どうぶつトリップ映画『ドクター・ドリトル』(2020)感想文

《推定睡眠時間:0分》

オープニングのムービングロゴに〈ダウニースタジオ〉みたいな感じのやつがあっておろっと思ったとこで製作総指揮に主演のロバート・ダウニー・Jrの名前が来る。自分で作ってるの? 製作の方には妻のスーザン・ダウニーが名を連ねており、知らなかったがこの人は『アイアンマン2』とか『シャーロック・ホームズ』とか最近のダウニー映画の多くを手掛けているらしい。夫婦で作っていたのか。なんだか知らんがイイ話だ。

イイ話なので半年ぐらい前に映画館で予告編を見て動物とお話のできるダウニーってそれまたドラッグやって幻覚見てるじゃんwww的にネタにしようとした(した)自分を恥じてしまった。確かにダウニーは過去数回数十年に渡ってドラッグ絡みでお縄を頂いたドラッグ俳優であるが今ではもうドラッグは克服したらしいしその努力は並大抵のものではないだろう。タバコですらやめるのが大変なんだからコカインで気持ちよくなってた人がコカイン抜きの生活に戻るのは容易なことではない。そんなに頑張った人をドラッグドラッグと揶揄するなんて人としてどうなんだ。

だがちょっとだけかしこまって映画を見始めるとやっぱりドラッグ映画であった。狙ってるだろう! ダウニーお前狙ってただろドラッグネタを! 動物しかいないお屋敷に引きこもって動物言語でお喋りしているところを人語しか解さない一般人に奇異の目で見られるところとか絶対ドラッグ俳優の自虐ネタだろ! だいたい冒頭のロトスコープ風のアニメだってダウニーが豊富なドラッグ経験を活かして迫真のジャンキー演技を披露したドラッグ映画『スキャナー・ダークリー』っぽかったしな! なんとなく反省して損をしてしまった。

その後もあやういドラッギーな描写は続いてどこかの国の王女様が毒ドラッグを盛られて昏睡状態ということでドラッグなら任せろのダウニードリトル招聘(動物を治すためではないのである)、奇しくも王女様を解毒する幻ドラッグはかつてダウニードリトルの婚約者であった女の人が追い求めていたものであったがこの婚約者はドラッグ探しのトリップに出たまま帰ることなくどこかへ消えてしまったということで、娘をドラッグの世界に引きずり込んだダウニードリトルを憎むお父様なんかを巻き込みつつダウニードリトルはダウニーだけに人語を喋るどうぶつたちと共に幻ドラッグを探すトリップに出る。

ドラッグの力を借りれば鯨と話したりドラゴンを見つけたりするぐらい簡単だしアリを買収することだってお茶の子さいさい。端からどう見えているかはわからないがダウニードリトルは楽しそうなトリップであった。

しかし絵面のドラッグ感はともかく展開的にもドラッグ的酩酊感があるというか混乱しているというかなんか結局よくわかんないのだからすごい。一応この映画、物語においてはダウニードリトルはむしろ脇役ポジションであり、王女様の娘だかなんだかの大人びた子供ではなく縮小版の大人というべき鼻持ちならない女性子役(ディズニープリンセス的な)と粗野な農民だかの息子だが心優しく人間よりもどうぶつに共感してしまうタイプの大人びた子供ではなく縮小版の大人というべき鼻持ちならない男性子役が主役格なのであるが、ふたりの交流とか心の動きなどなどはバッサリ編集で刈り取られた形跡が見られるのでとくに中盤~終盤、いったいこのふたりが何のために出てきたのかすらわからなくなってしまった。

だいたい途中でダウニードリトルが訪れる婚約者のお父様が統治する海賊島(?)だって端折りすぎていてなんだったのだかよくわからない。もっと言ってしまえばダウニードリトルと婚約者のエピソードだって冒頭のダイジェストアニメで処理されて終わりなのでこれもよくわからない。最終的に出会うドラゴンがなんだったのかもわからないのわからないずくし。ドクタードリトルのストーリーなんていちいち言わなくても誰でも知ってるだろ、ということなのかもしれないが実撮影分よりもCG合成の方が比率でいえば2:8ぐらいで多いほぼ3DCGアニメな映像もあって、幻覚剤で別世界にトリップしたダウニーの脳内を覗き込んでいるような感覚に陥ってしまう。

子供映画と油断させておいて唐突にぶっ込まれる下ネタやブラックジョークもまた妄想感覚に拍車をかける。アリマフィアのボスの娘とデキてしまった軽薄トンボが娘が自分を見限ってサソリと付き合ってることを知って「アイツのどこがいいんだ! 太い針か!?」って字幕を追いながら目を疑ったよお前はいったい何を言っているんだ。ダウニードリトルが放り込まれた闘技場に現れた人間を百も二百も食ったという凶悪シリアルトラーは実は恵まれない家庭環境に育ち幼少期のトラウマを抱えた要治療動物でありかつて治療を担当したダウニードリトルがちゃんと治してくれなかったと逆恨みしており…病んでるのはどっちだという気がしてくる。

「鉗子をくれ!」「持ってきました!」「それはセロリだろ!」みたいな脳みそが溶けてくる馬鹿げたやりとりを何度も何度も何度も繰り返すあたり、やはり『スキャナー・ダークリー』出演俳優の映画だ。王女様を含め人間の方のドラマがないがしろにされる一方でCGどうぶつたちの西海岸的な下らないやりとりにはきっちり時間を割くという明らかにおかしい関心の比重も『スキャナー・ダークリー』に出た人が作った映画だからなと思えば納得してしまう。

どうかしていると思うが面白かったですよ。ディズニー映画の代替物を求める向きにはまったく勧められないが子供と一緒に観れるドラッグ映画と思えばなかなかユニークで良いんじゃないかな。どのへんに子供と一緒に観れるドラッグ映画の需要があるのかは知らない。

【ママー!これ買ってー!】


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姉妹編。

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