《推定睡眠時間:10分》
クロエ・グレース・モレッツは1997年生なので出世作にして代表作の2010年公開映画『キック・アス』の時13歳、その頃はまだキッズだったのでかわいいなぁのまなざしにこもった感情にエロ的なものはなかったわけですが(俺は)、あれから9年、めでたく22歳となったクロエ・グレース・モレッツが『グレタ』冒頭で魅せるぱっつんぱつんのウェイター服姿には萌えええええええええエロを見出してしまう。
だがなんだろうこの罪悪感は。22歳の女優の人に萌えてるわけだからなにも罪悪感を覚える必要はないはずだが、そこは、やはり、『キック・アス』のちびっ子モレッツを見ているので…親のまなざしと言えば嘘になるが! ろくでもない映画ばかり並ぶフィルモグラフィーをちゃんと追って成長の軌跡を見てきたかと言われれば明白な嘘になるが!
やはりなにか、それでも謎の親目線により萌えに抵抗を覚えてしまう。抵抗を覚えれば覚えるほどむしろ変態的に興奮してしまうのだからまことに性欲というものは罪なものですが、ともかく、冒頭からして観客を惑わせる魅惑のクロエ・グレース・モレッツ22歳である。いやもう本当にね、あの無理しない感じの自然体体型と独特のカートゥーン顔がキュートなのですよ、本当に。ちょっと篠原涼子みたいで。愛しさと切なさと心強さが同居しているんだよクロエ・グレース・モレッツには! あの肩幅に守られたい!
客も惑うがユペールも惑う。電車に放置された忘れ物バッグを拾ったモレッツは駅の遺失物係が閉まっていたことから自分で持ち主のおうちに持って行ってあげることにする。黒沢清の映画で陰惨な犯罪が起きがちな住宅街の袋小路にひっそり佇む持ち主宅でモレッツを出迎えたのはいかにもあやしいイザベル・ユペール。
ちょっとお茶でもというのでお茶をしながら歓談しているとどこかからドンドンと激しく壁を叩くような音がして「お隣がうるさくて。核シェルターでも作ってるのかも。あはは。ちょっと静かにしてくれません!?」絶対に嘘な嘘をつく。嘘をついてでもかーいらしいモレッツとお話を続けたかったロンリネスなユペールである。話によれば愛娘はフランスに留学中でとても寂しいらしい。モレッツの来訪は渡りに船。
かくしてモレッツとユペールのハートフル交流が始まる。ユペールは娘ロスで寂しかったが実はモレッツも母親を亡くしたばかりで寂しかったのでこちらはこちらで渡りに船。イイハナシダナー。そのうちユペールはモレッツの萌え萌えぱっつんウェイター服が見られるニューヨークでいちばん行きたいお店を特定してきて外からモレッツを監視したりするようになるのであった。イイハナシカナー?
ユペールがヤヴァァイ人なサイコサスペンスではあるがそんなにキツい描写もないし展開もゆるいので別に怖いものでもない。なによりユペールの捕獲ターゲットはモレッツということでー、モレッツが死ぬわけないじゃんと思ってしまうのがサイコサスペンスとして致命的である。たとえるなら殺人鬼伝説のある森の中のキャンプ場にやってきたのがセガールだったぐらいな感じ。逆に殺されてしまう。
怖くはないが面白くないわけではなかったのであんまり怖いに感情比重を置いて見ない方がいいのかもしれない。ユペールのロボット的能面と空々しい誤魔化しトークは一周してユーモラスでさえある。そんなものモレッツちゃんに通用するわけないではないか。案の定、ユペールに従うふりして調理器具を武器に反撃に出たりするモレッツであった。最後のモレッツ大逆襲もアメリカ的な映画館だったらイエーと叫びたい痛快さである。別にキャットファイトの映画ではないのだが。
相互依存の疑似親子ドラマはサイコサスペンスに針路を切ったことで結局こいつ単なるやばい人じゃんってなるのでその関係性の恐ろしさや底のなさ、あるいは抗いがたい吸引力は逆に見えなくなってしまった。ユペールを凶行に駆り立てたのはこの部分なのだからそこをしっかり描かないでどうするの、とは思うのだがまぁそういう映画でもないから…ってじゃあどこを見ればいいんだよ!
モレッツのぱっつんウェイター姿か! モレッツの一生懸命怯えた演技をするが怯えるにはガタイと体幹がしっかりしすぎているし動作にキレがありすぎるから怯えた感じにならないギャップか! モレッツが開放的ニューエイジャーなルームメイトと会話を交わす時の優等生っぷりか!? モレッツはニット帽がよく似合ってかわいいなぁ! モレッツに萌えてるだけじゃねぇか。でもそういう感想を抱かざるを得ないモレッツ映画であった。ユペールの怪演はここではモレッツの引き立て役である。
あとあの、これは誰に言っても伝わらないんじゃないかと思うのですがモレッツがエレベーターで怪異に襲われるシーンはルチオ・フルチの『マンハッタン・ベイビー』を彷彿とさせましたし(これもマンハッタンが舞台ですし)、ユペール邸の秘密はルチオ・フルチの『墓地裏の家』を思わせましたし、モレッツがユペール邸で経験する受難のクライマックスはルチオ・フルチの『ザ・サイキック』が頭に浮かびましたし、モレッツ危機一髪! なシーンはルチオ・フルチの『地獄の門』っぽかったのでトータルでとてもルチオ・フルチ的な映画でした。そこ面白かったです。グロとかないけどね。
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フルチ・ホラーの中でもかなり陽の当たらない部類に入ると思うが室内シーンでわざわざお得意の俯瞰撮影を試みたりしているし「生きている静物に取り込まれる動物」というフルチ的テーマもよく表れているのでやっつけ仕事では決してない。このあいだ見直したら面白かった中期フルチの怪作。