ウィルVSスミス映画『ジェミニマン』感想文(途中からネタバレ含)

《推定睡眠時間:15分》

ファミコンロックマンのボス紹介BGMが否応なしに脳内再生されてしまうタイトルですがフェミコンロックマンの3に出てきたジェミニマンは分身と一緒に仲良くロックマンを殺しにかかってくるのにスミスマンはプライドが高すぎて共闘とかできないのでどちらかと言えばスミスマンのジェミニマンはワイリーステージで戦う偽ロックマン的な感じになってました。

アイ・アム・レジェンド。この世界に、伝説の男は一人だけでいい…だがそのナルシシズムの極点でスミスがウィルしたのは最高な俺のコピーであった。なぜかは知らないが最近凄腕のスナイパーにハマっているスミスが(客ではなくスミスが)『スーサイド・スクワッド』と同じような超絶戦闘力を誇る世界最強スナイパーを演じているが、世界最強のウィル・スミスを倒せる人間といえばウィル・スミスをおいて他にない。

というわけでウィルVSスミスの世界最強決定戦勃発。ウィルが勝ってもスミス、スミスが勝ってもウィル、もはや世界に選択肢はない。進むもスミス、退くもスミスだ。USAは今やUnited Smith of Americaと化した。ここから始まる新世紀スミス。これは、ウィル・スミスのウィル・スミスによるウィル・スミスのための独立宣言。あなたがこの映画に触れたその日がウィル・スミスの『インデペンデンス・デイ』なのだ!

なのだじゃない。しかしそう言いたくなってしまうぐらいにはウィル・スミスな映画ではあった。凄腕の暗殺者にもハマっているが愁いを帯びたスミスというのも『アイ・アム・レジェンド』で爆発的に顕在化したウィル・スミスのやりたい芝居である。『ジェミニマン』ではそろそろリタイアを考えているが腕前が良すぎてみんなから引き留められる中年暗殺者スミスの方で凄腕芝居を、殺しの世界しか知らない自分の生き方に悩むヤング暗殺者スミスの方で憂愁芝居を披露していた。

また必要以上に父子のドラマを演じたがるのもジェイデン・スミスが生まれてからのウィル・スミスである。『ジェミニマン』では中年暗殺者スミスとヤング暗殺者スミスの混乱した対立関係を反抗期のアナロジーとして捉えることでこれもクリアしていた。ふたりのスミスはクローン設定というわけでここにドラマ的な必然性も生まれるわけだ。

超強い男らしい俺を見せたい、でも母性本能をくすぐっちゃう愁いを帯びた俺も見せたい、父子のドラマで人間的な深さと包容力もアピールしたい。以上クライアント・スミスの無理難題をすべてクリアしてしまったのが『ジェミニマン』なのであるというわけでー、この映画がどれだけすごい映画なのか、面白い映画なのか、あるいは無駄な映画なのか、観ていない人にもわかってもらえたのではないかと思う。

はいじゃあ以下ネタバレ入れてきまーす

しかしクローン設定だけでもスミスのナルシシ汁が吹き出しているのに人類で初めてクローンに成功した男/生成させられた男設定までオプションで付けてるんだからもうなんだかキャバクラみたいなえらい持ち上げっぷり。
映画のラストでは第三のスミスまで登場してしまい黒幕のクライヴ・オーウェンが極秘にクローンスミス軍団を作り上げたと衝撃の告白。いったいなぜ?

世界をスミスで埋め尽くすまで止まらないスミスの絶倫ナルシシズムに由来する注文(かどうかは知らない)はともかくシナリオ的にどういうあれなんだそれはと思ったらオーウェン博士曰く超暗殺者のスミスは超強いからそのクローンも超強くてたくさん作ったらスーパー超強いからとのことでしたバカかよいや良い意味でね、良い意味で。でもバカかよ。すごい理屈であった。

オーウェン博士がスミスに「君自身の発言がヒントになったんだ」と語るのは意味深である。もうすこし正確を期して言えばオーウェン博士は最強スミス軍団を作ってじゃんじゃか戦場に送り込めば前線で死ぬのはクローンスミスだけで済むので他の兵士が助かるとかそういう目的でクローンスミス計画を進めており、従ってシリアスにえぐみのある話なのではあるが、その対象がウィル・スミスだからこっちとしては鬼畜にもそれ良いアイディアじゃんとか思ってしまう。

スミス軍団が戦争をやってくれてるおかげで一般人が助かるんだったら将来的にワシントンD.C.にスミス像みたいの建てられて民衆のレジェンドになるだろうからウィンウィンじゃん。っていうか絵的にずるくないそれ、なにクローンスミス軍団って。超おもしろくなっちゃう。

スミスに勝てる人類はスミスしかいないから米軍によるクローンスミスの実戦投入が始まった暁にはロシアとか中国もスパイにクローンスミス技術盗ませて世界中がクローンスミスで溢れかえるんだろうなって想像するとまるで夢のようですね。普通はかわいそうになるところでも特にかわいそうと思わせないウィル・スミスはさすが一流のエンターテイナーだ。

単純平凡なショットの合間に魚眼レンズの珍カットを挟んで異様な緊張感を作り出す冒頭のスーパーロング狙撃アクション、爆走するウィルとスミスをワンカットで追いながら時折ウィルとスミスの主観ショットにシームレスに切り替わるバイクチェイス(ここはスミスのチートな無限ライフっぷりもすごかった)、市街地丸ごと使った超兵士たちと超スミスたちのバトルは案外小規模に収まるもオブジェクト破壊に容赦がなくて爽快感たっぷり、格ゲーの一人プレイで最後のやつを倒したら出てくる裏ボス的な忍者スミスのスーパーランと慣性を利用した空中殺法アクションも見入ってしまう。レーザーマシンガンの大乱射とかバイクの乗り捨てチェンジとか無邪気なガジェットの扱いもついコントローラーを握りたくなってしまうような楽しさ。

たぶんウィル・スミスが『ジョン・ウィック』とか観て俺もこれやりたいし俺ならもっと巧くできるとか想像に過ぎないが言ったんだろう。シューター系ゲーム的なアクションシーンはひじょうによい。スケール的には地味ですがひとたび戦闘が始まるやあり得ないアクロバティックCGアクションの連続で、それをとくにクローズアップすることもなく平然とやっているすっとぼけ感がまた奇妙な味にもなっていた。

結構すっとぼけた映画だったな。頼りになるんだからならないんだか存在意義があるんだかないんだかわからないオモシロ仲間枠のベネディクト・ウォンが呆気なく死んだりして。でスミスもそれをとくに気にしないとか。そういうすっとぼけ感。今時のアクション大作にしてはあまりに素っ気ないオープニングとエンディングもそう。盛り上げようぜ! みたいなところがない。ボンヤリ始まってボンヤリ終わる。意味もなく世界各国のリゾートを巡る映画でもあるがリゾートを巡るだけなので旅行のたのしさも別にないという弛緩っぷり。そのゆるトーンのままスーパーアクションに突入するんだから掴みどころがない、

スミスの戦闘パートナーになるメアリー・エリザベス・ウィンステッドも…個人的にはその普通感がグっとくるポイントではあったが、こういうもっさりしていて芸能的な華がないタイプの人が戦闘パートナーのパターンって珍しくないすか。なんかもっとこう、こういうアクション映画だと戦えそうなタイプの女優さん連れてこないすか。でもそれだと普通の映画になっちゃうからね。そういうことはしない。

Wスミスの所属する合衆国の秘密暗殺組織が演習をしている場面で高校の体育みたいな準備運動をしている短パン女子が背景に映り込んだり、微妙な外し演出とかオフビートなユーモアをあえて狙った形跡もあるのが食えないところ、ウィル・スミスの俺イズムとヒロイズムに抗うかのような監督アン・リーの刻印であった。
振り返ってみればなんとも言えない変な映画だったが、鮮やかな色彩も美しく、面白かったのは間違いない。

追記:
クライヴ・オーウェンの部屋にフランシス・ベーコンの三幅対が飾ってあってなんでだろうと思っていたが、あれはウィル・スミスが三人いること、ウィル・スミスは三人で一人ということを暗示していたのかと急にストンと腑に落ちたので追記しておく。

追記2:
通常のスクリーンで観たのでとくに気にしていなかったがそういえば『ジェミニマン』は4K3Dに加えて120fpsとかいうバカフレームレートで撮影された技術面での大実験映画。2Dで普通に観るとカット繋ぎのリズムやアクションシークエンスがどうにも不自然でそこが面白いところでもあったが、監督のアン・リーはこの4K・3D・120fpsのフォーマット(※つまり超高精細で超秒間の映像情報量が多いので超奥行きと立体感と臨場感がある)での映画鑑賞が現時点で最も理想的な映画体験と語っているらしく、なるほどその技術を見せる映画と考えればシナリオの雑さも含めてこの不自然さも合点がいくところ。120fpsだとこういうすごい映像撮れますよ! っていうのが制作の眼目だったんでしょう。

ということを踏まえた上で映画の内容を再考するとこれが案外ちゃんとしていたというか、4K・3D・120fpsのフォーマットを映画技術革命として、おそらく映画史における重要なフォーマット実験と時代の先駆者たちにオマージュを捧げつつ、その上にこの映画を位置づけようとしているきらいがある。

たとえば冒頭の駅のシーン。プラットホームに置かれたカメラが列車の発車を捉えるが、なぜそんな不要に思える場面から始まるのだろうと思えばこれはリュミエール兄弟の名前とセットで知られる映画の原点的な一本『列車の到着』の次のステージを意図している(ように見える)んである。構図もだいたい同じだし。

リュミエール兄弟がまず映画カメラで何をしたかといえば日常風景を片っ端から撮った。突飛なものを見せるのではなく普段見慣れた風景を生き生きとスクリーンの上で再現するということがリュミエールの映画革命で、それは次第に世界各国にカメラマンを派遣して当地の生活風景を撮るという観光映画の方向にシフトしていく。『ジェミニマン』がとくに意味もなく世界各地を移動するのはこのへんを意識してのことなのではないだろうか。

とすればベーコンの三幅対の引用もウィル・スミスの三位一体とは別の意味が込められているのかもしれない。映画フォーマットの歴史の中には潰えてしまった大きな可能性として映画黎明期の奇才アベル・ガンスが代表作『ナポレオン』で採用したポリビジョンというものがあり、これは三台のカメラで撮影されたそれぞれ別の映像を三台の映写機を用いて三面のスクリーンに投影するまさに動く三幅対なのだった。

ポリヴィジョンは三面それぞれに違う映像を流すが三台の映写機を同期させて横長のスクリーンに一枚の巨大パノラマ映像を投影するのはシネラマというフォーマット。第一次3D映画ブームと時を同じくして登場したシネラマはどう考えても費用対効果が見合わないのでさっさと廃れてしまったが、ベーコンの三幅対にそのオマージュを見出すなら、アン・リーが次に仕掛ける映像革命はポリヴィジョン/シネラマの復活なのかもしれない。

【ママー!これ買ってー!】


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俺イズムの偉大なる先駆者ヴァン・ダムによる俺と俺が戦う映画です。あとほかに三本ぐらいで俺と俺が共演してます。

↓ジェミニマン出演作


ロックマン3

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りゅぬぁってゃ
りゅぬぁってゃ
2019年10月30日 2:32 AM

日本未公開ですが、「映画スターにソックリしか取り柄のない男がスター本人のストーカーになる」って話のサスペンスインド映画がありまして、コレに影響を与えたかな?と僅かながら思ってます。

ストーカーを演じる時は顔を若くするだけでなく、「やや似てる設定」もあるため顔をCGで弄ったこだわりです。

コチラのウィル・スミス版があったら見たいかも?https://youtu.be/nkS_Ar0Yad0