旅芸人万歳映画『ダンスウィズミー』感想文(ネタバレたぶんなし)

《推定睡眠時間:0分》

映画はどこに感動ポイントが潜んでいるかわからないのでぼくの場合はこの前カナザワ映画祭in東京で観たヌード映画『死霊の盆踊り』となにか繋がってしまってその思いもよらぬ作品の共鳴っぷりにグっときてしまった。
インチキ催眠術師のせいで音楽が聞こえると歌って踊らずにはいられない体質になってしまった会社員の女が催眠を解くために奔走する映画が『ダンスウィズミー』ですが、カップルが夜の墓場を覗いてみるとそこにはなにやら音楽が流れており運動会ではなくオッパイ丸出しの女たちのダンス大会が! というのが『死霊の盆踊り』。

共鳴しねぇよと思われるかもしれませんがいやするんです。するんです! 『死霊の盆踊り』のヌードダンサーはスナックの酔っ払いみたいな死霊の王が言うには既に死んだ人、酷い死に方をしたり悪事を成して死んだりしたので死霊となって死霊の王が音楽を鳴らすとストリップせずにはいられない体質になってしまったのだ! これは極めてものすごくたいへん大雑把に言って『ダンスウィズミー』と同じストーリーと言っていいだろう。いいわけがない。

だがそれでも重なってしまったのだから仕方が無い。結局どっちも芸を見せる映画、芸人賛歌の映画ということで琴線をボロンと鳴らすところがやはりちょっと共通したんである。
むかしビデオで観たときは気付かなかったが『死霊の盆踊り』のオープニング・クレジットは主演俳優とか製作者なんか差し置いてダンサーたちの名前が筆頭に来る。オッパイを見せるための映画なんだから当たり前なのかもしれないがへぇぇってなりましたよ今回映画館で観て。つまりこの映画の主役はあくまでダンサーで、ダンサーの芸(とオッパイ)を讃える見世物映画だったのだ。

そのダンスはあくまで俺からしたらではあるが別にめちゃくちゃ上手いとかそういうわけではない。ゾンビダンスのダンサーとか意味不明だし大体あれ踊ってないだろ金返せよと思うが、でも出演ダンサー(※何人かはダンサーじゃなくて食えない女優なのかもしれない)全員プロとしてどこか誇らしげに踊ってるんすよね。これが私なんださぁ存分に見てくれと言わんばかりに胸を出していや胸を張って持ち芸を披露して、撮影スタッフも最大限それを魅力的に捉えようとしてる。だからついダンスと踊りに見入ってしまう。

そこが『ダンスウィズミー』と相通ずるところで…主人公の三吉彩花も踊る場面ではちゃんと踊るんですけど超絶上手いわけではない。でも上手くなくていいんですよね。優れた芸は確かに感動を呼ぶけれども芸の素晴らしさは巧拙では語れないんだと思いましたよ。それがどんなに拙いものであっても自分のために観客のために本気で芸に取り組んでいると観客に感じられる時にそこには巧さとは別の感動が宿ったりして、芸の本質というのはむしろその芸人と観客の共同幻想にあるんじゃないかと思わせてくれるのが『ダンスウィズミー』で、『死霊の盆踊り』だったわけです。

『死霊の盆踊り』の話はもういいとして『ダンスウィズミー』の話。その自分のため観客のためにステージの上で本気で芸に取り組むということが物語のテーマにもなっていてそこらへんよくできた映画だった。
主演は踊らずにはいられない三吉彩花ですけどこれ主役はその催眠をかけたインチキ催眠術師の宝田明ですよね。マーチン上田改めコーチン名古屋こと宝田明がステージの上で高らかに持ち歌を歌い出す瞬間、あわや涙腺決壊。

それはインチキ催眠術師がステージの上で本物の催眠術師に成ることの感動でもあるし、その変化は決して芸人単独ではできなくて観客や時にはサクラも含めた場の力がそうさせるということ、大衆芸能の中でアウラが生じる瞬間に画面の中の出来事とはいえ立ち会えたことの感動でもある。

現代の大衆芸能は、と一括りにはできないでしょうがこうした在り方は今では基本的に失われてしまったのだと思う。ファンが偶像を作り上げていくグループアイドルはその貴重な生き残りかもしれないけれども、それさえAKBの総選挙や握手会が象徴するようにすっかりシステム化されてしまって、「応援される」という立場を演じる演者と「応援する」という行為を消費する観客が場を共有するのではなく分有しているだけだと俺には思える。現代のアイドルは『死霊の盆踊り』のヌードダンサーとは似て非なる存在なのである。まず、似ていないが。

宝田明のマーチン上田はそんな世界では生きられない人。芸は古いし子供騙し。だから借金取りから逃げながら地方巡業で糊口をしのいでいる。
マーチン上田もかつてはスタァであった。おそらく第一次オカルトブームの頃に超能力者枠でテレビに出まくっていたマーチンのことを覚えている人もまだ地方に行けばたくさんいる。ベンチャーズが毎年日本巡業に来るが如くマーチンもその人々の懐古をアテに地方を巡って、実際マーチンのステージはいつもキャパ相応に客でいっぱいになるのだった。で、アウラの生起、芸人の奇跡はそんなところでこそ起こるんである。

また話が飛んでしまうがそれで思い出したのは以前、名画座に行ったら上映後に川津祐介のトークショーが付いてきた時のことで、世代じゃないし川津祐介そんな知らんのでふーんぐらいな感じで眺めていたら質疑応答のコーナーでオバサンというかババァさんがマイクを独占、何を質問するでもなく延々と若かった頃の自分がどれだけスクリーンの中の川津祐介に憧れていたか語り出す。

なんやこいつ痛いヤツだなとは思ったがでも同時に、これがスタァなんだなぁと妙に沁みてしまった。あの川津祐介ファンの人はその熱のこもった長広舌で俺にとっては普通のオッサンでしかなかった川津祐介を、俺の目にもなんとなくスタァに見えるようにしたわけである。これもまたささやかな奇跡、ステージの共同幻想だろう。

『ダンスウィズミー』に話を戻すと芸人賛歌の映画らしく本業役者ではない人の出演多数。三吉彩花が宝田明を探して共に旅するのはお笑い芸人のやしろ優だし二人が旅の途中で出会う危ない目つきのストリートミュージシャンはシンガーソングライターのChay、ドゥンドゥン的な重低音を鳴らしがちなヤンキー車で煽ってくる(タイムリーだ)怖い人もたぶんラップとかストリートダンスやってる人だろう、だいたい主演の三吉彩花からして元アイドルであった。

ぶっちゃけ全員知らないがでもその芸は堪能。そっすよねぇ、ミュージカルって芸人の芸を観る映画っすよねぇ。探偵役のムロツヨシは面白いしそして最後は宝田明オンステージというわけで眼福眼福、こういう芸を楽しむ見世物映画というのは邦画でまず見ないしわりと世界的にも絶滅危惧種っぽいので得した気分、なにより『死霊の盆踊り』効果もあって芸人っていいなぁのしあわせ感に浸れてたいへんよかった。

ただそこは現代映画なので芸だけで2時間持たせられるわけもなくロードムービー+自分探しの物語が次第に前面にせり出してくる。そのシナリオは波瀾万丈でディティールにはやたらと凝って面白かったがでもなぁ、俺もっと芸の方を観たかったんすよねぇ…とはちょっと思ってしまう。
とくに物語の中盤はその芸が三吉彩花とやしろ優を危機から救うという場面が何度も出てくるのでそこはもっとじっくり芸を観たかった。結構、このへんパッパと次のシーンに行ってしまってちゃんとしたミュージカルシーンはやってくれない。それなりに時間を取ってミュージカルシーンをやってくれるのは序盤とラストだけだった。

矢口史靖はアメリカ映画が好きな監督だからアメリカ映画の十八番的なミュージカルとロードムービーをどっちもやちゃおうぜみたいな感じだったんだろうな。なかなか上手いこと融合してたように思いますよミュージカルとロードムービー。でもロードムービーをちゃんとやろうとしたらミュージカルとしてハネるシーンとかナンバーがあんまなくなっちゃった。
面白いけど結局ミュージカルシーンでテンションが上がるのは宝田明が歌うオープニングとラストとあと最初に三吉彩花が踊り出す場面ぐらいというのはちょっと寂しい気もした『ダンスウィズミー』なのだった。

その寂しさが宝田明のうらぶれ感に厚みを出してラストの宝田明オンステージの盛り上がりに一役買っているとも言えなくもないけれど。

【ママー!これ買ってー!】


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このDVDではスタンダードサイズ収録ですが本来の『死霊の盆踊り』は横長のアメリカンビスタ、なんと近くアメリカンビスタ収録の完全版ソフトが出るそうなので心して待とう。

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よーく
よーく
2019年8月23日 1:39 AM

あぁー! 旅芸人映画か! なるほどその視点で観れば色々と腑に落ちます。いや、俺もラストの宝田明が歌いだすところは落涙こそしなかったものの謎の感動がこみ上げてきて目頭熱くなったんですよ。
物語的には三吉彩花がメインではあるもののテーマ的には宝田明だよなぁと思っていたのですが、そうか芸人賛歌という観方をすればよかったのか。納得納得。『死霊の盆踊り』は10代の頃にビデオで観たっきりなのでほぼ忘れてますが、あれが未だにカルト映画として語り継がれるのはただ単につまらないだけじゃなくて受け手側の視聴環境(体調や精神状態など)によっては何かクるものがある作品だからなのでしょう。そこから舞台芸的な性質を読み取るのは素晴らしい審美眼だと思います。そのまま本作に繋げるアクロバティックさ、いいですね。皮肉でなく。
本作は個人的にロードムービー部分の方が面白かったと思ったけれどそこは時間を置いて思い直すと逆に中盤のミュージカルシーンが食い足りないから相対的にそう思えたのかなとも思います。ぽんこつコンビの貧乏旅は面白いけどミュージカルと両立してたかというと、う~ん、となりますね。まぁ面白かったんですけど。