【ネッフリ】『ブレスラウの凶禍』感想文(ネタバレなしの安心仕様)

《推定ながら見時間:10分》

「縫い付けた牛革に入れられた死体を皮切りに、18世紀の“疫病週間”に行われた処刑方法になぞらえて殺害された死体が次々と見つかり、ヴロツワフの刑事が犯人を追う」というあらすじを読んでなんて今にぴったりの映画なんだろう! 疫病撲滅のために自粛要請(指示)に従わないパチンコ屋の店舗名を公表してつるし上げたり疫病の流入を恐れて県外ナンバー車狩りを行ったり挙げ句の果ては感染者家族の家に落書き・投石! …いやはや世も末ですな、新型コロナなんぞより人間の方がよほど恐ろしいわいと思わされる昨今であるからタイムリー過ぎて思わず小躍りしてしまったが(するんじゃない)、この「疫病週間」というのは疫病を撲滅するためのものではなく道徳を向上させるためのキャンペーンで、疫病というのは不道徳の比喩らしい。

劇中の説明によればなんでも舞台となっているポーランド・ブロツワフのプロイセン領時代、啓蒙君主フリードリヒ2世は統治に当たって堕落した町を啓蒙するために様々な種類の犯罪者の見せしめ処刑を日替わりで行った。これが疫病週間。タイトルが『ブロツワフの凶禍』ではなくドイツ語読みの『ブレスラウ』になっているのはプロイセン領時代のエピソードだからというわけです。ま、これは実際にあったエピソードではなく監督の創作だそうですが(アクセス稼ぎにしか関心がない映画アフィブロガーなんかに創作が事実にされてしまうと困るのでhttps://www.thecinemaholic.com/the-plagues-of-breslau-true-story/を置いておく)

さてまぁこんな設定ですからあらすじを読んだだけでみんな『セブン』じゃんって思うと思うのですが実際観たらマジ『セブン』。シナリオも『セブン』なら抑揚のないノイジーなサウンドも『セブン』、事件の断片をモノクロ画面に映し出しつつタイプライター風のフォントでキャストのテロップを出していくタイトルバックまで『セブン』のカイル・クーパーを意識しすぎていて笑ってしまう。

だがオマージュは『セブン』だけではない。主人公のアグレッシブ系メンヘラ女刑事の風貌や言動、これは…『ドラゴン・タトゥーの女』のリスベット・サランデルだね、ルーニー・マーラが演じた。どう見てもそう。
『セブン』も『ドラゴン・タトゥーの女』もデヴィッド・フィンチャーの監督作だから要はフィンチャー映画のオレ流再演がやりたかったんだろう。確かに死体の質感とか陰鬱で冷たいムードとかフィンチャー映画っぽい本格感なのでその試みは成功していると言えるが、ネッフリ配信映画なのにそこまで我がなくていいのかよ!? とはちょっと思う。

もっとも俺としてはこういうパチモノは大歓迎なので変にオリジナリティを追求しようとしたりジャンル映画からジャンル映画的ないかがわしさを排除したりしてアイディア倒れ企画倒れになることの多い(※個人の意見)ネッフリ映画としては結構久々に見入ってしまった。
ちょうどいい。実にちょうどいい。こういうやつが観たいなぁ~っていう時の「こういう」にドンピシャで入ってくる映画だ。完璧に『セブン』のパチモノだがパチモノとして一級品と言っていいだろう。なんだか語義矛盾のようですが。

どのへんが一級品かといえばやっぱオリジナルはどうせ超えられないからもっと下品にしてアピールしようぜみたいな志の低い頑張りですよ。これはすごいぞ。『セブン』のパチモノだから『セブン』スタイルの死体が何体も出てくるのですが、その検視解剖の一部始終を誤魔化さないでちゃ~んと見せる!!! 感嘆符なんか三つぐらい余裕であげてしまう。とくに断面の表現が素晴らしかったですね。胴体真っ二つの死体にワオ! 両手首両足首が折られて骨の露出した死体にギャオ! 脳の状態を調べるために電ノコで頭蓋をカットして髄膜でろーんにニャオ! ビューティフルである。

だが無残かつチンコ丸出しの死体を見せるだけの博覧会映画ではない。フィンチャー映画の冷たい空気感を忠実にコピーした本格派というのは先に書いたが、その中にうっかりすると見逃してしまうくらいの慎ましさで挿入されるブラックユーモアや暴力ギャグはどこまでもフィンチャー大好きなこの映画、この監督の数少ないオリジナリティーだ。だいたい冒頭からして殺伐とユーモラス。チンピラ男子連中が主人公の女刑事の乗る車に向かって歩いてくるのだがその時の台詞が「ねぇ、輪姦したことある?」。女刑事は無言で拳銃を見せてチンピラ連中を追い払うのだったが開幕第一声が「輪姦」って! ろくでもなくて思わず笑ってしまうところである。

フリードリヒ2世の行った(架空の)疫病週間とは腐敗を一掃するための啓蒙政策であった。ということはそれに倣った殺人は啓蒙殺人とでも呼ぶべきだろう。啓蒙殺人。グロテスクで冷たくてブラックな笑いが随所に仕込まれたいかにもな趣味系の映画と見えて、その真相は現代社会の抱える闇にあったので読後感は案外重い。それもまたフィンチャー流なのでどこまでもパチモノだが、様々な角度から人間性の欠けた奇特なキャラクター群の面白さもあって、一流のパチモノを超えて「ラース・フォン・トリアーがリメイクした『セブン』」ぐらいの境地には達していたのではないか、と思う。それも他人の褌だが…。

※ちなみにラストシーンもきっちり『セブン』を踏襲しているのだが、ここはパクリやオマージュというよりはアンサーといった趣で、『セブン』のラストを観てからこっちのラストを観ると奇妙な開放感がある。あるいは絶望かもしれない。

【ママー!これ買ってー!】


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『ハイランダー』のクリストファー・ランバートが自分主演で企画してラッセル・マルケイが監督したパチモノ『セブン』の佳作。『セブン』ではディルドー殺人を強要されて裸で号泣していた被虐俳優リーランド・オーサーも刑事に昇格して大活躍。デヴィッド・クローネンバーグの俳優出演も見逃せない。

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