《推定睡眠時間:20分》
TVシリーズも含めていっぱい作ったシリーズ2作目以降の作品を大胆にもジャッジメントデイしてしまったシリーズ粛正作だそうでその手法は『ハロウィン』シリーズで経験済みなのでとくになんとも思わないが3作目以降を無かったことにしておいてやってることが実質『2』の先端テクノロジーを駆使したリメイクみたいな手堅さっていうのはどうなんだ。そこはもっとあれじゃないのか冒険するところじゃないのか。逆に『3』から先のシリーズ先が冒険しすぎて興収振るわなくなったので守りに入ったのだとすればなかなかかなしい粛正である。粛正なんてだいたいそんなものかもしれませんが。
っていうことなんで若干の追加要素もありつつストーリーは基本『2』の焼き直しです。『2』でスカイネットの誕生と審判の日の到来を阻止して人類の平和を取り戻したターミネーターT-800(溶鉱炉に入る方)とサラ・コナーだったがそうは運命の問屋が卸さない、もうどういう時間軸のあれがあれなのかよくわからないが再びT-800を過去に送り込んだスカイネット的な何かはすっかり平和ボケしたサラ・コナー(『2』を見るとそんな風になる気がしないが)の目の前でジョン・コナーの抹殺に成功してしまう。
これで抵抗の芽は摘まれたのだろうか。いやそんなことはない。新たなる審判の日を間近に控えた数十年後、メキシコのどこかに二人のターミネーターが送り込まれてくる。一人は型番REV-9、自由自在に姿を変えたり破壊されてもすぐ修復したりと基本性能は液体金属ターミネーターT-1000と似たようなものだったが、T-1000がオール液体金属製だったのに対してコアを内蔵した強化金属骨格部と肉に当たる液体金属部のハイブリット構成になっているのがこちらの特徴、それにより本体とは別に液体金属の分身を作り出してキラーマシン的な二回行動が可能になった反則級のマシンである。
もう一人はサイボーグ女戦士のグレースさん。身体改造しまくってるから超人的なアクションができるし視界には各種環境データが投影されるので見た目ターミネーターと変わらないのだが一応人間、人間ということはREV-9の敵だ。
二人が探し求めているのはメキシコシティの自動車工。その工員・ダニーこそが第二のサラ・コナーだっていうんでここに救世主争奪戦勃発、どこからかその情報を聞きつけたサラ・コナーも本人登場パターンで参戦、更にはT-800まで参戦しちゃって大乱闘スマッシュブラザーズのようになってしまうのだった。
はいはいじゃあそろそろネタバレ入ってきまーす自衛してくださーい。
思えば今まで真面目に『ターミネーター』という映画を考えたことがなかったのだが(普通そうだろうと思うが)今回観ていてあぁそうかと閃いた感があったのはこのシリーズというのは『審判の日』(『2』の原題は副題が『Judgment Day』)の語句からしていかにもキリスト教世界の物語なのだった。
公認異端とも言えるヨハネの黙示録では終末の時には七つの封印、七つのラッパ、七つの災厄によってもう地上がボッロボロになってしまう。各段階で神様を信じない人に悪性腫瘍ができたりとか海が血の海になったりとか昼夜が逆転したりとか意味もなく天使が人々を虐殺したりだとか映画一本作れる大惨事である(全部神様の意志でやっているのだから酷い神様もいたものだとおもう)
中でも注目すべきは第一のラッパの段階で、血の混じった雹と火が天から降り注いで草木を燃やし尽くしてしまうという。これは『ターミネーター2』でサラ・コナーが見る例の終末イメージに少なからず影響を与えていそうな感じである。
また七つのラッパが鳴り終わると神の敵対者たるサタンの軍勢に属する獣(666で示されるのがこれらしい)が海から現れる。このへん『ニュー・フェイト』で殺人ロボット軍団が海から現れるものとして描写されていた背景になっているんじゃなかろうか。
キリスト教における最後の審判=審判の日というのはキリストの再臨とセットになっている。世の終わりにはキリストが再臨して神を信じる人だけを復活させて永遠の国に入れてやる。俺はこれが千年王国かと思っていたが、千年王国はヨハネの黙示録に現れる戦争の休止期間的なものを指すらしい。
キリストのくせに器が小さすぎる気がするがそれはさておき、未来の世界で既に人類の救世主となっているジョン・コナーを過去の世界のサラ・コナーが「改めて」身ごもるというシリーズ一作目『ターミネーター』の物語は、こうして見ると聖母マリアの受胎告知や戦乙女ジャンヌ・ダルクのイメージに加えてキリストの再臨のイメージも重ねられているように感じられ、そうとするとサラ・コナーが「審判の日」に固執するのもむべなるかなというところがある。
ヒットする映画にはヒットする理由というのもそれなりにあるもので、なんでアメリカ人そんな『ターミネーター』好きなんだろうと長年思っていたが(いや面白い映画だからだとはもちろんおもいますが)、この濃厚な聖書的ムード、黙示録的ムードがプロテスタントの国アメリカで格別に親しみを感じるものとして受け入れられたんじゃなかろうか、などと思う。
で、なんでそんなことを長々書いていたかというと『ニュー・フェイト』、シリーズの帯びた濃厚な聖書色を塗り替えるようなところがあったからだった。
具体的には女工員のダニーは途中まで第二のサラ・コナー扱いされているがグレースの話によって実はダニー本人が未来の救世主だったと明かされる。
これは地味にかなり果敢な現代風アレンジである。まず救世主が男じゃなくて女だし、従って受胎告知や再臨の要素もない。そのうえグレースは恋愛感情とは少し色合いが違うが幼い頃の自分を救ってくれた未来のダニーをラブく慕っている。ダニーとグレースの関係性は一作目のカイル・リースとサラ・コナーのパラレルと言えるが、カイル・リースとサラ・コナーは恋仲になったわけだからダニーとグレースの間にも友情を超えたものがほのかに漂う。聖書色の濃いシリーズでそれをやることの意味は決して軽くないだろう。
基本的にはすごいアクションがいっぱい見られるだけの映画だとは思うが、そのシチュエーションを作り出すための無味乾燥な焼き直しストーリーも、こう見ればたいへん興味深く思えてくる。冒頭で冒険がないとか書いてしまったがそれは表面的にはということで、その素材に目を向ければ存外チャレンジングな新作だったわけである。
それ以外の見所といえば『ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド』感のあるギミック満載の対REV-9銃撃戦とかもあるが、やはりやはりやはりのグレース役マッケンジー・デイヴィス、きったねぇ白タンクトップで汗まみれになりながら戦うマッケンジー・デイヴィスの女グラディエーターっぷりがあんまりに素晴らしいのでもう脇の匂いを嗅ぎたくて仕方がない。トラックの荷台に仁王立ちして槍投げの容量で鉄棒を投げまくるところなんかフォームも立派でただただ最高。
あぁいう筋肉の躍動はいつもいつまでも見ていたいし今後5D上映が実装されたら脇の下の匂いを出してほしい。本当に素晴らしい脇の下だったと思う。いや違う素晴らしいのはマッケンジー・デイヴィスです。それとマッケンジー・デイヴィスの二の腕ね。後半は出番をシュワとリンダ・ハミルトンに奪われちゃってガッカリだった。せっかく違うタンクトップに着替えたのに!
あとなぜか幼グレースのビジュアルが『スクリーマーズ』オマージュっていうのちょっとだけ面白かったです。正体が潜入型のロボットだから『スクリーマーズ』。素直で良い。シュワとリンダ・ハミルトンの再登板には特に思うところはない。シュワはなんだかんだでほぼ毎回顔出してますし。
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アリシア・ヴィキャンデルの筋肉とタンクトップのみで映画史上の傑作に加わった至高のタンクトップ・アクション。アリシア・ヴィキャンデルお風呂入らないんですよ。劇中でお風呂入らないんですよ! 洗わない汗まみれの脇の下!