映画『記憶屋 ーあなたを忘れないー』忘却感想文(途中から忘却注意)

《推定睡眠時間:40分》

オープニングからのけぞる。主人公の山田涼介が人の記憶を消せるという正体不明の人物、通称記憶屋の情報を得ようとネットを覗くのだが、辿り着いたのがhtml的なオカルトサイトの掲示板。オカルトサイトの掲示板かぁ~。しかも一人一人ちゃんとハンネ入れてる~。投稿するとすぐレスが付いてチャットみたいになってるし登場人物がこの掲示板のことをチャットって呼んでる~。

これ原作いつ刊行されたんだろう。2000年代はじめとかならまぁアリか、そこは普通は現代に合せてSNSとかに改変するだろうと思うが色々事情もあるのかもしれないし、と擁護の構えを取りつつ検索すると2015年の刊行。擁護の構えは即座に崩されてしまった。

どういうことなんだこれは。どういうつもりなんだ。スマホがあるにも関わらず「記憶屋は○○に現れるそうです!」の一言を言うためだけの雨の中をダッシュする山田涼介とか。恋人が自分の存在を忘れてしまったらしいことの原因を病気に求める前に都市伝説に求めようとする山田涼介とか。その山田涼介の妄言を一発でオール信じて記憶屋探しを手伝ってくれる弁護士の佐々木蔵之介とか。強盗強姦事件が物語に絡んでくるのだがその被害者リストの載った警察資料を部外者の山田涼介にこともなげに見せてしまう佐々木法律事務所の秘書とか。「強盗強姦犯の余罪」ではなく「強盗強姦事件の余罪」という台詞を法曹の人間が何度も繰り返したりとか…とか!

これ現場にちゃんとした大人いなかったんですかね。いいの? いや、面白いとか面白くないとか以前に…大丈夫なのこれ? 疲れてない? まぁ疲れてはいただろうがそれにしても、さすがに誰か一人ぐらいはここおかしくないって撮る前にツッコミ入れるだろうみたいな場面が多すぎないだろうか。たとえリアルと乖離していてもそれで映画として面白くなるならいいよ別に。そういうの大好き。でもこれは別に面白さと関係ないだろう、この雑さは。

参りましたなぁ。ヒューマンなミステリー映画ですけど何がミステリーってなんでこんな映画ができてしまったのかっていうのが一番のミステリーでしたね。本当謎だよ。どういう了簡なんだろう。山田涼介が平常トーンの会話の最中に突然怒鳴る、手紙を読んで泣きながら身を震わせる、雨の中に立ち尽くしてずぶ濡れになりながら膝からがっくり崩れ落ちる。「うわああああああああああ!」そして絶叫する。どういう顔で演出してるのかと思うし、どういう顔で観ればいいの? 存在すら定かではない記憶屋に会いたいばかりに記憶屋を利用したと彼が推測した強姦被害者の高校生の家に押しかけるサイコ山田涼介をどういう顔で観ればいいというのだ…(※寝てたので事実関係誤認してるかもしれません)

でもこういう困惑が生じるのも結局は話に広がりがなくてつまらないからなんですよね。少しぐらい雑なところがあっても(いや少しじゃないんだけどさ)展開が面白かったら気にならない。佐藤信介の『キングダム』は粗だらけだけどテンポが良いしアクションも面白いしスケール大きいし変なキャラが次々出てくるからそのオモシロで粗が隠れる。
『記憶屋』はねぇ…せっかくいくらでも広げられそうな設定を用意してるのにものすごい狭い範囲をぐるぐるしてるだけで、絵も代わり映えしないしそんなの面白くなるわけないですよねぇ…。

設定ありきではなくておそらく第22回日本ホラー小説大賞読者賞受賞の原作ありきの(この時の大賞が中島哲也の『来る』の原作『ぼぎわんが、来る』なのだから分かりやすい二匹目のドジョウである)企画だろうとはいえ、心の傷を癒やすために記憶を消す特殊能力者の設定で映画をやるならかずはじめの初期漫画『MIND ASSASSIN』の方をやって欲しかった。
『MIND ASSASSIN』は基本的に一話完結なので色んな記憶を消したい人や消されて欲しいやつが出てくる。アサシンというぐらいだから本気を出すとこの主人公、表の仕事は精神科医のマインドアサシン奥森かずいは精神を破壊することもできるっていうんで時にはヤクザ事務所に殴り込みをかけたりもして、なかなかアツイ。

連載期間は短かったがその分うまみが凝縮されて良いエピソードが多かった。飲んだくれ亭主のエピソードとかなぁ、あれはよく出来ていたな、落語の人情話みたいで。
実習先の高校で生徒にレイプされた女教師の記憶を消す回もそういえばあった。生徒のためだからと泣き寝入りした彼女の被害の記憶を消してやって、それから奥森かずいは彼女が身を挺して守ろうとした加害高校生の精神をぶっ壊す。いいじゃないですか。溜飲が下がるとかそういうのじゃなくて、物語の構成として。

マインドアサシンの設定だってさ、元々はナチスの超能力研究で生み出された人間兵器で、奥森かずいはその一人だった祖父から能力を受け継いだ…とこう、ケレン味があるんですよ。で、あらかじめアウトサイダーを宿命づけられた人間の哀しさみたいなものもあるよね。
単純な勧善懲悪じゃないのもジャンプ連載漫画にしては大人感があって良かったな。記憶を消すことで救われる人もいるし、救われない人もいるし、消す側にも葛藤があって。それがこう、かずはじめの無機質でスマートな絵柄で描かれるんですよ。かっこいいよね。色気があるよね。奥森かずいが白衣を脱いで、黒のタートルネックに黒の革手袋をはめて夜闇に紛れていく絵面、いいじゃない。

おもしろいなぁ『MIND ASSASSIN』は。『MIND ASSASSIN』の感想になっちゃった。あれ、ぼくなんか映画観ましたっけ? 思い出せない…ただ、面白くなかったことは覚えている…。

補足:
佐々木蔵之介のユーモラスなお芝居はよかった。ゴルゴみたいに現れる記憶屋は笑えた。あとエンディング曲が大胆にも中島みゆきの『時代』。

【ママー!これ買ってー!】


MIND ASSASSIN 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

これは何の根拠もない流言の類いなので良識ある皆様におかれましてはガン無視を決め込んでいただきたいところではございますがぶっちゃけ『記憶屋』は『MIND ASSASSIN』をパクったと思ってる。あくまで個人的に思ってる。

↓原作


記憶屋 (角川ホラー文庫)

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