暑さにやられて信じられない睡眠時間を叩き出してしまった。しかも2本。本当はもう2本ぐらいあるがとりあえず2本。トータルで10分とか20分とかしか観てないので感想もなにもまず画面を観られていないがそんな映画体験こそ逆に感想を書かなければの謎の自虐的使命感が湧いてしまったので…。
『世界の涯ての鼓動』
《推定睡眠時間:70分》
アリシア・ヴィキャンデル整いすぎだろう。アンドロイドに見えてしまった。世の中には綺麗な人もいるもんだ。それぐらいしか言えることがない。
ヴィム・ヴェンダースの最新作は世界のあっちとこっちに引き裂かれたカップルというか海辺のホテルで5日間だけ人生を共にした男女、海洋数理学者(でしたっけ?)アリシア・ヴィキャンデルと英国スパイのジェームズ・マカヴォイがそれぞれの任地で生命の危機に陥ってお互いを想う、どこまでも続く海を媒介に通じ合って救われるみたいな映画。
なんだったんだろうか。たくさん寝ると映画はよくわからくなるということだけはわかったが他はなんかよくわからん映画だった。とくになんでこれを撮ろうと思ったのかがわからないがそこらへんは寝ないで観てもたぶんわからないだろう。動機がわからない映画というのはある。巨匠になると映画監督は動機がよくわからない映画を撮りがち。
ヴェンダースの前の前の映画『誰のせいでもない』もそれなりに寝ているがそっちは結構面白かったので、無駄にかっこいい邦題の『世界の涯ての鼓動』は原題『SUBMERGENCE』、潜水という意味だそうであるから一時的にヴェンダースが潜水した映画だったのかもしれない。
わかったように書いているがそもそもヴェンダースの映画でストレートに面白いと思ったものは『まわり道』一本しかない。ヴェンダースの映画で寝なかったことはないので『まわり道』もしっかり眠っているが、覚醒した時のここどこだろう感がさすらいロードムービーとしての映画とうまくマッチしてたいへんよろしかった記憶がある。人をどこかへ連れて行くのがヴェンダースの映画だから夢の世界に連れて行かれるのもそれはそれで正しい鑑賞法だろう。正しい鑑賞法とは? 脱線、脱線。
あと何を観たかなぁ『世界の涯ての鼓動』。30分ぐらいしか観ていないということは逆にその30分は印象に残るかと思いきや、とくに、思う、こともなく。アリシア・ヴィキャンデルが綺麗。とにかく綺麗。海辺のホテルはそれなりに趣がある。ソマリアで武装勢力に捕まったジェームズ・マカヴォイが監禁部屋の穴から手だけ出して子供の施しを受けるのはおもしろい光景。それぐらいすかねぇ。
良い睡眠ができる映画でもなく。起きていて面白そうな感じでもあんまなく。海の神秘性を推してるわりに海中の映像も別に…いやそこは起きていればきっと! きっと美しいショットがあったに違いないのだが! やっと覚醒してちゃんと観ていたラスト15分ぐらい、とくにピンとくるところがなかったので…。
『トム・オブ・フィンランド』
《推定睡眠時間:90分》
何をしに映画館に行っているんだと思う。さすがに引くわ。自分で自分に引く。寝過ぎ。いやすさまじい眠りだったなぁ、予告編を見ると戦争の場面があるっぽいので睡眠中に爆発音が聞こえたんですが、いつもはだいたい大きな音がすれば目が覚める、ところがこの時は爆発音をもってしても音は認識するものの覚醒に至らずという深睡眠っぷり。いったいなにがあったんだ。
過ぎたことは仕方がないので予告編に毛が生えたような観賞時間にネットで検索した情報を付け足して感想を取りだしてみる。『トム・オブ・フィンランド』というのはレイザーラモンHG的な黒レザーに身を包んだゲイの絵で有名なトウコ・ラークソネンというフィンランドのゲイ・アーティストの人のことらしい。映画の最後にアメリカのゲイ・フェスティバル的なやつに招かれてハードな男たちをバックに一言挨拶する場面があり(ほとんどそこしか記憶にない)、この人のゲイ絵はアメリカン・ゲイに大きなインパクトを与えたという。
レイザーラモン的な絵を描くといっても本人はフォー的な感じではなくむしろ口数少なくとてもおとなしい人。少なくとも観測範囲ではという話ですがとにかく黙々と絵を描いている姿しか記憶にない。なんとなく田亀源五郎のようであるがやはりというか田亀源五郎も影響を受けているそうで、オフィシャルな形でトウコを日本に紹介したのは自分が最初かもしれないと本人のツイッター談。ちなみに見た目はジョン・ウォーターズにちょっと似ているのが面白い。
なるほどねぇ、ゲイ・アートの先駆者なんだ。それは普通に寝ないで映画を観ていればわかることだと思うがそれさえ困難な睡眠観賞である。だったら観に行かなければいいのではと思われるかもしれないが好きだから観に行ってるんじゃないんだよこっちは! 面白いとか面白くないとかじゃないんだ! そこしか行き場がないから行ってるの! 何時間でも居られて自由に眠ったりタバコ吸ったり外で買ってきたコンビニ飯を食べたりできるやさしい名画座なんてどこも潰れちゃったんだから! 新橋文化とか浅草3館とか!
そここそが本当の自分の居場所だと思える場所が俺には映画館の他にはないんだ。トウコのレザー絵に感化されたアメリカン・ゲイたちもきっとこういう気持ちだったんじゃないかなと(その接続はいくらなんでも無理があるだろう…)の心の声を押し殺しながら断言して感想を終えたい。あ映画はですね、たぶん面白いと思います。
【ママー!これ買ってー!】
なんでもかんでもスタンフォード式を付ければいいってもんじゃないだろ! いいかげんにしろ!