《推定ながら見時間:全エピソード合計50分》
前のはこっち→【ネッフリ】『マインドハンター(シーズン1)』の感想
ネタバレってちゃんと書いたから一行目からネタバレしますが(引き返すなら今だぞ!)フィルマークスの感想読んでたらネタバレ警告もなにもなく各エピソードの最初に出てくるカンザスの人の正体はエピソード2~3でテンチ特別捜査官が追ってたシリアルキラーBTKだって書いてありました。BTKだったみたいですあの人。マジで。
全エピソード観ても全然気付かなかった鈍感人間のくせに人の言うことだけはやたら疑ってかかる猜疑心の塊なので各エピソードの最初だけ見直してみる。うーん、これは確かにBTK。
エピソード6の冒頭、カンザスの人は足繁く通っている図書館で何かをコピーしているが、一瞬だけ画面に映るその断片に描かれているのはBTKのトレードマーク。エピソード3でカンザスの人が図書館で描いている拘束された女の絵はエピソード2でBTKの手がかりとしてホワイトボードに貼られていたものだ。
BTKは劇場型シリアルキラーなのでトレードマーク付きの犯行声明文を警察に送りつけたりしていたのだった(その犯行声明文に使われたコピー機を特定できないか、という会話をエピソード2でテンチと現地の刑事が交わしている)
ダメ押しはラストのエピソード9だ。1977年に殺害されたナンシー・フォックスとシャーリー・ヴィアンのネックレスや運転免許証をズリネタにカンザスの人はセルフ首絞めオナニーに耽る。
サディスト型のシリアルキラーは持ち帰った戦利品を眺めたり現場に戻ったりして(殺しの)代替的な性的興奮を得ようとする、という話はシーズン2で何度も出てくるし、だいたいネックレスはともかく運転免許証は犯人でなければ手に入れようがない。BTKである。
そうか、カンザスの人はシリアルキラーだったか…この人はシーズン1からのレギュラーキャラですが、シーズン1ではBTKの話題は出てこないので女殺しを妄想するだけで実行には移せないシリアルキラー予備軍のしょぼい哀しいオッサンだと思っていたら、どっこいその時点でもう6人ぐらい殺していたのだった。
それにしてもエピソード6の行動科学課の会議シーンでホールデンが口走った「S&Mは…」を課の要らない子扱いされているスミスさんが「SMです」と訂正したりするのだから伏線が細かすぎる。サドとマゾは表裏一体の概念。カンザスの人のマゾヒスティックなセルフ首絞めオナニーは彼のサディスティックな殺しの再演であることをこんなところで仄めかしているわけだ。スミスさんやるじゃん。頑張れ。たとえ使えないヤツだとしても俺は応援してるからな。
シーズン1が配信されたのは2017年10月(そんなに前だったか…)なので細かい部分は覚えてない。ということでこちらもカンザスの人パートだけ見直してみたらゾっとしてしまった。
あぁなんてこと、シーズン1を観ていた時にはシリアルキラーに成りきれなかった凡人の退屈で惨めな日常を描いているんだろうと思っていたが、違った。名も無きシリアルキラーがBTKに変貌するまでの過程を描いていたのだ。
シーズン1エピソード3、カンザス州パークシティの閑静な住宅街に社用車を停めてどこかの家を眺めていたカンザスの人が車に戻っていく短い場面、犬がわんわんと吠えてカンザスの人はそちらにふっと視線を投げる。シーズン2エピソード2で語られるBTKのファースト殺しはオテロ一家殺しでこの家には犬がいた。犬がいる家は侵入しての殺しには向かない。色々と予想外の出来事に見舞われたオテロ一家殺しでカンザスの人は学んだのだ。だから犬を見た。カンザスの人は次のターゲットを物色していたのだ…(あるいは、前の殺しの現場に戻ってきたのだ。殺しの感触を思い出すために)
シーズン1エピソード4、セキュリティ会社ADTに勤めているカンザスの人は警報を設置しに民家を訪れ、そこで子供のオモチャが床に転がっているのを見る。オテロ一家殺しでは二人の子供も殺したがカンザスの人の標的はあくまでも若い女、子供は趣味じゃないし殺しの邪魔になるだけだ。この家は除外しよう。これもまた次の獲物を物色する場面だったのかもしれないし、あのスマートでない無様な殺しを悔いていたのかもしれない。
シーズン1エピソード5、カンザスの人がポストに手紙を投函する。犯行声明文だろう。しかしこの時点ではまだBTKではない。
シーズン1エピソード6、パークシティの自宅で家族と一緒にテレビを見ながらあやとりのようなヒモ遊びをしているカンザスの人。BTKは絞殺を好んだ。あの味が忘れられない。シーズン1エピソード7、殺しの下準備をするカンザスの人。
シーズン1エピソード8、カイル・クーパーによる『セブン』の名オープニング・タイトルを思わせる場面。何者かの手が本の中に何か語句を見つけては線を引いていく。Deviant(逸脱)、Pyromania(放火魔)、Torture(拷問)。BTKは自らいくつかの通称を犯行声明文で提案した。最終的にそう呼ばれることになったBTKはBind(緊縛)、Torture、Killの略だった。いつもの図書館で三文字のかっこいい厨二略称をあれこれ考えていたんだろう。いよいよカンザスの人がBTKになっていく。
シーズン1エピソード9、殺人衝動を抑えきれずにもだえるBTK。シーズン1エピソード10冒頭、警察署に犯行声明文が届く。同・エンディング、描いた緊縛絵を燃やしていくBTK。あぁ、殺人を断念した場面じゃなかったんだな。証拠を燃やす場面だったんだ。
シーズン1エピソード2、ADTの倉庫でお仕事中のBTKになる前のBTKがその几帳面な性格で同僚を辟易させる。BTKのスタッフロール上の役名は”ADT Serviceman”だが同僚は彼をデニスと呼ぶ。
デニス・レイダー、BTKの本名。なるほど最初から正体を明かしていたわけだ。愕然とするよな。全然気付かなかったもの。「カンザス シリアルキラー デニス」とかで検索すればこのネット時代すぐ出てくるのに全然気付かないでそこらへんの冴えないオッサンだとずっと思っていたよ。
きっとこんな感じなんだろうな、殺人鬼だなんて考えもしないたまに見かける近所の人がシリアルキラーだった時の恐怖。そう考えれば恐ろしくよくできたドラマだ。なにせシーズン2本編の感想に入る前にBTKエピソードの感想だけで視聴者にこれだけ文章書かせますからね…恐ろしいよ!
本編の話。シーズン1はさすがに開幕エピソードから気合いが入っていて檄渋かつゴージャスな映像のオンパレードでしたが、シーズン2はそこらへん控えめでストーリーを見せることを優先。新たに赴任してきた新部長の方針もあって行動科学課が連続殺人事件の捜査に本格投入、基本的に単発(的)エピソードの連なりだったシーズン1と違ってシーズン2の後半5エピソードはアトランタ児童連続殺人事件の解決に向けてホールデンとテンチが奔走する刑事ドラマらしい展開になる。
そっちで忙しい二人に変わってシーズン後半でシリアルキラー・インタビューを敢行するのはカー博士と例の使えないスミスさん。シーズン1の最後らへんではホールデンのやらかしをみんなでもみ消そうとしたのにスミスさんだけ「でも嘘はダメなんじゃないっすか?」みたいな空気の読めなさで内調にチクってしまい課が険悪な空気になったが、そこらへんはみんな大人だからなんとか仲直りしたようである。
メインどころはアトランタ児童連続殺人事件とはいえシリアルキラー・インタビューにも大物が出てきてこちらも見物。“サムの息子”デヴィッド・バーコウィッツの憎めないバカさ(散々殺してますが)、ついに出ましたチャールズ・マンソンのチャーミングなチンピラっぷり(散々殺させてますが)、その空き時間でホールデンとテンチがぶらりと立ち寄るお馴染みエド・ケンパーにはもはや親戚のおじさん的安心感すら漂ってしまい(でも散々殺して死体陵辱してますが)、結構笑える楽しいインタビュー多し。特に7カ国語を操る天才犯罪者と接見するエピソード3は爆笑編だった。