《推定睡眠時間:15分》
オリジナル版アニメも劇団四季も見たことがなかったので俺の嫌いな方のディズニーしか存在しないパーフェクトワールドっぷりに驚いてしまった。こんな偽善的で時代錯誤で間接的ゴッドブレスアメリカなシロモノだったのか『ライオンキング』。ハイパーフォトリアルな3DCGはリアルすぎて逆になんの驚きもないがそこに驚く。
寝ている15分によいところが凝縮されていたかもしれないが基本的にすべてが嫌な映画だった。まずなにが嫌ってアアアァァエェンヤァァァァみたいな例の歌で幕を開ける冒頭のサバンナ景が嫌だったので嫌が早い、なんかサバンナに暮らす色んなどうぶつたちの一日の始まりが描かれるのですが本当に嫌でしたよ、3DCGで人間に都合の良いように作られた生気の無いどうぶつたちの生活を見るの。なにもおもしろくない。
その歌は生命の循環がどうのと歌っているのでサバンナのどうぶつたちはこうして共生しているのである的なことが言いたいらしいが、そういうのは偶然に支配されて食って食われて死んで殺してしかし不思議と調和してみたいな自然の峻厳に対して言われることであって、人間が作り上げた理想的な自然風景に対して言ったりしてはいけないですよ。そんなの自然じゃなくて千年王国じゃないですか。こういうことを恥ずかしげもなくやってるからアメリカは野蛮なんだよ。
ともかくこうして映画は始まる。次の場面はサバンナを統治しているライオン族の王と王妃がサバンナを見下ろす高台で頭をすりすりっとどうぶつ愛情スキンシップ、どうやら子供が生まれたらしい。子供生まれたから昂ぶってきちゃって頭すりすりするわけですね。
もう根本的な話になってしまうのだが人間の感覚でどうぶつの営みを解釈するなよと思ってしまう。なにが頭すりすりよ、なによその擬人化表現。そら別にライオン夫婦も頭すりすりするかもしれませんけどこういう風にはやらないだろう、子供の誕生を祝福してのハグ的な感じでは。
なにがライオンキングだっつーの。ライオンがサバンナの王とか安直な発想にも程があるだろう。だいたいこいつら高台に寝そべってるだけで統治なんてろくにしてないじゃないですか。民はどうなのよ民は。民の信認は得ているのかねこの王は。世襲制の絶対王政だから別に民意なんかどうでもいいのかもしれないがそんな時代錯誤な話を美談みたいに語るなよ。
それにこいつ王のくせに器が小っちゃいんですよ。自分で勝手に跡継ぎに決めた息子ライオン・シンバのお披露目式(さっきの高台の場面がそうだった)に来なかったからって洞穴にこもってる陰気でずる賢い弟を責めるんですけどそれぐらい自由にさせろ。息子のお披露目式に来なかっただけで王直々にクレームを言いに来るとかなんて息苦しい王国なんだ。そら弟もグレるわ。早く滅びろ。
ここまでお話の展開に沿って不満を書いてますけどまだ開始10分も経ってないからなこの不満量で。たった10分でこんなお話が超絶ウケてディズニーアニメの超絶クラシックになって劇団四季の超絶ロングランになる世の中まで嫌になってくるから破壊力がすごい。それが良いことか悪いことかは不問とするがすごいことはすごいことだ。すごい。とりあえず褒めたから後はずっと悪口になります。
その陰気な弟のキャラの見せ方も甚だ不愉快でこいつは初登場シーンでかわいらしいカヤネズミを食おうとするんですがその時のBGMがいかにもな悪役BGM、なんで肉食の野生動物がカヤネズミ食おうとしただけでそんなに悪く描かれないといけないんだと思うし、一方で王の方はガゼルかなんか食って「それが生命の環だ」とかテメェ都合で肯定するんだからご都合主義も大概にしろ。カヤネズミはかわいいから食べてはいけないが王とシンバだったらカッコイイから何食ってもイケメン無罪か。腹が立つ。
王座を狙う王の弟の策謀によって王は死に王子シンバはライオンキングダムから追放されてしまった。それを助けたのがイボイノシシとミーアキャットの仲良しコンビ、二人はシンバを草食動物たちの暮らす楽園ジャングルに迎え入れてシンバを昆虫主食のヴィーガン系ライオンに育て上げる。
お前らをどうぶつをなんだと思っているんだ。どうぶつには食えるものと食えないものがあるんだぞ。主食に適した身体構造になっているし持ってる消化酵素だって違う。人間だったら足りてない栄養素はサプリメントで補えばいいが成体ライオンが昆虫食と植物食だけで生きようとしたらエリアの生態系が崩れてしまうし身体的にも限界あるだろ。
野性のパンダが笹を食うのは笹が好きで食ってるんじゃなくて笹食って生きる身体構造になってるから食ってんだからな。どうぶつの食物チョイスには身体的理由があるんだ。自分が食ってうまかったからって飼い犬にチョコレート食わせる飼い主はいないだろうが。いたら謹んでくださいね!
だいたい哺乳類は喋るし鳥類も喋って人権も知性もある世界なのに昆虫は一切の人権も知性もなくバクバク食われてもなんも問題なしとするのは筋が通ってないですよ。酷いんだからシンバなんて、イボイノシシ&ミーアキャットと一緒に遊びでシロアリの蟻塚ぶっ壊したりして。あんなもんシロアリからしたら『インデペンデンス・デイ』ですよ。スピルバーグの『宇宙戦争』に匹敵するシロアリ的大惨事じゃないですか。
無邪気にそんな蛮行ができるんだからやっぱ王ってのはろくなものじゃないですよ。王に仕える道化ポジションの執事鳥に王とシンバがふざけて飛びかかる場面がありましたけど全然シャレになってないよね。お前自分の社会的ポジション考えろよって思ったよ。メキシコ移民の労働者を皿洗いで雇ってるレストランチェーンの社長がいきなり恐い顔でお前は不法移民だな! 解雇する! とかお戯れに言ったら移民労働者顔面蒼白だろうが。ごめんごめんじゃないんだよこっちはギリギリの生活してるんだからジョークで済まないんだよ謝るんだったら給料上げて永住権よこせよ! 何の話だ。
すっかりヴィーガンライオンになったシンバは王から聞かされた「生命の環」なんて糞食らえさとイボイノコンビに教えられる。生命の環なんてないんだ! あるのは生命の直線のみ! 自分の生きたいように生きればいいじゃないか!
ごもっともであるがあまりにも露骨な個人の意志と多様性を尊重してますよ~ポーズが気に食わないことこの上ない。こんなもの個人の意志ではなく神のさだめに従って生きよの一神教的人生観にとりあえずの現代的エクスキューズというか逃げ場を突貫工事で付け足しただけだろう。
凶悪ハイエナ軍団と手を組んだ王の弟(王は死んだので今はそいつが王になった)がライオンキングダムに悪政をしいて大変だと幼馴染みにして許嫁のメスライオンから聞かされたシンバはキングダムに生命の環を取り戻すべく、ノンポリのヴィーガンライオンではなく王としての自分に目覚めてキングダムに帰還、王座を巡って悪王に戦いを挑むのだから結局自分らしくなんて生きられないし、勝つのは神の作り上げた「生命の環」なんである。シンバが王としての自分に目覚めるのはシャーマントヒヒのまじないによって天から降ってきた亡父の声を聞くという神のお告げ的な神秘体験によって、なのだった。
ハイエナが平和なキングダムの外に棲まう邪悪な悪どうぶつとして描かれているのも気に食わない。生命の環だ生命の環だと言うんならハイエナとライオンの共生関係こそ描くべきじゃないのか。そもそも醜いから悪いっていう発想がバカで野蛮なんですよ。野性どうぶつの世界に綺麗も醜いもあるかよ。お前らフラミンゴがピンクなのは綺麗になりたいからだとでも思っているのか。このあいだのニュートン読んだらフラミンゴがピンクなのは普段食ってる藻の色素でああなってるんだって書いてあったぞ! つくづくこのサバンナはどうぶつ観察の役に立たない。
寓話だろうがバカはお前だよバカって思われる方もいらっしゃるかもしれませんがー、これを部族神話的な寓話だとするとアメリカ人はアフリカをこんなもんでしょ的に見ていることになって暗黒大陸蔑視と植民地主義臭がハンパねぇことになってしまうがいいのかそれで。あるいは西欧キリスト教文化の伝統的物語をサバンナに移植してアフリカの物語と偽装してキリスト教の物語を語るような形になってしまうがいいのかそれで。まぁそれでいいとみんな思っているからディズニーアニメのクラシックなのでしょうが…!
などと考えているうちに映画も終盤、悪王&ハイエナ軍団とシンバ&善良ライオン軍団のシンバが勝つに決まっている戦いが始まるが、基本的に他のどうぶつは不在なので偉いどうぶつたちが権力を巡ってまたなんかやってらぁと白い目で見てしまう。サバンナの主役はライオンという基本設定にまず乗れてないのでそれはもう白い。目が『ビヨンド』みたいになってしまう。
っていうか場を盛り上げるサバンナ民衆も不在のまま高台でライオンとハイエナが戦ってんの見ても面白くないだろう。芸がないんですよああいう肉食獣は。死ぬほど屁が臭いっていうイボイノシシが俺も戦うぞぉぉぉって入ってきたから屁を武器に戦うのかと思ったら普通に突進してんじゃん。なんなの。自分からネタを振っておいてスカすなよ。これがスカしっ屁か。
キリンとか参戦させりゃよかったのに。キリン、あの長い首をこうムチみたいにしならせてバチコーンと喧嘩相手に頭突きするんです。去年やった『アース:アメイジング・デイ』で見てびっくりした。
居てほしかったなぁキリン。キリンが高台のライオンバトルを眺めていてさ、戦いが見えない体高の低いどうぶつがその首をよじ登ってって観戦するみたいなシーンをちょこっと間に挟むだけでもだいぶ違ったのに。なんていうか、そういうところが圧倒的に足りない映画だと思ったな。
結局プリミティブな権力闘争の話でしかないからハイエナのせいで餌がなくなってライオンキングダム存亡の危機とか言われてもだからってなるしね。崩壊したらいいじゃない。食えなくなったら大抵のどうぶつは亡命するでしょ。ハイエナは別に生息どうぶつを封じ込めてるわけじゃないんだから移動すればいいんですよ。それこそ自然の摂理、生命の環じゃないですか。っていうかキングダムを築くことのメリットがまずサバンナどうぶつにはないだろ。
なんでこんなのが人気なのか全然わからん。人気があってもいいけど人気の理由は全然わからん。アフリカンなテーマ曲が良いってんならディープ・フォレストとかデッド・カン・ダンスみたいなワールド・ミュージック系バンドでも聴きゃいいんじゃないの。全然わからんわ。でも朝日を浴びるキリンの表皮の光沢表現は素晴らしかったんんでそこだけはよろしく(あとハイエナの下っ端コンビもよかったです。悪王にも悪の艶があってよかったので意外とあった良いところ)
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どうぶつ映画は実写にかぎる。
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内容は子供向けハムレットなので普通に王道だと思いますが、動物映画だと思って観るとつらいかもしれませんね。
人間に都合良い動物も、デフォルメされているアニメーションだと生き生きとしていて魅力的なんですけどね。
あ、なるほど動物版ハムレットなんですね…シェイクスピアに触れた経験がほとんどないので気付きませんでした…。
リアルな3DCGで観たのでこんな感想になってますけど、仰るようにたぶんセルアニメで観ていたら動物映画的には受け止めていないので、題材と3DCGの相性が悪かったのかなあと思います。今度オリジナル版も観てみます。
たしかに、リアル寄りな描写と相性が悪いんでしょうね。エンタメ性が薄まっていると感じました。ただ、赤ちゃんライオンはもふもふでアニメ以上に可愛かったです。
ヴィランに魅力を感じられたようですから尚更オリジナル版をおすすめします!
ストーリーはほぼ同じで、生まれながらの王様万歳!ハイエナは悪!メスは従うのみ!他はモブ!って感じなので好き嫌いあるかもしれませんが、
スカーの色気やハイエナ軍団のやんちゃなおバカ感(今のディズニーではアウトなのか実写版では改変されてました。)などワルっぷりが最高です。興味があれば画像検索だけでもしてみて下さい。
え、悪役のワルっぷりが削られてるんすかこれ…それ全然ダメじゃないですか、そこが面白かったのに…ハイエナは悪でも別にいいんですけど悪なら悪でカッコよく悪くあって欲しかったです。最近のディズニー映画は作中に明確な悪とか魅力的な悪を作らない傾向にあるようなので、そのへんも影響してるのかもしれないすね。
あー、ワルっぷりが削られたというか、表情が乏しくてコミカルさとか愛嬌が無くなったって感じです。
改変は、喋らないで舌を出して笑ってる目の焦点が合ってないハイエナがいてキモ可愛かったんですが、障害者っぽいからか、新しいキャラになってました。書き方が悪くてすみません!実写版のもかっこいいと思います。
それは改変されても仕方が無いっすね笑
余計アニメの方が観たくなりました。
素敵な感想!映画愛に溢れている!
どうもありがとうございます(困惑)
ライオンが虫食べるって聞いて偽善クソ映画だろうなっとアニメ版も観たことなかったのですが、解説いただき笑い過ぎてお腹痛かったです!また ブログ主さまの嫌悪を感じながらもフェアに評価しよう、いやでも違うだろ、そこっというような優しさと動物や人権→人じゃないけど、に対する熱い信念が伝わってきて、いい人だなあとしみじみ感激しました。
いつも的確な目線の映画評と製作者側のへの愛を感じる面白いコメントすっごい好きです!
これからも素敵な情報配信してくださいませ。
悪口を垂れ流しただけなのに色々忖度してくれてありがとうございます!
この映画アニメ版も最新作のcg版もめちゃくちゃ面白かったです!!やっぱりシンバの子供時代はめちゃくちゃかわいい。ディズニーはサイコーや。
ぼくはCG版はダメでしたけど後からオリジナル版見たら超おもしろかったです。
ふふ