《推定睡眠時間:10分》
『スーサイド・スクワッド』がんばってたじゃないですかいやかなり苦しいけれどもかなりとても苦しいけれどもただ苦しい中でそれなりによく可能な限りできる限りはやってたじゃないですか擁護勢としてはなによりもあのDCEU最大の問題作の続編ではないものの単体スピンオフがこうして作られ全国規模で公開された! という事実にDC映画とワーナーの気概を見て心の中で花丸をあげてしまうので面白いか面白くないかでいえばぶっちゃけ普通としか言いようがない『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Birds of Prey』ではあったがすごくよかったです。めでたい。
それで同時に思ったよね。『スースク』、何がダメだったかってあれやっぱヤンキーの映画じゃないですか。監督がストリート系サスペンス・アクションばっか撮ってるデヴィッド・エアーだから発想も感性もヤンキーで、そんな人に世界崩壊の危機みたいなスケールの大きい話題は無理ですよ。だってヤンキーだもん。ヤンキーが守るものなんて家族と仲間と馴染みの飲み屋ぐらいしかないじゃないですか。匿名をいいことにものすごい偏見をまき散らしているが別に悪い意味で言ってないからこれは。ヤンキーって世界よりも地元を大事にする人だと思うんですよね。
その点『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Birds of Prey』がよかったのは変にスケールを大きくしたりしない。世界の危機なんかまったくなくゴッサムシティの危機ですらなくハーレイ・クインほかがギャングの諍いに巻き込まれるだけという壮絶な地元感。すごいぞ! ハーレイ・クインの特殊能力、ローラーゲームと喧嘩が強い! ハーレイ・クインが出会う爆食少女カサンドラ・ケインの特殊能力、天才的なスリ技! ハーレイ・クインと共闘する女暗殺者ハントレスの特殊能力、人に芸名で呼んでもらえないのとあとクロスボウの腕前がいい! ヒーロー映画っていうかこれもうギャングとヤンキーの抗争でしかないだろ。
その上このヤンキー軍団はハーレイ・クインを筆頭にみんなわりと素直なヤンキーなので起こす犯罪といってもせいぜいスーパーで万引きするとかエロ親父をハイエナに食わせるとか化学工場を爆破するとか些細なものだ。一応ヴィランを主人公側に据えた映画ではあるが『スースク』同様に悪さは全然無いね。これだったらバットマンの方が遙かに悪人に見える。でもそれぐらいのみみっちさ、それぐらいのスケール感、それぐらいのヤンキー精神がですね、いいんです。ヤンキーはしょぼい悪相手に地元で暴れてナンボ。『スースク』も無理して世界の危機と闘ったりしないで地元の商店とか守るために闘ってればよかったね。誰が観に行くんだよそんなヒーロー映画! 観たいけど…。
ところでこの映画、邦題も『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Birds of Prey』と長めですが原題は『BIRDS OF PREY (AND THE FANTABULOUS EMANCIPATION OF ONE HARLEY QUINN)』とそれどころではない長さで、しかもメインはハーレイ・クインではなく女ヴィラン(?)チームのBIRDS OF PREYの方。これは作り手のちょっとした遊び心で実際はマーゴット・ロビー演じるハーレイ・クインがやはり主役ではあるのだが、ハーレイ・クインはあくまで自由気ままに行動するファニーな一匹狼。チームを率いたりするわけではなく気が合えば手を貸したりなんかするだけの人。
そのフリーな生き方がBIRDS OF PREYの面々に覚醒を促し…という物語なので本当はハーレイ・クインの覚醒じゃなくてBirds of Preyの覚醒が正しい。だからあえてハーレイ・クインを主語に据えない長い長い原題にはたぶんこのようなニュアンスが込められている。力と権威を一手に握るヒーローの時代はもう終わった。これからは連帯と連名の時代だ。
最近のハリウッドの女性アクションはこういう風に誰か一人を立てるのではなく全員を平等に立てようとするタイプのものが多いが、そのへんの仲間意識もヤンキー精神って感じで好感度の上がるところだった。
内容的にはもう一度言いますが普通。すごい普通。今風の画作りはしているがなんか取り立てて秀でたところもなくめっちゃ普通。逆に、普通を最後まで貫いた潔さが気持ちのいいヤンキー・アクション・コメディである。銃撃戦とか超能力バトルなんかは無きに等しくアクションシーンはもっぱら喧嘩。その舞台も中華料理屋とか遊園地(『ウォリアーズ』か!?)とか全力で地元。緊張感とかそういうのは少しもなくハーレイ・クインはギャングとのゴタゴタの最中にも家に帰ってトゥイーティーとシルベスターのアニメを見ながらシリアルとか食べる。ヴィランが主役のはずなのになんかものすごい平和である。
暗殺者修行を頑張りすぎて他教科がすべてもっとがんばりましょうになってしまった強いが残念なハントレス、メアリー・エリザベス・ウィンステッドが好演。マーゴット・ロビーのハーレイ・クインは『スースク』だとまだ多少のリアリティというか抑制があったが今回はもう、漫画。カートゥーン。おもいっきり戯画化されたその芝居はある意味『岸和田少年愚連隊 カオルちゃん最強伝説』の竹内力と通ずるものがあり、ヤンキー文化は万国共通と思わされる。
ユアン・マクレガー演じるギャングのしょせんそこらのギャングに過ぎないが一般ピープルにとっては絶対に近づきたくない、その微妙なラインの怖さもこういう地元スタイルの映画だと実に効く。表情筋の死んだ常時ローテンションのクソお子様エラ・ジェイ・バスコも小憎らしくて味わい深い。
とまぁそんな感じで、ヒーロー映画的な面白さとしては普通、とにかく普通としか言いようがないのだが、面白さとは別に好感を抱くポイントが多い、そういう映画が『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Birds of Prey』でしたね。
あと、遊園地の美術は『007 黄金銃を持つ男』みたいで胸躍りました。…躍らない?
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好きなんだけど別に面白いわけじゃないっていう映画、人に勧めるに勧められなくて困りますよね。そのぶん愛せるというところもあるが…。
昨夜スターチャンネルで観ましたよ。確かにストーリーは普通だし、
ダイヤをもつ少女といわくつきの女4人の奇妙な関係。そして彼女たち5人対ギャングの対決なんだけど、これがもうお遊戯会なみ。
でも「なぜそうなるの?」と予想を裏切る展開もところどころにあり、それなりに楽しめる作品だったと思いますね。
再放送を観るかって?
多分観ないかな・・
あのバトル描写のヌルさは決着のショボさも含めてもしかしたらティム・バートン版とジェエル・シューマカー版のバットマンのテイストを狙ったのかと思ったり。ハーレイのキャラもちょっとバートン版のニコルソン・ジョーカーのイメージを膨らませてる感じがあるんですよね。そういうのを考えるとちょっと面白い。