただ眠気を催すだけだ。

もうこんなのばっかで…まぁそれだけならどこまでも安易なつまらない映画で済むが、つまらないにプラスして不快というのが逆に関心すらしてしまったところで、津野さんへの想いを一方的に募らせて指輪を渡すも拒否られる、「三輪とはもう寝たの?」と真顔で絡んでくるなど軽度ストーカー化した崇史くんがついに一線を踏み越えて津野さんの家に押し入り全身で抵抗する津野さんを強姦すると津野さんも崇史くんが好きになってしまうというまさかのポルノ映画展開!

一応、後付け的に電車で目にした時から津野さんも崇史くんが好きだったというエクスキューズはあるが、まぁじかと。マジでそれで行けると思ったのかと、2019年の映画で。しかもその後は津野さん、会社の命令で模造記憶を植え付けられた崇史くんと強制同棲させられるわけだから不憫にも程があるしじゃあその不憫を不憫としてクローズアップするかと思いきやそうではないし、かといってロマンポルノ作家がやるみたいに倫理を超えた性愛の不可思議の肯定に話を持っていくわけでもなく、ふたりの関係を知った三輪がすべてを忘れようと極秘研究のはずの記憶書き換えマシーンを崇史くんに操作させて津野さんと親友・崇史が付き合っている設定の模造記憶を植え付けてくれるよう頼みこれを受理する崇史くんであったが(そのために崇史くんは自分も記憶書き換えマシーンを使って三輪史観を植え付けたのだ)、実は三輪の真の望みはその時になって初めて出てきて詳細の説明されない「スリープ状態」に記憶書き換えマシーンを使って入るためであり、記憶書き換えマシーンでの人体実験によっていつの間にかスリープ状態に入って元に戻れなくなってしまったモブ研究員を救うべく、自ら編み出したスリープ解除法を自身で実験しようとしていたのであった…って全然意味がわからないよ! 何を書いているのかもうわからないよ! あと津野さんの強姦被害とかプライベート及び人権完全剥奪(この会社は二人の生活を盗聴していたのだ!)なブラック労働は結局うやむやになりました!

すげぇわ。すげぇっす。ごめんつまらないとか書きましたが振り返ってみたら超おもしろかったです。カルトだ。カルト映画だ。これ三池の方の崇史が監督してたらタランティーノ絶賛な怪傑作になってたな。こんな秘宝がたまに埋もれているから邦画恋愛映画を見るのはやめられませんね。助けてくれ。

【ママー!これ買ってー!】


トータル・リコール [Blu-ray]

強姦するのがシュワルツェネッガーだったらシャレになってなかったから主演が玉森裕太でよかったよ。どっちでもシャレになって、ない!

↓原作


パラレルワールド・ラブストーリー (講談社文庫)

Subscribe
Notify of
guest

0 Comments
Inline Feedbacks
View all comments